ユメカナッ!!クリスマスストーリー

黒羽冥

聖なる夜にきっと……

僕達の住んでいる異世界転移先の世界にもクリスマスというものは存在しているようで…

ある日の朝、寒さで目が覚めて外に出てみると…目の前には真っ白な世界が広がっていたんだ。…眠いな…でもそんな眠気もキラキラした光景に僕は一気に目を覚ます事ができたんだ。しばらく見とれていると後ろから僕を呼ぶ声がする。

「みら!?玄関、開けたのか?めっちゃさみーんだけど…。」

らいとの眠そうな声を聞きながら僕は外の光景を呆然と見ていた。キラキラと光る銀世界がとても綺麗だったんだ。すると奥の部屋からこちらへ向かってくる足音が聞こえる。らいとの足音だ。でも僕は目の前の世界に見入ってしまう。

「おはよう…みら…」

らいとがいつの間にか僕の横に立っていた。そして辺りを見回すと一気にブルブル震え出す。

「うぅぅぅ…さ…寒い……ん?外が雪で真っ白じゃねぇか!?」

らいとも目の前に拡がる雪景色に驚いてるようだ。

「この世界にもちゃんと四季があるみたいだね?」

僕達がそんな話をしていると家の方へ一匹の犬と一人の少女が走り寄ってきた。赤と白の配色の洋服を着た少女と全身茶色のモコモコの毛皮に覆われている小型犬はどうやら僕達に用事があるのかも。

「ん?君は誰?」

僕の言葉に少女は目の前まで来ると呼吸を整える。

「この辺りじゃ見た事ない顔だな…」

らいとがそう言うと少女は自己紹介を始めた。

「私の名前は『サンティア・クロノス』この子は魔法犬『トナー』です。よろしくお願いします。」

彼女はニッコリ微笑んで自己紹介してくれた。

「僕はみらいでこっちはらいとだよ!こちらこそよろしくね!」

彼女は話を続けようとしたけど流石にここは寒い。彼女を応接室に通しお茶を勧めたんだ。いつの間にか自室に戻っていたらいとも服を着替えてきて僕の隣りに座った。

「さて、では…話を聞こうか…。」

らいとがそう言うとようやく温まってきた様子の彼女は口を開いたんだ。

「実は、ここへ来たのは…ギルドのシャノワールさんという方に貴方達の噂を聞いて来ました。」

「ああ…そういう事か、よろしくな!しかしどっかで聞いた事ある名前のような気が…」

らいとはサンティアの名前にどこか聞き覚えがあるようだ。言われてみれば僕もどこかで聞いた気がするんだけどね。らいとの言葉で頭の中で何かを思い出そうとしていると。

「どうかしました?」

サンティアが不思議そうな顔をしたんだ。

「い、いや…なんでもない!さて…じゃあ依頼内容を聞こうじゃないか。」

「僕も聞いてるから話してね!」

僕達はじっと彼女の話を待っている。

「はい……ありがとうございます!では…私の依頼内容の前にこれまでの経緯を説明しますね

。」

彼女はそう言うと一口温かい飲み物をこくりと飲むとふぅーっと一息ついて話し始めたんだ。

「私の家はアイスラッドのウインツと言う村にあります。村には昔から代々一軒だけ魔法使いの血が流れている家系がありその家に産まれし者は全ての人に夢をプレゼントできる魔法を授かると言われているのです。」

彼女がそう言うと聞いていたライトの口が開き僕に話しかけてきた。

「その話を聞くと俺達の世界で言うサンタクロースの事なのか?」

「そうみたい…だよね…」

僕は相槌のような返事をするとらいとは核心に迫る。

「それで俺達にはどんな依頼できたんだ?」

彼女は飲み物を置くと語ったんだ。

「実は、その家というのは私の家で…その魔法を授かるのは男の子…と言われていまして…。

私が産まれると身体の弱かった母は病気で他界してしまい父もあまりのショックで…家を出ていってしまったと言う話を聞きました。まあ…私の記憶にない頃の事です……。」

「なるほど…。じゃあサンティアはその魔法使いになりたいのかな?」

僕が尋ねるとサンティアはその思いをぶつけてくれたんだ。

「はい…私を育ててくれたおじいちゃんはそれは無理な事だから諦めて普通に暮らせと言うけど…。私は皆に夢をプレゼントできる魔法使いになりたいんですっ!!」

サンティアは今まで以上に強い言葉で言ったんだ。その声の強さに彼女の本気の思いを知れた気がする。そんな彼女を見てたらいとは彼女に答える。

「そっか……じゃあサンティアが魔法使いになる為の手伝いをすればいいんだな?で…具体的にどうしたらいい?」

それに答えるように彼女は僕達に説明した。

「私…今年で十六になるのですけど…十六歳になると魔法使いになる試練があるみたいで…それも、もう半月きっている聖なる日に試練があり受かる為のお手伝いをお願いしたくて。」

