文化祭でミスコン一位の好きな子に公開告白したら、「ちょっと待ったッ!」の声が響いた。ライバルかよ……って思ったら、あれ? 引き留められてるの、俺っぽい

本町かまくら

  


「真白さん! 好きです、俺と付き合ってくださいッ!!!」


 スポットライトに焼かれたステージの上で。


 俺は『ミス白百合』のたすきをかけた銀髪の美少女にそう言い放った。


 観客の罵声を含む歓声がうるさいはずなのに、今は何も聞こえない。


「(こ、これが公開告白ってやつか……!)」


 前々から計画し、何度もアイツと練習した告白さえ、まともにできたか分からない。


 目の前で神々しいオーラを放つ俺の好きな人、真白優月(ましろゆづき)さんが俺のことをじっと見つめる。


「(え、え? な、何の間だこれ何の間だ⁈)」


 焦る気持ちが、額に流れる汗を加速させる。


 もしやフラれるのでは……という最悪の事態ばかり想像してしまい、俺は必死にそれから意識をそらした。


「わ、私は……」


 瑞々しい唇から、微かに言葉が漏れる。


「(く、来る……ッ!)」


 もはや告白したことを白紙に戻したいと思いながら、唇を噛んだその時。




「――ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」



「「⁈⁈」」


 観客席の方から声が響く。


 この状況下での「ちょっと待った」宣言。


 間違いない……ライバルの出現だ。


 真白さんは何度も言うが今年のミスコン一位。そんな美少女を好きな奴は他に居るわけで。

 

 俺の告白に割り込んでくるのはおおよそ想定内だった。


 どいつだ……と観客席を見渡すと、一人の生徒にスポットライトが当たった。


「み、美緒⁈」


 そこに居たのは、俺の幼馴染である美緒だった。


 うっすらと涙を浮かべて、俺の方をじっと見つめてくる。


「私は、勇気のことが好きです! 私と付き合ってください!」


 いや引き留める方俺かよッ⁈


 普通こういうのって告白されてる方が好きだから名乗りを上げるんじゃないの⁈


 え、俺⁈ たった今真白さんに告白した俺⁈


 今俺が告白したんだから、勝算なくない⁈ 無謀な挑戦過ぎない⁈


「好き、大好き! だから私と付き合って!!!!」


 え、えぇーーー……。


 呆然と立ちすくむ俺。


 ってか、お前昨日俺に「勇気ならきっと成功するよ、頑張って!」って告白を後押ししてくれたじゃん。


 しかも俺の恋愛相談に乗ってくれて、告白の練習を一か月も前から付き合ってくれたの、美緒じゃんッ⁈


 どうしたらいいの、これ。


 野次馬がとんでもなく騒いでいる。


 美緒もかなり人気の女子で、罵声がさっきよりも増した気がする。


 美緒と目が合う。


 頬をぷくーっと膨らませて、今にも泣きそうな顔で俺を見つめる美緒に、俺はどうしたものかと頭を悩ませていた。


 美緒は昔からずっと一緒にいて、いつも俺のことを助けてくれていた。


 告白をしたことがない俺に真摯にアドバイスをくれたし、ガチガチに固まっている俺を励ましてさえくれた。


 そんな美緒を、突き放すのは心が痛む。


 ……だけど、俺が好きなのは真白さんであって、それを今撤回することができない。


 だから、俺は――美緒の告白を、断る。


 頬に伝わる汗を拭って、俺は決意を固めた。


「お、俺は……」


 震える声で言葉を発したその時。




「ちょっと待ったっ!!!!!!!」



「「「「⁈⁈⁈」」」」


 切り裂くような声が、またしても響く。


 素早い照明班の活躍により、その声の主にスポットライトが当たった。


「さ、聡⁈」


 今度はお前かよッ⁈


 聡は俺たち幼馴染三人衆の一人であり、わちゃわちゃと騒いでる俺たちを温かい目で見守ってくれた、兄的存在だ。


 あまりにも意外過ぎる人物に、俺と美緒は同様が隠せず、口がパクパク。


 も、もしかして……。


「美緒! 俺はお前のことが好きだ! ……だから、俺と付き合ってほしい!!!」


 やっぱりそっちかぁぁぁい!!!!!


 ってか今どういう状況⁈ どういう状況なの⁈


 ……まとめると、真白さんに告白した俺が好きな美緒が告白してきて、その美緒が好きな聡が美緒に告白していやわかんねぇよクソ野郎ぉぉぉぉぉぉおぉぉっぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!


