第4話『やすり』って珍しい名前だけど、狭間さんのお父さんが『狭間』を少しずつでも拡げられるように……との願いを込めて付けてくれた名前なんだって。

 教室には、いつものように、既に狭間さんが来ていた。


「おはよう」

「おはようございます」 ……白樺先輩と2人で狭間さんに挨拶をする。


 ……白樺先輩は、狭間さんと比べると『階級』が下らしく、狭間さんには、いつも敬語を使っている。


「おはよう……ございます。 嶺亜れいあさん、どうしました? 朝練は?」


「いや、輪音りんねが、私とやすりさんに何かプレゼントをくれるって言うのでお邪魔しちゃいました。」


「プレゼント?」……と、狭間さんが不思議そうな顔で読んでいた本を閉じ、こちらに向き直った。


「……では……2人に……」


 ……そう言いながら、僕は星に願いを3回唱えたあと、双子座流星帝国の『パルフェ・クトゥール皇女』から送られた『光る砂』を小瓶に分け、それを2人に渡した。


 白樺先輩が瓶をうやうやしく持ちながら覗き込み……「……うわあ〜! めっちゃ綺麗! ……キラキラ光ってる! …… 砂? みたいだけど……これ何?」と言った。


 狭間さんが、光る砂と僕の肩に載っているナメくんを交互に見ながら「……そうか……『ナメくん』は……」と呟いた。


 ……その呟きを聞いた白樺先輩が……「こ、これって…………」と言って、何かを思い出したらしく、急に震えだした。


「そう。 これこそ『被覆素子ライニング・エレメント』……しかも……『特級スペシャル』!」と狭間さんが言った。


「……輪音、ご、ごめん! これだけは貰えない!」……と白樺先輩が、瓶を突き返して来た。


 僕は数歩下がりながら「駄目ですよ! 今日は絶対、2人にこれを差し上げようと思って、ワクワクして持って来たんですから! ……それより、お2人とも、これが何かご存知なんですね?」……と言うと、白樺先輩が「し、知ってるどころの話じゃ無いですよね! やすりさん!」と震える声で言った。


 狭間さんが白樺先輩に向かって頷いたあと、僕に顔を近付け、僕の目をジッと覗き込んだ。 そして……


「……輪音くん……私の瞳の奥をよーて」……と言った。


 言われるがままに狭間さんの瞳の中を覗き込むと……とても澄んだ綺麗な瞳の奥、瞳孔の中が……か、輝いてる!


 こ、これって……まさか!


「……そう……私の眼球と視神経、そして、紅くスカーレットコーティングしてあるけど、この眼鏡は『被覆素子ライニング・エレメント』で構成されてるの」


 ……! ど……どういう……事? 

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