第29話 昼休みのチーム談義

「名郷って探索者の活動はどれぐらいやってるの?」


 真澄と塩浦の二人は午後の授業が始まるまで会話を主に、部室で時間を潰していた。


「スケルトンを倒せるようになった程度だ」


「なるほどね」


 真っ当な探索者との交流が初めての真澄は内心、嬉しさで頬が緩みそうだった。


「名郷っていつもマスクを付けてるけどここでは外すのね」


「ご飯を食べてたし」


「風邪じゃないのよね?」


「昔から気管支が弱くて。転校してきた理由でもある」


「……そういうのは言っときなさいよ。聞いたのが無神経みたいでしょ」


 塩浦が拗ねたように唇を尖らせる。


――最近調子が良くて忘れてたぐらいだしな。


「しんどくなったら言ってよ」


「その時は頼らせてもらうよ」


「じゃ、ダンジョンズエクエスで対戦しましょう」


 そして、塩浦は話題を切り替えてスマホを取り出した。


「周りにやってる人がいなくて、オンラインでの対戦しかしたことがなかったの」


「始めたとこでカードが全然揃ってないぞ」


「勝つの好きだし別にいいわよ」


――良い性格してるな……。


 二人はスマホを突き合わせてゲームのバトルルームを作り、対戦を始めた。


「名郷は混沌デッキよね」


「塩浦は平和か」


「勢力にこだわりなく使ってるんだけど、今の環境で強いのよ」


 初めて見るカードが多く効果の確認に時間を費やす真澄を、塩浦が微笑ましげに見守る。


「名郷もカードになるつもりはあるのかしら」


「なれたら楽しいだろうな」


「じゃあ、せっかくだしチームを作りましょう。二人のカードにOkikuの名前が載れば間違いなく話題になるわよ!」


――菊姫さんは写真家の名前が売れて、塩浦は実家の売り上げに貢献できるのか。


 自分には有名になる理由がないと思いながらも協力を惜しむつもりはなかった。


「チームはいいんだがどうやって作るんだ?」


「勝手に名乗れば終わりね」


「届け出るところもなさそうだしな。ダンジョンズエクエスではどう判断されるんだ?」


「探索者のカードになるときって自分から運営に申請するのよ。レアリティの参考に使える動画とかプロフィールを添付してね」


「そこでチームを名乗るわけだ」


「フレーバーテキストに載る程度だけど、カード同士の相乗効果を考えてくれるし損はないわよ」


――チームの情報はカードの説明に書かれるのか。


「カードの実装段階で無数の攻略サイトに記載されて、あっという間に自称が通称に変わるの」


「そう考えると影響力がすごいな」


「探索者にとって必要不可欠なゲームよね」


「あ、何そのカード。こっちの魔物を破壊して自分の魔物を強化ってずるくない?」


「ふふん、平和勢は意外に有用な破壊カードがあるのよ」


「どう考えても混沌の領分だろ」


 二人はゲームの対戦に気を取られつつも、チームについて現実的な話を続ける。


「後はゲーム的な要素で、チームはどこかの勢力に所属しないとダメね。希望の勢力はある?」


「混沌」


「やっぱりそうよね。Okikuのカードが混沌勢力だし。わたしはどこでもいいから勢力は混沌に決定しましょう」


「簡単に決めていいのか?」


「勢力なんてただの飾りなのよ。精々がカードになるときの格好を勢力に寄せるぐらいかしら」


「あー、確かに探索者のカードってお洒落というか奇抜気味なのも多い気がする」


「意識するのは色よ。平和だと白色、混沌は黒色で自然は緑、戦士は赤、魔導は青で機械が茶色、最後の中立が灰色ね」


「色を合わせて服装にも気をつかうのか。意外と大変なんだな」


「高レアリティを目指すなら必須なんだから。ダサい格好だと却下されることもあるのよ?」


「ダサい格好ね……」


 真澄はオーバーオール姿の塩浦を思い出して、少し心配になる。


「塩浦もカードにはなってたんだよな?」


「ゲームからは削除されちゃったけどね」


「チームを脱退しただけで?」


「スポンサーがつくとややこしいのよ。カード化の申請をわたし個人じゃなくてチームが肩代わりする形でやってたの。普通のチームだったら脱退した旨を運営に伝えればフレーバーテキストの修正が入って終わりよ。あ、それと相乗効果の削除もね」


――課金要素のあるゲームだし色々気をつかう部分か。


 ダンジョンズエクエスは長く続けていれば無課金ですべてのカードを集められるが、時間はかかる。その手間を省くのが課金要素で、パックの購入という形になっていた。


「ネットで調べればカスミンのカードも出て来るかな」


「攻略サイトなら削除カードも載せたままでしょうね。別に見たいんだったら見せてあげるわよ」


 塩浦は手帳型のスマホケースから三枚のカードを取り出し、テーブルに置く。


「これは……」


 カードの名称はどれも“月花のカスミン”でそれぞれイラストが違っていた。


「オンライン限定だけどリアルのカードパックも買うことができるのよ。記念に買って集めてたの」


「現実で手に取れるのは面白いな」


「こんなのもあるわよ」


 続けて出てきたのは硬さがあって曲がらないカードだ。


「じつはこれ、ディスプレイになってるの。ダンジョンズエクエスのデータを入れて遊べるんだから」


 真澄はしげしげと眺める。パッと見はただのカードだが、横や斜めにして見るとディスプレイなのがわかった。


「ホログラムフィールドがあれば一部カードが3Dホログラムで表示されたりもするのよ」


「やりすぎなぐらいやってるな……」


「絶好調よね。この波に乗らない手はないでしょ?」


 塩浦が楽しげに笑う。


「言ってることはわかる。でも学生服でミニスカートって……」


 “月花のカスミン”のカードはどれもスカートがなびいて視線を誘導していた。


――あんまり参考にはならなかったな。


「この時は注目を早く集めたかったのよ。女子高生の探索者なんて希少種だし狙いはばっちりだったけど、動画で黒タイツを穿いてるのに足が太い尻がでかいってコメントを残す人がいて……」


 塩浦は思い出したように目を閉じて鼻を鳴らす。


「わざわざ黒タイツの下に見せパンを穿いてたのよ? ごわごわするのに。名郷だってそのほうが嬉しいんでしょ?」


「うーん……」


 まさかの飛び火に、真澄はゲームの対戦でサンドバッグになるしかなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る