第3話 最近……トムとジェリーみたいなアニメ……無いよね。

 ドタバタと転びそうになりながら台所に駆け込むと、父も帰って来ていて、母と談笑しながら晩御飯を食べていた。


「……なんだ一生いっせい、お前らしくもない」


「あ! お、お帰り! お父さん ……って、それどころじゃないんだ! こ、この子、弱ってるんだ! どうしよう」


 ……と言って、手の中のナメクジを父に見せた。


 母が、横から覗き込んで……「あら、可愛いわね……この子なあに?」……と、のんびりした声で言った。


「これ、昨夜ゆうべ拾ったナメクジ!」……と言ったら、母さが……


「きゃあ~! ナ! ナメクジ~~!」と、腰を抜かしそうになりながら、テーブルの上のお塩を手にした!


 ……やばっ! お母さん、ナメクジ恐怖症だった!


「ま! 待って、お母さん! 落ち着いて~! 話せば判る~!」


 こんな弱っている子に塩をかけたら、一発で死んじゃうよ! 僕は必死で逃げ回り、母は追いかけ、台所の中は、しばし、某トムとジェリーのワンシーンみたいになってしまった!


 しかし、さすが母だ。 台所は母の巣……ここは……母の狩り場だ! ついに僕は隅っこに追い詰められてしまった。


 「お父さ~ん! 助けて~」


 僕は手の中の子を、父にパスした。


 すかさず母の攻撃の対象は、僕から父に移った! 母は獲物を捕捉したピューマのようにきびすを返し、食卓塩の蓋を開け、父に襲い掛かった!


 ……もうダメか……と思った刹那、父が笑いながら……


「さっちゃん(母『幸子』の呼称)、落ち着きなさい! これはナメクジじゃない。 良く見てごらん」……と言った。


 父の手の中を見た母が、さっきまでのサバンナの猛獣のような表情はどこへやら……「まあ、いやだわ、恥ずかしい……一生いっせいが『ナメクジ』なんて言うから……」と言って、顔を赤らめた。


 な? 何が起こったの?


 僕が父の手を見ると……小さな『奇跡』が起きていた。


 ……この子の頭の上でぽわぽわしていた『ぼんぼり』みたいな丸い部分が大きくなって、背中にくっついていた。


「可愛いカタツムリね」と、母が笑った。


 ……この子……もしかしたら……凄い子なのでは!?

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