僕は彼女に質問を投げかける。

「おじいさんから反対はされなかったの?」

彼女は、ため息をつくと語り出した。

「おじいちゃんからは私が女だし試練を受けたとしても力を授かれないのでは?と言うのです。本来なら…。」

そう言うと彼女は少しだけ寂しそうな顔をした後、続けて語り出したんだ。

「そう…本来なら私の父が次の魔法使い候補の予定だったのですけど…父は母と出会い私が生まれて来た事で父は試練を受けるタイミングを逃したけど…その後試練を受けた父は力を授かれなかったらしく。それで父は家を出ていってしまったらしいのです。」

彼女は下を向き考える。そんな彼女にらいとも質問する。

「そうだったんだな…もしかしたらその魔法使いの才能はおじいさんからサンティアに継がれたのかも知れないしな?」

「はい…出ていったと言う父を責める事は違うし、昔から見てきた現役魔法使いのおじいちゃんの…私は…跡を継ぎたいんです!」

僕達はサンティアの強い想いを知れたんだ。

「わかったよ!僕達も精一杯協力するよ!」

「じゃあ早速…サンティア、試練の内容を俺達に説明してくれないか?。」

らいとの質問に彼女は一冊の書を僕達に渡してそして話し始めたんだ。僕達はそれを見ながら考える事にした。

「今渡した書はおじいちゃんからの資料なのです。それを見ていただけたら助かります。その中の書には魔法の試練、仕える魔法動物との共同試練、そして…その力を持つ者の精神が試される…らしいのです。そして試練の日は……聖なる夜…つまり、本番という事。」

そうサンティアが答えるとらいとは提案をする。

「なるほど…それなら魔法をまずは問題ない所まで練習しよう!そしてトナーと共同試練があり本番って事だな!」

サンティアは一度緊張したように見えたけど自分の拳を握り深呼吸する。

「それまでにできる限りの努力しますのでよろしくお願いします!」

サンティアの本気が僕達にも伝わってきた。

「分かった!じゃあ僕達でサンティアを立派な魔法使いになるように協力するね!」

「はい!よろしくお願いします!」

サンティアは満面の笑みで言ってくれた。そうして僕達のサンティアを魔法使いにする為の特訓は始まったんだ。翌日、早速魔法特訓を始める事となった。訓練といえばまずはサンティアの力を見る事から始めなければいけない。そういう話になり家の外に出てサンティアの魔力を試してみる。

「じゃあ…まずは魔法だな?サンティアの得意な魔法は?」

らいとの質問に彼女は答える。

「私の得意な魔法は風属性で苦手は水属性…です。」

風と水と答えるサンティアの表情が言葉にした事で得意と苦手がすぐに分かった。

「なるほど…じゃあ苦手な水魔法を克服しないといけないんだな?」

らいとにそう聞かれサンティアは小さな声で自信なさげに答える。

「そうなんです…私のおじいちゃんは風魔法と水魔法二つを掛け合わせる『氷属性魔法』の雪魔法を使えるのです!だから私に必要な魔法が雪を降らせる事だから…苦手な水魔法を克服したいのです。」

「なるほど…な…水魔法はみらの方が適任だな…で、俺は複数の魔法の合成を教えるよ!」

らいとに変わり僕が水魔法の基礎から説明する。

「さぁ、じゃあ僕が水魔法を説明するね!まずは集中し水の精霊に語りかけ全身が水のタンクになる様にイメージさせる…身体の中心に水面を作り出すんだ…それを放出させたい所…例えば右手を上げてそこから水を出すイメージだよ。」