 とんでもない告白大連鎖に、収集つかないじゃん……とかいう冷静なことは思えず。


 観客席で「え、え?」と慌てふためく美緒と、男の決意を固めた聡が向き合っていた。


 三角関係とかそれどころじゃない泥沼に、この先の展開が混沌を極める中。


「わ、私は……」


 美緒が汗をだらだらと流しながら、言葉を発したその時。




「ちょ、ちょっと待ってください!!!!!」




「「「「「⁈⁈⁈⁈」」」」」


 控えめながらも通りのいい声が響いた。


 頭のおかしいテンプレが出来上がった現状でこれが何を引き起こすのか皆わかってしまっていて。


 妙にウキウキな照明班が、頬を紅潮させながら一人の少女にスポットライトを当てた。


 あ、あれは……ッ!


「ひ、姫野さん⁉」


 クラスの中でも大人しい。巷で可愛いと話題の母性本能キラーの図書委員、姫野さんじゃねぇか!!!!


 そして皆さんもお分かりの通り、姫野さんの視線の先には……。


「さ、聡くんっ! す、好き……なので、わ、私と付き合ってくだしゃいっ!!!」


 噛むの可愛いな⁈


 隠れた姫野さんが悶絶する中、当事者の俺たちはこじれなくった告白に、ひたすら動揺を隠せなかった。


 もはや蚊帳の外である俺と真白さんは、


「え、どゆこと?」


「……?」


 困惑を共有していた。


 聡は「へ?」と爽やかな表情を崩し、たいそう慌てている。


 ……なんですか、これ。


 姫野さんと聡の視線が交わり合う。


「お、俺は……」


 目を泳がせて言葉を絞り出したその時。




「ちょっと待ちな!!!!!」




「「「「「「⁈⁈⁈⁈⁈」」」」」」


 もう今度は何だよ⁈


 そして相変わらず熱狂的な照明班の仕事が早すぎんだよなぁこれが!


 眩い光に当てられて、正体を現した声の主。


 あ、あれは……‼


「や、八乙女さん⁈」


 学校一のギャルと言われている、俺とバイト先が同じ巨乳で金髪の八乙女さんじゃねぇかッ⁈


 で、でも今、姫野さんの告白のターンじゃね? その告白を遮ったってことは、もしかして……。



「勇気、あーしアンタのこと好きだから、付き合って!!!」



 お、俺かーーーーいっ!!!!!!!


 ってかそれ今言うかよ⁈


 今俺引き留めるターンじゃないよね⁈ 空気読めてないよね⁈


 い、いや、もはや今読む空気が宇宙語すぎてわからねぇな⁈


 結局俺に戻ってきて。


 でももはや秩序の存在しない現状にどこに注目していいのかすらわからず。


 当事者を含めた全員が、視線をあちらこちらに向けた。


 ど、どうやって収束が付くんだこれは……。


 何かこのこじれまくった現状を一発で解決する方法は……。


「「「「「「あ」」」」」」


 声が重なる。


 全員が思い至った、ある一つの解決策。


 問題が生じたときに、最も初歩的で大切なこと。


 それは――問題の根っこを解決することだ。


 つまりここにおいて、問題の根っことは――俺の真白さんへの告白のアンサー。


 これが出れば、すべてがドミノ倒しのように解決していくのでは⁈


 視線が一気にミスコン一位の真白さんに集まる。


 ステージ上でスポットライトを浴びてキラキラと輝く真白さん。


 俺はゴクリと唾を飲みこんで、体を真白さんに向けた。


 真白さんは視線の意味を理解して、ゆっくりと俺に視線を向ける。


 いつ見ても整った中性的な顔立ちの真白さんが、ギュッと手を握る。


 シーンと静まり返る体育館。


 一歩踏み出す真白さんの足音が響く。



「わ、私は……」


 

 ぷるん、と唇が揺れる。


 そして沈黙を切り裂くように、遮ることを許さないかのように。


 男にも勝る鋭くも凛とした声で、言い放った。









「私は……いや、ボクは、男の子なんです!!!!!」







 


「「「「「「「………………へ?」」」」」」」」







「「「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええぇぇぇぇえぇえぇ!!!!!!!」」」」」」」




 ――かくして。


 まんまとドミノ倒しで告白した俺たちは撃沈し。


 加えて真白さんガチ恋勢も同時に失恋したことでたくさんの屍を積んだこの日は、以後語り継がれる伝説の日になったのであった。


                       完


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

文化祭でミスコン一位の好きな子に公開告白したら、「ちょっと待ったッ!」の声が響いた。ライバルかよ……って思ったら、あれ? 引き留められてるの、俺っぽい 本町かまくら @mutukiiiti14

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