嫁ぐといっても、他国の如く盛大な結婚式をする訳ではない。 プロポーズをされ、それを受けるだけだ。ここには、何のおどろきも無いといっていい。私も王子も代々決められたことに忠実に従っただけのこと。


 そのあと、無論、初夜を迎える。このことには、正直、興味がある。ただ相手次第だとは、未経験の私でも分かる。ゆえに、どうしても不安がないまぜになる。

 

 ただ、私はこれが嫌いではない。というより、好きであった。といっても不安そのものではない。己の感情の揺らめきの方である。みずからの内で千変万化するそれ。それを追うことは面白い。


 そのことに気付いてからは、それにひたることが多くなった。 当たり前とも想う。公爵令嬢、しかも王家に嫁ぐことが決まっている娘に、果たしてどれほどの自由が許されていようか。ましてや、村娘や町娘に生まれたならば、満喫できるはずの惚れた腫れたの色恋ごとなどは望みようもない。


 せいぜいできることはといえば、貴顕の家柄に生まれた令嬢たちとのたわいないおしゃべりであろうが。ただ、私はそこに良き話し相手を見つけることを、早々にあきらめた。


 彼女たちの怨嗟と嫉妬のゆえである。私が受け継ぐ代々のものに起因するは明らかであった。いくら表面上は仲良くやっておっても、内実はとても狭いところで男の取り合いをしておるのだ。

 

 無論、その中にも自らの恋心に純真に従わんとする者もおらぬではなかろうが。そんな酔狂な奴は、まさに稀人まれびと。確かに、それなら私の友人にもなりえようとも想えるが。残念ながら、未だ私を訪ねて来てはくれておらぬ。


 ほとんどの者は、その家柄や財産によって相手を格付けし、自らが狙える中で最も上の者を得ようとする。ならば、当然、王家が1番上に来る。それに嫁ぐと決まっておる私に誰が親しげに接しようか。しかも、『ただ代々の通婚のおかげで嫁ぐを得たのよ。あのブサイクが!』と陰口を叩くこともできぬ。

 

 ゆえに私の心の様、その移ろいこそが、無二の友となったのも、道理というもの。

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