サンティアが言われるように集中し魔力を貯める。彼女の身体は青色に発光し光は手に集中する。

「今だよ!!」

「はいっ!!」

僕の叫びに続くサンティア…すると彼女の手から水はちょろちょろ流れ出し彼女は頭から水を浴びただけだった。

「あ……うぅぅぅ……つべたい…。」

「ふぅ……練習あるのみ……だね。」

らいとは首を振りながらやれやれといった顔をしてる。僕は肩を落としている彼女の肩を叩く。

「大丈夫、大丈夫!練習しよう!」

僕の言葉に涙をうかべて彼女は返事をする。

「はぃぃ…」

そうして練習する事、数日…サンティアは何とか雪魔法を使えるようになったのです。

「ふぅ…ふぅ……いきます…。」

サンティアが僕達の前で魔力を溜める。彼女の身体は緑と青に交互に発行していく。風と水が混じり合い……そして……。

「雪魔法……スノーシャワー!!」

サンティアが魔法を唱えると…何も起こらない…しばしの静寂……失敗か?僕達は諦めかけたその時…空からひらひらと舞い散る花びらのように白い何かが降ってくる…。

「ん?……雪……?」

静寂の中に僕の声だけが辺りに響き渡る。そしてまた辺りは静まり返ると……雪はその数を増やし天候は雪へと変わった。

「やった!成功しました!」

サンティアが飛び跳ね喜ぶとらいとの顔もホッとした笑顔になる。

「やったなサンティア!」

「はい!ありがとうございます!」

まずはサンティアの努力で魔法は成功!次はサンティアとトナー二人の絆の試練だ。それには 二人で協力していかなければいけない。正直自分一人で努力すればいいだけの方がまだ楽なのだろう。元々幼い頃から共に暮らしてきた二人は仲良しなのだ。それを信じるしかない。

「さて…じゃぁ、二人の絆を確かめる試練を乗り越えないといけないんだけど。」

サンティアとトナーにある事をしてもらう。これは二人で魔法使いになる為の試練なんだ。

「いいかな?サンティア?おじいさんの書から色々話は読ませてもらったよ?トナーを空飛ぶトナカイにする為の試練、それは…トナーに魔力を宿らせる為に『魔法の果実』と呼ばれる実をトナーに与える事。その実を探してトナーが力を授かれたら成功なんだ。」

僕の説明を、じっと聞いていたサンティア。

「あの…それで具体的には私とトナーはどうすれば?」

サンティアの不安気な顔を見ながら僕は説明をした。サンティアは真剣に聞いてくれたようだ。

「じゃあ、私はトナーと二人で魔法の果実を取りに行きます!場所を教えて貰えますか?」

僕は頷くとおじいさんから貰った地図を渡した。

「ここはアイスラッドにある氷の塔と呼ばれる場所。そこに行くまでが過酷でその道中に聖地の森と言われる森があってそこに『魔法の実』があるみたいでね?それを見付けてトナーに与える事、そして氷の塔へと向かう。それがサンティアとトナーの試練みたいだよ。」

おじいさんの書の内容をサンティアに説明すると彼女は頷き答える。

「なるほど、わかりました!私そこに行きます!」

サンティアはそう言うと準備を始める。

「おっ?サンティア!準備始めたか?」

するとらいとが応接室に入ってきたんだ。

「二人にはお世話になりました!後はトナーと二人で行かないと!」

彼女は笑顔で言うとらいとはサンティアに提案する。

「まてよ?サンティア!試練の塔までは俺とみらも着いていくぜ?」

「えっ?それってどういう……」

「だからさ、僕とらいとは試練の塔には入れない……でもそこまでなら僕達も力を貸していいみたいなんだ!」

孫娘の為のおじいさんの優しさなのだろう…でも最後の試練の塔が本当の二人の力を試される場所なのだから……。そして僕達四人は聖なる日を迎える為にアイスラッドに向かったのだった。

僕達の街からアイスラッドまでは船での移動となる。船に乗り込みアイスラッドへと向かう事になったんだ。今年の僕達のクリスマスは正にこれから…その為にアイスラッドへ向かうのでした。

船に乗って一日、真っ白な島が見えてきて一面が真っ白の島。中央には山があるそんな島に僕達は上陸したんだ。そして船から降りる僕達四人はサンティアの家へと向かうのでした。

「凄いねアイスラッド!一面が銀世界じゃん!」

らいとも港町を見回しながら歩いている。そしてサンティアも僕達に街の様子を説明しながら歩いている。

「でね?あそこの店のホットミルクティーが私は一番好きなんだ!」

そんな話をしながら歩いていると街の出口付近に一人の老人が立っていた。

「えっと…ん?誰だろう……」

「おじいちゃん!!」

サンティアは駆け出して老人に抱きつく。そっか、この優しそうな顔立ちと真っ白な髭が特徴のこのおじいさんがサンティアのおじいちゃんか。

「こんにちは!僕達は今回サンティアのお手伝いをする事になった僕はみらいといいます!」

「俺はらいとだ!よろしくな!」

僕達が自己紹介をするとサンティアも紹介してくれたんだ。

「おじいちゃん!この人達が私がお願いして着いてきてくれた二人だよ!」

おじいさんはニコリと微笑むと語り出した。

「ようこそ!アイスラッドへ。そしてこの度は孫の頼み聞いてくれて本当にありがとう。ささ、立ち話もなんだ。我が家へ行きましょう。」

そういうとおじいさんは家まで連れて行ってくれるという。ウインツまでは数キロあるらしいのだが…。僕達が街を出るとトナカイのソリが用意してあり僕達を乗せてソリはウインツを目指しそして…半刻後、サンティアの住むウインツに辿り着いたのだった。

