10

 大介は出血を止める応急処置を行うと、車を出した。

 浩一は後部座席で頭を抱え込んで黙り込み、脚と心の痛みに耐えている。

 助手席の幸子が言った。

「どこへ行くの?」

「まずは、傷の手当だ。落ち着ける場所を探そう。その先は、これから考える。金はあるから心配するな」

 幸子は、その金がどうやって作られたかを知っている。犯罪の代償だ。喜べはしない。

「それって、警察の情報を売ったお金でしょう? 私も、ヤクザに追いかけられた」

「済まなかったな。だが、終わったことだ。確かに情報は売ったが、最後の取引は成立していない。核心の情報は渡さなかった。渡せば、街にシャブがあふれるからな。奴らの気を緩ませるために瑣末な情報を売って、信用させただけだ。で、最後の取引に現れた幹部を殴り倒して金を奪った。最初からそうするつもりでいた」

 幸子は、謎が解けたというように小さくうなずいた。

「そうなんだ。だから、ヤクザは父さんを捜していたんだ……」

「死にものぐるいでな。お前が捕まらなくて良かった。見つかれば私をおびき出す道具にされる。私も殺される。捕まえるのが警察でも、結果は似たようなものだろう。だからお前のバッグにGPSや盗聴器を仕掛けたんだが、本当に綱渡りだった」

「それも私を守るために……?」

「万が一にもお前に危険が及べば、何があろうと助け出すつもりだった。だが、これからは安心だ。手は打った。私たちは、もう死人だ」

「死人……って?」

「落ち着いたらゆっくり説明する。時間はたっぷり取れるだろうからな」

 幸子はその説明に満足し、目を閉じた。

「なんだか、眠くなった……」

「休みなさい。ゆっくり休むんだ。そして、人生をやり直す。自分の足で歩けるように、な」

 幸子は、大介の言葉に微笑んだようだった。


                                        

                         ―――――――― 了

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みんな うそ 岡 辰郎 @cathands

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