最終話

 数百年前。

 1人の女性。

 眼前におる者が次の如く告げた。


「我はそなたに約束しよう。

 いかなる代償も要らぬ。

 そなたのこれまでの我への日々の祭り、1日たりとて欠かさぬ祭り。

 それのみで十分だ。

 そなたほど、我を尊崇する者はおるまい。

 それに、そもそも愛に不実なる者を罰するは、我の務めでもある。

 その日、その愛に忠実でなく婚約破棄や離婚を宣告する者も、

 また、その日、その愛を信じられず、相手が婚約破棄や離婚を宣告するのではないかと疑う者も、我は罰しようぞ。

 まさに、そなたの申し出の如く。

 そなたは、自らの子孫に愛のしもべとなることを、よほどに強く望んでおるのだな。

 もし下手に愛を疑うならば、命を失うは、そなたの子孫ぞ」


「恐れながら、無用な心配です。

 愛されておりながら、何故、愛を疑いましょう。

 そのような愚か者は、私の子孫ではありませぬ」


「ただ1つ除外条件を申しつけておく。

 もし、その日、何らの形であれ、両者の合意により結婚が成立、もしくは保たれるならば、

 それが、婚約破棄や離婚の宣告の撤回と他方の受け入れいう形であれ、

――誰であれ、間違うものだ、

 いずれかによる正式なプロポーズと他方のその受け入れであれ、

――無論これにはあらゆる愛の告白を含めよう、我は形式にこだわる気はない。

――何事にも、告白というものには勇気が要るもの。特に愛の告白にてはのう。その勇気なきゆえに、数多くの愛が成立しなかった。

――例え、その前に多少の行き違いがあれ、あるいは一時とはいえ、愛を踏みにじる行いがあってさえ、我はあえてそれを許すぞ。

 いずれの者も罰さぬ。

 どうして、その者たちを我が罰し得ようか。

 そなたも、これは理解してくれような」


「はい。もちろんです。

 また、もしそのような状況なら、それこそ私の子孫に待つは、幸せな未来。

 むしろ、私の方から頭を下げて、お願いすべきことです。

 残念ながら、子孫があやまちを犯さぬとは申せませぬ。

 ただ、悔い改めるならば、まさに、あなたの前にひざまずき、許しを請うべきです。

 そして、あなたをより一層尊崇すべきです」


「喜ばしきことよ。

 そなたはまさに我が巫女みこ

 我とこれほど心が合うとは。

 まことに喜ばしきこと。

 これで契約は成った」


「ああ。ありがとうございます。

 私の女神様。

 愛の神よ。

 私の子孫に、ひたすらあなたを祭り、尊崇させましょう」

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