「おお!凄くいい村だね」

アイスラッドの港町は街という規模なのだがウインツは村人も数十人という小規模で買い出しなんかはアイスラッドに皆行くらしい。だからサンティア達も村人も家族の様に皆仲良しなんだそうだ。僕達は村に着くとサンティアの家まで案内される。

「さて。そちらに座ってくだされ…。」

サンティアのおじいちゃんは僕達を温かい暖炉のある居間に通すと温かいミルクティーを僕達に出してくれた。僕達が身体を温めているとサンティアが部屋から戻ってきて腰を下ろし話を始める。

「みらいさん、らいとさん、本当にありがとう!」

「いやいや、大丈夫だよ!こちらこそこれからだからよろしくね!」

僕に彼女は笑顔でかえしてくる。そんな話をしているとおじいちゃんも腰を下ろしゆっくり話し始める。

「実はな…サンティアに、ここまで頑張ってきたのだから真実を告げようと思うのだ…。そして、みらいさんとらいとさんもサンティアに力を貸してくださるのであれば聞いてほしいのです…。」

「えっ?おじいちゃん?」

サンティアも知らなかった真実を…僕達も…教えてくれるのであれば知りたい…それが今必要な事だと僕も思ったし…らいとの顔を見ると真剣に聞いてるって事は話を聞くって事なんだろうな。するとおじいちゃんは語り始めたんだ。

「いいか…サンティア…お前の父親はな…今のお前と同じく、わしの跡を継ぐ為に魔法使い『サンタクロース』の試練を受けたのだ。ところが…お前の父は試練中に不慮の事故にあい…亡くなってしまったのだ…。」

サンティアのおじいちゃんはそう言うと…涙を流し言ったんだ。

「なぜ!あいつは死ななければならなかったのか!?わしには!わしには分からないんだっ!うぅぅぅ…。」

おじいさんは涙を流し叫んだんだ。僕達がじっとその事実を聞き待っていると、サンティアは語り出した。

「おじいちゃん……話してくれてありがとう…でも私…行くよ。私がおじいちゃんの跡を継いで立派な魔法使い『サンタクロース』になるよ!」

そう力強く言ったサンティアの足にトナーは擦り寄る。トナーを抱き上げ抱きしめる彼女を僕達は肩を叩く。

「サンティア行こうぜ!」

「僕達がいれば大丈夫だよサンティア!」

「うん…ありがとう二人とも…。」

サンティアは流れる涙を手で拭くとおじいちゃんに寄り添い抱きしめる。

「おじいちゃん…本当にありがとう…私…皆が…おじいちゃんがいてくれるからきっとサンタクロースになってみせるわ!」

サンティアは僕達に目で合図を送ってくる。

「おじいちゃん…行ってきます!」

そんなサンティアの元気な声と共に僕達は家を出発したんだ。

サンティアの家を出発した僕達は魔法の塔を目指すのでした。塔への入口にある聖地の森は昔から邪を立ち寄らせないと言われる程の聖地で天の力が日となり照らされているとサンティアのおじいちゃんから聞いてきたのだった。

「しかし…そんな聖地って呼ばれてる場所…危険なのか…?」

らいとがそう話すとサンティアの口が開く。

「おじいちゃんがサンタクロースの試練を受けに来た時には本当に聖地だったみたいです。ただ……。」

「ただ……何??」

僕が聞くとサンティアは震えだし表情を強ばらせて言った。

「おじいちゃんがサンタクロースとして活躍してるけど、父の試練の時にある事件が起こったそうなのです。」

「ある事件って…なんだ?」

らいとの質問に答えるサンティア…おじいちゃんから衝撃的な細かい話を聞いたのだろう。

「試練の塔には『聖なる番人』と呼ばれるサンタクロースへの審判を行なう者がいるらしいのですが……その番人は神聖な存在な為、少しの邪な心とかにも反応し『神の鉄槌』を下してしまうのです。」

そこまで話すと落ち着きを取り戻した彼女は続けてくれたんだ。

「父の試練の頃…そう…その数ヶ月前ほど…突然試練の塔付近の天候が急な闇に包まれたのです。それから白いいつもの姿には戻らないまま父はそれでも『サンタクロース』になる為に聖地の森、そして試練の塔に向かったと言うのです…。それ以来父の姿を見たものはいません。」

