第40話





        ◇    ◇    ◇





「な、なんでグリーン以下の冒険者がここに入ってこれるのよ!?」


 森から少し離れた十分な高さを持つ塔、そのダンジョンは1つ1つしっかりと積まれた土色に塗装されたレンガが目立ち、遠くから見ると塔になっていて、ここには世界を破壊出来るほどの力を持った凶悪な存在『魔王メイス』が住んでいた。


 場所が場所だけに、中へ入るにはグリーン以上のパーティカードを持った冒険者が条件だったのだが、ミスティア達と一緒にいたフラムは隣に立っていたウルバヌスをチラリと見て説明を求めると。


「私が案内したんですよメイス様」


 あの時のように人型の姿に戻っていたウルバヌスは、あっさりとミスティア達を入れた事を認めてしまい、驚いたメイスは階段の上に置かれた玉座から立ち上がって問い詰めた。


「だ、ダンジョン内で私を守っていた魔物達はどうしたのよっ!?」

「ああそれでしたら、みんなここの住み心地が悪いという事で出て行きました」

「なっ……なんですって!?」

「円卓の騎士団達もたまに襲ってきますからね、生活には向いてないとの意見で一致し、全員出て行きました」

「い……いや! 魔王を守るのが部下であるアンタ達の役目でしょうが!! 住み心地ってなによなによ!!」


 ピョンピョンと跳ね続け、ピッピッと指を繰り返し差し怒りの感情をメイスはぶつけ続けるが、特に反省の色もなくウルバヌスは淡々と返事をする。


「我に言われましても……前から部下達の不満はメイス様に報告していましたよ?」

「人間が恐れる魔王なんだから、こういう塔に住みたいじゃないっ!!」

「いつの時代の話してるんですか、魔王なんてもう全ての人間が怖がる時代じゃないんですよ」

「怖がるもん!!」

「怖がりませんよ」


 薄暗い洞窟の最深部、何人もの人が入れる大広間に数本の松明が縦に並び、中央に敷かれたカーペットの先には、生活する家具もなく椅子が1つだけ置かれており、確かに住み心地は良くなさそうとサーシャとミスティアは心の中で思っていた。


「怖がるもん……っ!!」


 ぶわっと泣き出しそうになりかけたメイスに、ミスティアはウルバヌスに強く注意をする。


「ダメですよ、メイスちゃんを虐めたら!!」

「確かに少々虐めすぎたかもしれませんね」

「めっ、です!! メイスちゃんは繊細なんですよ、ねえサーシャさんフラムさん!!」


 急にこちらの方へと話を振られ思わずコクリと頷く2人、ミスティアは急いで近寄ってからよしよしと慰め、なぜこんなにも魔王を恐れないのだろうとウルバヌスを含めメイス以外の人達が思っていた。


「……それで、バカエルフとプレート女はなんの用で来たのよ?」


 泣きかけていたメイスは瞼をゴシゴシと指でこすり用件を尋ねた。


「そ、その私達、ゼイゴンって人の情報が知りたいんですっ!」

「はあ、ゼイゴン? また懐かしい名前が出てきたわね……」


 再度玉座に座り、肘をつき再び威厳を持つように足を組むと、側にいたミスティアになでなでと触られながらゼイゴンについてメイスは回答をした。


「それで、そのゼイゴンがどうかしたの?」

「実はアプロさんが犯罪者にされてしまったらしくて……」

「はあ? あいつが? で、なんで魔王の私に?」


 えーっと、と上手く言葉に出来ないミスティアに代わり、フラムが口を挟む。


「私がアプロの兄貴の力について話したからッス」

「ああそゆ事……悪いけど、私には関係がないからさっさと帰りなさい」


 メイスは威厳を持ってキリッとした顔で言ったつもりだったのが、ミスティアはメイスの新たな一面を見てすぐに頬をスリスリして可愛がる。


「真面目な顔も……。か、可愛いですーーーっ!!」

「だっー! 顔が近いのよっ!? 気安く魔王に触るなってのっ!!」

「はうっ!」


 密着してくるミスティアを遠ざけ、おでこを指でピシッと軽く弾くと、ミスティアは頭を複数回ぶつけながら階段から転げ落ちる。


「アプロの兄貴を救いたいんスよメイスっち」

「なーにがメイスっちよっ!!」


 興奮してムキになり続けるメイスを見て、このままでは話が進まないと判断したウルバヌスとサーシャはお互いをチラリと見て、はあとため息を吐いてから仕方ないなという顔で褒め称える作戦へと切り替えた。


「め、メイスの魔法、凄かったね」

「はい、我ら魔族の誇りですから」


 それを聞き、ピクリと尻尾が動くメイス。


「わ、私、魔法うまくできないから……憧れちゃうなあ」

「我も力だけの魔族なので……どうもメイス様の魔法は真似できませんな」


 まるで犬のように尻尾を振ったメイスは、ニヤニヤとした顔でコホンと小さく咳払いすると、ミスティア達の求めていたゼイゴンについての情報をあっさりと話した。


「仕方ないわね! じゃあ話してあげるわよっ!! 聞いて驚きなさい!!」


 ちょろい、チョロすぎると思ったウルバヌスは頭に手を当てながら呆れ、同じように呆れたサーシャは目を逸らす。


「かなり昔、屋敷の周りに並の冒険者が探知できない結界を張ってくれって頼まれたから、塔の設営費を補ってもらうのを交換に応えただけよ」

「あ、じゃあ、結界を張ったのがメイスさんだったんですねっ」


 サーシャはボソリと呟いた。


「お、恐れられていた魔王も、お金で転ぶ時代かあ……」


 しらーっとした顔で幻滅するサーシャに、メイスは赤面して必死に訂正を繰り返した。


「ち、違うわよ!! わ、私は別に……こんな建物欲しいなんて思ってないわよ!?」

「台座はきちんとしたヤツで、明かりはここだけお願い、アンタ達はいらないでしょって言いながら我らに働かせて、自分はゴロゴロしてたじゃないですか」


 メイスの言い訳にきちんとウルバヌスが補足をする。


「そ、そりゃ、私は魔王だし、力だってアンタ達よりあるのよっ!?」

「力がある、だから何でも働くのは我らですか」

「な、なによお!! ウルバヌス! 私に文句言うならここを出てってもいいのよ!?」

「出て行ったら、メイス様の食事、服の洗濯、誰がやるんです?」

「う、ううううううっ……!!」


 困り果てる姿もまた可愛いですう、とミスティアは言葉に詰まるメイスを見て、フォローの声をかけながら慰めた。


「じゃ、じゃあアンタが今後私の世話をしなさい! バカエルフ!!」

「いいですよーっ、あいたっ」


 良くない、とフラムとサーシャとウルバヌスの3人はミスティアの頭に軽い力で手刀をした。



 ――。

 ――――。



「それで、ゼイゴンについて知りたいのね……」


 叫び続けて疲れたのか、メイスは多少息切れをしつつ、うんうんと頷くミスティア達に話の続きをした。


「……結論から言わしてもらうわ、ゼイゴンには関わらない方がいい……。さっさと街に帰って大人しくしてなさい」



 メイスの言葉によって、辺りの空気がピリッと張り詰めた。

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