第7-2話 「そうかもしれないわね」

 麻薙との今後の関係について自分なりに区切りを付けた俺は放課後に保健室ですくニコ報の作成をしていた。

 すくニコ報は毎月掲示板に掲載しなければならないため、今月分の作成が終わったと喜んだとしてもすぐに来月分の作成に取り掛からなければならず、すくニコ報を作成していない日はないと言っても過言ではない。


「相変わらず仕事熱心ね」

「いや、仕事熱心も何もやらなきゃいけない仕事なんですからそりゃ誰だってやるでしょ」

「やらない人はやらないわよ」

「僕だってやらなくて済むならやりたくないですけど……。すくニコ報書いてる間は創刊者を恨みますよほんと……」


 以前からすくニコ報の創刊者を恨んではいたが、もしかすると麻薙の父親って可能性もあるんじゃないか?


 ……いや、流石にそんな都合のいい話あるわけないな。

 まだ麻薙の父親が保健委員長かどうかも定かではないんだし。


「そういえば次の日曜日、何の日か知ってる?」

「次の日曜日? 祝日でもないですし何の日かって聞かれても分かりませんよ」

「麻薙さんの誕生日よ」

「麻薙の誕生日?」

「そうよ」


 唐突に伝えられた麻薙の誕生日。


 一瞬面食らって言葉を失いかけたが、なんとか頭を回転させて直美先生に質問を返した。


「まあ次の日曜日が麻薙の誕生日って言うのは分かりました。でも何でそれを俺に伝えたんですか?」

「別に意図はないわよ。ただ今思い出したからなんとなく話しただけ」


 なんとなく話しただけ、なんて言いながらしたり顔で俺に視線を向けてくる。

 その表情からは、とてもじゃないがなんとなく麻薙の誕生日を俺に伝えたとは思えない。


「そんな顔してそんなこと言われても信じられるわけないでしょ」

「そんな顔も何も普通の顔よ?」

「ちょっとニヤついてるじゃないですか。そもそも俺、誰かの誕生日を祝ったことなんてありませんけど」

「祝ったことなんて無くても、祝いたいって気持ちがあればどれだけ不恰好であったとしてもその気持ちは伝わるし喜んでもらえるものよ?」

「それ、俺に麻薙の誕生日を祝えって言ってるようなものなんですけど」

「まあそうかもしれないわね」

「さっきと言ってることが全然違うんですけど……」


 俺が麻薙の誕生日を祝うなんてあり得ない。


 今までの俺ならそう思っていただろう。


 それなのに、今の俺は麻薙の誕生日を祝いたくないとは思っておらず、それどころか祝いたいとすら思っていた。


 次の日曜日か……。


 いくらなんでも麻薙の誕生日まで時間がなさすぎるだろ。

 それも、誰かの誕生日を祝ったことなんてない俺がこの短期間で誕生日を祝う準備をするのは至難の業だ。


 それから俺は、これまでにない集中力ですくニコ報を仕上げて急いで帰宅した。

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