「そんな事があったの……か。」

らいとがそう言いながら黙々と歩いている。僕もトナーの後を歩きながら聞いていた。

「サンティア!行こう!僕達が着いてるよ!」

サンティアは少し驚いた顔をして僕達を見ていた。

「ん?どした?サンティア?」

「あ……いや…二人は怖くないのかなって……」

僕はどちらかと言うと怖いのだ…足はサンティアに気を遣わせないように震えを我慢していたし正直こういう時のらいとが羨ましい。

「あ?怖い?なにがだ?」

「えっ?だって私の父も危険な目にあい…生命を落としたんですよ?やっぱり貴方達には危険な目にあってほしくないって今は思ってしまう……。」

僕は震えがとまらず我慢の限界…足はガタガタ震えながら、でもサンティアに言った。

「だ…大丈夫だよサンティア!ぼ、僕達に任せておきなよ!」

僕の今の表情はきっとらいとがみたら笑うんだろうな…。そう思っていると。

「ほら…やっぱり震えてる!私一人で大丈夫だから…みらいさんもらいとさんもここまでで大丈夫です。」

サンティアのそんな話…聞けるわけないじゃんか!?そう自分に気合いをいれる。

「サンティア…みら…俺についてくれば大丈夫だ!いくぞ!」

らいとの声に僕は自分を取り戻し震えが不思議と止まったんだ。サンティアも、ふっ…と笑顔になるとまた歩き出す。僕もいつからいとみたいに頼れる人になりたいな。

「あ!トナー!待ちなさい!」

そんな話をしていた僕達の列からトナーが抜け出し森の入口で座り待っている。

「もしかしたら一番勇気があるのはあいつかもな?」

らいとが笑って言うとサンティアも笑顔になる。そして僕達は聖地の森へと辿り着いたのです。

「ここが聖地の森…この奥にトナーの為の魔法の実がなってるのね?」

サンティアはそう言いながら…でも中に何かを感じてるみたいだ。らいとも何かを感じてるらしい。

「中に邪悪の気配がするな…それも…デカい。」

らいとがそう言うなんて余程大きい邪悪な気配なのだろう…でもこれを僕達は乗り越えなければ…サンティアをサンタクロースにする為に。

そう思っているとまたトナーが匂いを辿り奥へ奥へと僕達は進んだ。大分奥まで入ってきたみたいだ。

「結構奥に来ましたね?塔もここからならあまり遠くありませんね。何もなくて良かった。」

サンティアがホッとした表情を浮かべると一瞬顔が凍りつく。トナーも立ち止まり吠え始めた。僕達も辺りの白い木々のざわめきに周辺を見回しながら構える。すると…目の前の大木から声がする。

「おっほ〜!なんだよ!人間三匹と犬…か?」

突然デカい声でそんな声が聞こえたかと思うと上から巨大な塊が落ちてくる!僕達は身をかわすと武器を構える。

「ほぉ~?よく俺様の攻撃をかわしたな?……俺様は『雪ムカデ』の獣人ムカイル!お前らはサンタクロースの志願者か?」

男はそう言うとそのデカい身体を揺らしながら聞いてくる。その男は巨大な身体に手が六本それぞれに巨大な槍を持ち硬い鎧を身に纏っている獣人だ!

「どうして…こいつは一体何者なの?」

サンティアは震えながら怯え出す。僕も今まで以上のプレッシャーをこいつから感じる。らいともこいつ相手に力を感じてるみたいだ。すると男は語り出す。

「ふはは…お前ら、この俺様がどうしてこの聖なる森にいるのか?って顔してんな。」

「ここは聖地の森で神聖な森なんだ。お前が汚していい場所じゃないぞ!」

僕は奴を睨み言い放つ。すると顔に笑みを浮かべ男は言った。

「おもしれぇだろ?この俺がここにいれる理由をお前らの冥土の土産に聞かせてやるよ?」

男はそう言うと語り出した。

「あれは数年前…俺はごく普通の一匹のムカデだった…そんな俺はいつの間にか、この森に迷い込んでしまってな…空腹で迷ってるうちに偶然この木に辿り着いたんだ…そして俺はこの木の実を食うようになってな…この木の実は魔力が宿っていてな。ある者は力が暴走して壊れ、俺も力が暴走し、もうダメかと思った時、奴と出会ったのだ。」

そう言うとムカイルは僕達を見ながら続けた。

「そいつはペットを連れてきてな、話を聞くとサンタクロースになる為にここに来たって言うじゃねぇか。そいつは俺の暴走を止め救護をしてくれてな…。」

まさか…こいつを救ったのはサンティアの父さんなのか…?僕がそんな考えをし彼女を見るとサンティアも同じ気持ちの考えじゃないかと思ってしまう。でもじゃあ何故こいつは生きてるんだ?

