第28話 探索者が仲間に加わった

 家に来ようとする塩浦をなんとか説得して見送り、真澄はバイクに乗って帰路につく。


――根は真面目なんだろうな。


 少々行き過ぎた行動力も羨ましい部分はあった。


――しかし、菊姫さんがいたのには驚いた……。


 仕事中ということもあり店には戻らなかったが、通うのも悪くないといたずらに考えるのだった。


 しばらくして田舎道に入り、のんびり走っているとバックミラーに見覚えのある車が映る。


「あれは……」


 訪れた店の敷地内にとめられていた車だとすぐに気づき、バイクをとめて待つと横に停車した。


「やってくれたね」


 運転席に乗っていたのは菊姫で車用の丸いサングラスをずらし、開けた窓から声をかけた。


「いやもう、良いものを見させていただきました」


「先行ってるよ」


 話は後でというように、菊姫は先に走り出す。バイザーを上げて応じた真澄はその背中を追って遅れながら家に着いた。


「ふぅ……」


 玄関前にある広い砂利のスペースにとめられた車の横へバイクをとめ、ヘルメットを脱ぐ。


「菊姫さんの車って古いものなんですか?」


 真澄はコンパクトでレトロに映る車を珍しそう眺める。


「古くはあるかな。愛嬌ある顔してるでしょ」


「顔って前の部分ですよね。確かに可愛いと言うか間抜けというか……」


「てんとう虫って呼ばれてたんだよ」


「古い車って高いイメージがありますけど」


「これは私のおじいちゃんが乗ってたやつだから」


「受け継いだわけですか。俺のバイクと同じですね」


 車談義もそこそこに家へ入って早速、塩浦について話を始めた。


「聞いてもらえたとは思いますが、トラブルらしいトラブルはありませんでしたよ」


「そうだね。良い子に見えた」


「最後に言ってたことは……」


「うん、担保は無理に作らなくてもいいかな」


「意外ですね。てっきり服を引ん剥いて撮るぐらいはするとばかり」


「私をなんだと思ってるの? 高校生相手に裸を撮らせろなんて言わないよ」


「……俺の裸を問答無用で撮りませんでしたっけ?」


「そんなこともあったね」


 菊姫は素知らぬ顔で続ける。


「信用が前提だけど、裏切られても見る目がなかったで私は済ませられる。きみは未登録のダンジョンがバレたら大変だろうね」


「現在進行形で菊姫さんもダンジョンの存在を報告してないんですが」


「知らなかったで逃げ切れる」


――まあそうでしょうけど……。


「真澄の判断で決めていいよ」


「今のところ前向きな考えなんですが、菊姫さんがOkikuなのは伝えてもいいんですか?」


「写真が必要だったら撮る。私に務まるのならね」






 翌日の朝。真澄は恒例の筋肉痛に身体を悩ませながら、バイクに乗って家を出た。


――二日ぶりの訓練はまたキツさが増したな……。


 木製カレンダーのお礼と思ってる節があるファイネによって、スケルトン状態の後に人間の姿でも訓練が行われている。くたくたになった最後には魔物との実戦も追加され、必死になって相手をしていた。


――不思議と充実感があるしいいんだけど。


 朝から追ってくるバイクや車はなく学校に到着する。ヘルメットを脱ぎマスクをしたところで、裏門へ見覚えのあるバイクが入ってきて隣にとまった。


「おはよう名郷!」


「おはよう……」


 乗っていた人物は塩浦で、元気の良さに当てられて目を細めてしまう。


「それでどうなった?! Okikuはなんて?!」


「あー、まあ話は昼休みにゆっくりしよう」


「ちょっと!?」


「それより許可は取ったのか?」


「何のよ」


「バイク通学の」


「……ちょっと行ってくる!」


 塩浦はヘルメットとゴーグルをしたまま校舎に走っていった。


――天然というか抜けてるのは素なんだな。






 昼休みになり、部室になった秘密基地へ行こうとした真澄に塩浦が近づく。


「お昼は友達と食べないとダメだからちょっと待っててね……!」


 小声で話しかけられた内容を一瞬、自慢かと思った真澄だが取り乱さずに教室を出た。


――冷静に考えると関係を大事にするのは評価ポイントだ。


 自分を取り繕って部室に向かい、昼食を済ませてダンジョンズエクエスの世界に入り込む。


――そういえばカードにチームの表記は見当たらないな。


 見知らぬ探索者を眺めながらデッキの構築に没頭していると教室の扉が勢いよく開いた。


「さあ! Okikuがなんて言ったか聞かせてもらうわよ!」


「ああ、いいってさ」


「いい……?」


「写真を撮ってくれるって」


「ほんとに?!」


「塩浦の協力が必要だけど」


「なんでも協力する! 脱げばいい?」


「それはいいから……」


「そうなの? Okikuの素性と名郷にも秘密があるんでしょ? 担保は?」


「さすがにそこまでさせるのはって話になった。裏切られても自分たちの目がなかったみたいな」


「裏切らないわよ! わたし口が堅いんだから!」


「期待してるよ」


 話はあっさり終わって、お見合いの時間が数秒訪れた。


「今日は家に行っていいのかしら」


「そうなるのかなぁ……」


――菊姫さんが来なかったらその時に連絡すればいいか。

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