第5話『フラグ』が立って、もうこのキャラクターは悲しい結末が待っている……と思っていたら無事だった時って、私は泣くほど嬉しい時がある。

 ……さて、ナメくんが時間を止めている間に教室を片付けなくちゃ! このままじゃ授業どころでは無い。


 3人とナメくんで、一斉に後片付けを始めた。 


 白樺先輩は、銃座に形を変えた机やら椅子やらを曲げたり伸ばしたりして、元に戻している。 なんちゅうバカぢからだ!


 ……僕が呆気にとられて白樺先輩のお手並みに見惚みとれていると、その視線に気付いた先輩が手を止めて……


「『なんちゅうバカぢからだ!』……とか思って見てるんでしょ!」……とスネたような顔で僕を睨んだ。


「……い、いや! その! ……えっと……」と口籠くちごもっていると……


「私に、こんな事が出来るのは『暗躍者クリープス』が『直接』して来た時だけ。普段はか弱いただのJKなのは知ってるよね? 輪音りんね……?」……と言いながら、小銃に変えたタブレット端末を元に戻し、それを銃っぽく僕に向けた。


 僕が両手を上げて「はい! 存じ上げております! か弱い白樺さん!」……と言ったら、少し離れた所にいた狭間さんが吹き出し笑いをした。 


 それを見た白樺先輩が「あ〜、やすりさん! それ、どーゆー意味の笑いっすかあ〜?」と今度はタブレット端末を狭間さんに向けた。 狭間さんもオーバにー手を上げつつも、笑いをこらえている。


 ……狭間さんも、こんなにフザける事があるんだな……と嬉しかった。


 触手? のような手足を伸ばして机や椅子を片付けていたナメくんも、僕たちのやり取りを見て笑っているようだった。


 ついさっきまで僕が殺されかけ、白樺先輩が大怪我して『暗躍者クリープス』と戦っていたとは思えない、微笑ましい光景だった。


 白樺先輩はさっき「……もうこれからは『先輩と後輩』には戻れないから言うけど……私……輪音の事、可愛くて、大好きだったんだぞ!」って、号泣しながら僕に告げた……。 


 ……恐らく……あの時白樺先輩は……死ぬ覚悟をしてたんだ。 現に、あの時、僕が『コンペイト』で戦わなかったら、かなり危なかったと思う。 『暗躍者クリープス』との戦いは、それ程、危険なんだ!

 


 今、フザけながら語り合える……こんな穏やかな雰囲気が、いつまでも続けば良い……と、心から願っていた。



 ……数日前まで僕が目指していた『完璧な人生』……は『暗躍者クリープス』の影響で創られた、本来、僕が望んでいたものとはかけ離れていたものだった。


 ……だとすれば、僕が目指すべき、真の『完璧な人生』って……?


 ……等と考え込んでいると……「輪音りんね! 手が止まってるぞ!」……と、白樺先輩が、思いのほか、優しい口調で言った。


「は、はい! ごめんなさい!」


 まあ良い! ……戦いは、だ始まったばかりだ。


 僕は白樺先輩が戻した机や椅子を、整然と元の位置に並べた。

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