「俺様を救った男は自分の事を顧みず俺様を救ったのだ。そんな俺は自分に力が宿った事に気づいてしまったんだ。そして…俺は……気がついた時…奴を食っちまってたぁぁぁー!」

男は、そう言うと大笑いをしている。

「あーっはっははは!おもしれぇ!おもしれぇだろ?」

「そんな…う…うぅぅぅ……父さんが!父さんがぁぁ……」

サンティアはよろよろと座り込むと泣きだす。

「なんだなんだ?もしかしてあいつはお前の父親だったのか?あーっはっはっ!」

僕はサンティアの肩をしっかりと抱きしめ彼女の悲しみを癒す為に。すると…トナーもサンティアの元へ近づき彼女を癒そうとしている。

「あれから俺様は実を食い魔力をあげて今ではこうして獣人としてもパワーアップしていてな…この森に近づく者は俺様の餌にしてるんだよ?あっはっはぁ」

男はそう言うと僕達に近づいてくる。

「いち、にぃ、さん、しぃ~お前ら四人しばらくは俺の食料に困らんな。じゃあ…まずは、一番美味そうな…おっ!そうだ!あいつの娘だったな…お前も俺に食われて父親と天国で会えばいいさ…あっはっはっはぁ…ん?」

男は急に何かに気づいたようだ…僕にもそのあまりにも大きい気を感じ後ろを振り向くと…そこにはらいとが静まり立ち尽くしていた。

「えっ?らいと…さん?ダメです!早く逃げて!」

「らいと!ダメだよ!あいつは危険…だよ…?」

僕は何度もキレたらいとを今まで見てきている。その中でも今日のらいとは異質だった。まるでらいとの中の何かを起こしたかのように。

「おい…ゲテモノ……。」

「なんだと、このガキが!!…フン…いいだろ…まずはお前から食ってやる!」

そう言うとムカイルは自慢の槍を振り回し始めた。ムカイルの槍は赤く刃は数刃に分かれていて鋭利に赤く光っている。ムカイルは地面に突き立てると地面に亀裂が入り地面が揺れ始める。ゴゴゴゴゴゴォと地響きが鳴り大地が揺れる。そして、大地の動きが止まると地面から岩の百足が数匹現れ僕達に襲いかかる!

「くっ!やばい!」

僕は叫びサンティアとトナーを守る。

「キャッ!トナー!」

「生活魔法!『スポンジシールド!!』」

僕達を巨大なシールドが盾になり守る。巨大な岩は方向をかえ激突して割れる!らいとにも数匹の百足が襲いかかる。

「らいとーーー!?」

ザシュッッッ!!!!!その時、何かがらいとの目の前に飛び出した影を僕は目にしたんだ。それはトナーだった。

「トナー!!いやぁぁぁ!!」

サンティアは大声で叫んだ!そしてトナーがムカイルの槍で貫かれたように見えた。

「あーっははは!!最初の獲物は犬とはな!俺の餌になりやが……!?…」

ムカイルの言葉が途切れ震えはじめる。

「がぁぁぁっ!!くそっ!てめぇ!何しやがった!?」

ムカイルが叫ぶとトナーを貫いたと思えた岩の百足化した槍は粉々に砕け散った…。見るとらいとの手には銃口から炎と雷が宿った刃が見えていた。

「あ?てめぇは俺を久しぶりにキレさせた奴だ…」

らいとはそう言うと抱きかかえ無事だったトナーをサンティアに返すのだった。

「大丈夫だサンティア!俺とみらいでこいつは仕留めてお前の父さんの思いは半分引き継ぐ。だからお前とトナーは残り半分を引き継ぎ魔法使いになるんだ。」

僕は立ち上がりらいとの隣りに立ち構える。僕の手にあるステッキは形状をどんどん変えていく。

「いくよ!ムカイル!次は僕の番だ!」

「はぁ?さっきまでそこで泣きづらかいてた奴が…偉そうなんだよ!!」

ムカイルの槍がまた数匹の岩の百足の攻撃を繰り出し僕達に襲いかかる!

「僕は…もう逃げないよ…君はもう消えるんだから。」

みらいの身体は虹色に輝く。それは何色にもなり得るという魔力の証…らいとにはない、みらいの力それは夢を力にできるんだ。

「マジカルステッキ!弓矢変化!『シャイニングスター!!』」

僕が空に放った弓矢は天高く打ち上がる。

「フン!なんだそりゃ…どこ狙ってんだよ。」

ムカイルは鼻で笑うと僕に向かって襲いかかる!

「バカは君だよ……。」

僕の弓矢を放った先の空がキラリと光る。

「生活魔法!早送り。『スーパースピードアロー!!』」

超高速の矢がムカイルに向かって雨のように降り注ぐ!

「ぎゃーーー!!」

ムカイルの身体は僕の高速の矢によって貫かれボロボロになっていく。矢の雨がおさまるとムカイルはフラフラしながら立ち尽くしている。

「お前ら…よくも……」

らいとは僕達の前に立つと構える。

「あ…?お前は消えるんだ……。じゃあな…。」

らいとがムカイルに向かい構えると銃口はキラリと光り…その光はどんどん巨大化していく。

「果てろ…『レーザーショット!!』」

らいとの技は空をそして辺りを眩いほど光らせその光は徐々におさまっていく……。そして……

「二人とも大丈夫?」

サンティアとトナーは僕達方に駆け寄ってくる。僕達はそんな彼女の背中を押してあげる。

「ふ…大丈夫だ!サンティア……お前は魔法使いになれる!俺が保証してやる!」

「そうだよ!サンティアとトナーはここからだよ!頑張って!」

僕がそう言うと、サンティアは僕達に笑顔を向けている。

「本当にありがとう!二人とも!ここからは私達の番ね…。行ってきます!」

「お!そうそう…トナー!こっちに来いよ?」

サンティアはトナーをらいとの元へ連れていく。そう…らいとはいつの間にか『魔法の果実』をとっていてきたのだ。らいとはトナーの口元に持っていくと、トナーはパクリと食べてしまう。

「あーーーっ!」

僕とサンティアは思わず叫んでしまった。トナーはムシャムシャ魔法の実を食べている。

「大丈夫……かなぁ?」

「トナー……頑張るんだよ!私が着いてる。」

サンティアがトナーを撫でるとトナーは急に苦しみ出す。トナーの小さな身体は痙攣しガタガタ震えトナーはもがいている。サンティアはトナーを抱きしめながらトナーが暴れないようにとめている。

「トナー!大丈夫かな……」

僕がそういうとトナーは見る見るうちに身体が大きく変化していく。あのムカイルもこんな状態になりあんなモンスターへと変化したのだろう。そう思って見ているとトナーはトナカイ程の大きさになりサンティアを吹き飛ばす。

「キャッ!」

見ていたらいとがサンティアを、抱きとめる。

「大丈夫か?……今…あいつは必死に闘っているんだ。自分の大切な主人であり友達のお前の為に…。」

サンティアは涙を流し叫んだ!

「トナーーー!!!」

そしてフラフラと立ち上がりトナーの元へ近づいていくサンティア……。トナーはそれでも苦しみもがき暴れている。

「トナー……苦しい…よね?……ごめんね…私の為に…本当にごめんね……。」

サンティアはそう言うとトナーを抱きしめる。彼女を振り払おうとトナーが暴れる。でも必死にサンティアはしがみつく。

「トナー!貴方は私の大切なお友達だよ!ずっと…ずっと…一緒だよ。」

サンティアは涙を流し呟く。すると…急にトナーの動きが止まる。トナーは涙を流し出しブォォォという叫び声をあげる。僕達はそれを見ていた。その時!!徐々にトナーから魔力を感じとる。

「やったか?」

らいとはそう言うとじっと見守る。

「静かになったね……。」

僕がそう言うと泣きながらトナーに、しがみついていたサンティアはゆっくり目を開ける。

「トナー……??」

トナーの身体は聖なる光で発光した立派なトナカイの姿へと変化して立ち尽くしていたのだった。

「こいつはすげぇな……。」

らいとがそう呟く。確かに僕から見てもトナーは立派なトナカイへと変わっていたんだ。

「これなら…きっと大丈夫だね!サンティア!」

僕はそう言うとサンティアは僕達の方を向いていた。

「二人ともありがとう!今度こそ、最後は私の出番だから…。らいとさんの力、みらいさんの力、そしてトナーの力、おじいちゃんと父さんの思い、皆が私に力を貸してくれてる。私頑張るから…見てて…。」

そう言うとトナーはサンティアを背中に乗せた。

「ん?いいの?トナー?」

トナーが頷き歩き出す。森の奥へ、試練の塔へはサンティアとトナーしか入れないのだから。

こうしてサンティアはトナーの背中に乗り試練の塔へと向かっていった。

いつの間にか辺りは暗くなったがそこは聖地の森…木々が青白く発光し森とそして目の前にそびえ立つ塔は黄色と灯りがオレンジ色で灯されサンティアとトナーにはとても幻想的に見えていた。塔の入り口に立ち塔を見上げる二人。

入口には何やら文字が書いてある。よく見るとそこには『この扉を開ける者は力を持つ者のみ。』

「これってそれ以外が扉を開けようとしたらどうなるんだろう……。」

サンティアはそう言うと扉に手をかけてみる。すると扉は手が触れた所から光出しサンティアの身体とトナーの身体は扉の中へと吸い込まれる。

「キャァーッ!!」

一瞬の出来事に驚くサンティアが気がつくと自分とトナーが塔の中に入れた事を知れたんだ。そして中を見回すと遥か上まで続く螺旋階段。その一番上には展望台があるようだ。向かうのはその展望台だろう。二人は螺旋階段を登っていく。慎重に確実に緊張で沈黙しながらも何とか最上階へと辿り着いたのです。最上階の扉を開くと、そこはこの世界の全てが見えるのではないかと言わんばかりに遠く遠く遥か遠くまで拡がる大地と海が暗い中薄らと見えていたのです。

「凄い……。あ!トナー!大丈夫?」

トナーも隣りで落ち着いたようだ。二人はその景色を見ていると後ろに何かを感じたのです。

二人が振り返るとそこに青白い光が天から差し込み見えている姿は大きな鉄槌を持ったサンタクロースの衣装を身に纏った大きなフクロウだった。

「私の名はサンタグレース。この塔に住み遥か太古よりこの世界を見てきた者。そして今はサンタクロースへとなる者の審判をする存在だ。」

その姿、その声、そのキャラクター感にサンティアは思わず緊張感が脱力し笑顔になる。

「あ、私の名前はサンティアです!そしてこの子がトナーです!この度魔法使いになる為にここへ来ました!どうぞよろしくお願いします!」

サンティアが挨拶をするとサンタグレースは彼女の周りを歩き出しジロジロ観察している。

「えっ?え?ど、どうしたの?」

思わずその行動に驚いたサンティアは言ってしまった。すると、彼は立ち止まり答える。

「お…お前は見た所女…じゃねぇか!?どういう事だ?」

「え…あ……いや……その…実は……。」

サンティアは今までの経緯をサンタグレースに話したのだった。自分が女子で生まれてきた事。本来、来るはずであった父は思い半ばで来れなくなった事、それでもおじいちゃんはここへ来る事を認めてくれた事、それをじっとサンタグレースは聞いてくれたのです。

「そうか…お前のおじいさんがサンタクロースになってから随分時が流れたなと思っていたらそんな事があったのか…。」

「はい………。」

そんな話をした後、彼は私に問いかけてくる。

「おい…後はお前の意思のみだ。どうだ?サンタクロースと言う名の魔法使いになりたいか?」

「はい……私、昔からおじいちゃんだけがいつもいてくれた家族でそんなおじいちゃんが魔法使いだって言う事。それが本当に素敵で、私も魔法使いになりたくて…おじいちゃんみたいに世界中の人に夢を与える事ができるそんな魔法使いになりたいんです!!」

私が思いをぶつけるとサンタグレースは話してくる。

「お前の気持ちは分かった。いいか…サンタクロースになるという事はどういう事かをお前も知らなければならんのだ。」

そう言う彼は続ける。

「サンタクロースだとて人間なのだ。生きていれば良い事も悪い事も両方ある事が当たり前。それでもこの日クリスマスにはサンタクロースは皆に夢を与える事をしなければならない。その為に毎日を精一杯生きなければならない。」

そんな普通のような話をされるとは思わなかったサンティアはポカーンとしてしまう。

「あははっ!じゃあ、私はきっとサンタクロースできるよ!人の笑顔が大好きだもん!」

最高の笑顔でそう言うサンティアに審判サンタグレースの審判が下される……。


その頃…地上では……。

「ねぇ!らいと?サンティア達大丈夫かな?」

「ん?サンティアとトナーなら大丈夫だろ?」

「そうだね…きっとあの子なら……」

「サンティア…」

私はトナーとこの街の灯台に立っていた。皆が私を応援してくれてる。みらいさんにらいとさん。トナーにおじいちゃん…私…皆の力を借りて…頑張る!サンタクロースになって皆に夢を届けたい……。私が願うと私の身体は光に包まれていく。そして………

「あ!あれは??」

「サンティア…かな?」

僕達がそんな話をしているといつの間にか隣りにサンティアのおじいさんがいたのでした。

「やったな…おめでとう!サンティア。」

おじいさんもサンティアの成功が分かったようだ。そして僕達が夜空を見上げると…トナーはトナカイへと身体は変化しトナーがひくソリには魔法使い…ではなくサンタクロースになったサンティアが乗っていたんだ。サンタクロースのサンティアは笑顔で魔法を唱える。

『happyᔦᔧ✩MᵉʳʳʸXᵐᵅˢ✩ᔦᔧ』

ほらね…皆に『夢』が届いたみたいだ。

ジングルベルジングルベル。鈴が鳴る〜♪

𓂂𓈒𓏸 𓂂𓈒𝕄𝕖𝕣𝕣𝕪𝕔𝕙𝕣𝕚𝕤𝕥𝕞𝕒𝕤 𓂂 𓈒𓏸𓈒


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ユメカナッ!!クリスマスストーリー 黒羽冥 @kuroha-mei

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