13−9

『ーーーー酷すぎる……』


 

ホント酷すぎだ

……それは明らかに、男性が力任せにつけた鞭痕らしき傷跡だった



記憶の中〜

得意げに、オリンピック無重力ポロ競技の優勝カップを高々と掲げた彼の父親の記事が浮かび上がる


銀河でも有名な電脳マスメディア『電脳ジャーナル』発行、立体映像記事の、満面の笑みを思い出した



『本当に何という事をーーー……!』

 

見下げ果てたあこぎなことをする暴力親父だ


『 い〜や心を込めて クソジジイと呼ばせてもらうぞ!』

 

というのもクリストファーも多少ーーー馬術をたしなむのだ

馬術競技経験者であった


『あの美しくって賢き誇り高き動物、馬を愛する人間への下劣極まりない侮辱で、風上にも置けない恥ずべき行為だ』

怒りで眼が眩みそうになる


『おまけにウィンストンは、サボり魔の自分とは違い

誰よりも真面目で大人の言う事を人一倍守る優等生じゃないか?!』


あれだけ死ぬ程勉強させておいて、まだ足らんのか

 

『クソジジイが大人の社交とやらで、吞む打つ買う……!

オイコラ裏でやりたい放題なんて知ってるぞ』

 


 ーーーーそれだけじゃ無い


『自分は最近、とても口に出来ない酷い下劣な企みで、長い間〜

とある大切な人を苦しめた事実を偶然知ってしまった……!』


クリストファーは1人で泣いた

可哀相だと

 

〜……誰にも気がつかれない様に泣きじゃくったのだ


理由は『知られたくなかったから』

 

王太子である自分が知ってしまったと、絶対に気取られたくなかった


が……ショックが頼りない体に反転したらしく散々な体調に落ちこんだ


学園で直後にあった定期試験は何とか気を張りクリア…

受講し受けたものの、その後少し学園を発熱で休んだ


「僕はーーー……

僕は

あんな大人にだけは、絶対になりたくない!!」

 

ウィンストンが入浴中、自分が側にいない間

誰かが隙を見計らって誘拐〜連れ出さないよう電子鍵とロックをしっかりかけた


その後主治医の元に走り

即効性で打撲によく効く薬を急いで処方して貰う


体を温めたウィンストンが風呂から出ると、軟膏薬を全身の患部に薄く重ね塗りをした


丁寧に痛がらないように、顔色を確認しながら塗り込めた


「痛い?」

「……」


ウィンストンは何もかも友人にされるがままだった


『まぁそりゃあそうだろう……

一旦我が儘を言い出したら聞かないのを長いつきあいで知っているから


一々反論するのが疲れていて単純に面倒だったからに違いないよなぁ〜〜』


 

いい加減、呆れていたのだろうな…と、クリストファーは心の中で呟いた


そうこうしている内に……

予めセルフタイマーをセットしておいた寝具は、フンワリ柔らかく

乾燥機で快適な睡眠最適温度へとフカフカに仕上がっていた

 

エンジニアの匠の方に心から感謝だ

ありがとう!

〜と思わず彼はニマニマしてしまった


だがしかしーーー

睡眠薬はここまで体力が落ちている時に使用すると副作用で後がちょっと怖い

 

クリストファー的には、出来たら〜使用したくなかった

『これで暖かくして、無事朝までグッスリ眠れるといいな』と切に願う



長身の友人を、清潔な僕用の中でもかなり大きめなインナーウェアとパジャマに着替えさせた

 

後ろめたそうな雰囲気のウィンストンを、そのまま寝床にギュウギュウ押し込んだ


『こういう時は寝るに限る うんうん』


「是非ご学友を最高の客間に!!」


右往左往する〜

地球アイドルみたいな美少女メイドのお姉様方にはニッコリと甘やかに微笑む


「たまにはいいでしょ?

いつも我が儘言ってごめんなさい」

 

てへっと謝った



ーーー…ウィンストンが深夜あんなにうなされているなんて、その晩初めて知った


多分自宅でも毎晩こんなんだっただろうーーーと、直感的に悟る


『よく精神が今まで何とか持ちこたえていたな』と……!

全身が怒りに震えた


何度も何度も寝具の中をバタバタのたうちまわって


「許して」

「ごめんなさい」


「許して」

「ごめんなさい」


「許して……」


……交互にエンドレスに、延々と苦しげに呟く



ーーー……自分は全く世間知らずだ

彼の何を今までお気楽に見ていたのだ


これでも大人の世界を『知らない振り』で手を回しやり過ごし、結構自分では<やり手>だと思ってきたんだ


こんなひどいのってありかよ……



それはクリストファーにとって、呑気な頭をハンマーで思いっきりガーーンと強打されたような衝撃だった


人として、友人として絶対に放っておけない



僕は闘う


友のために

好きな人のために





彼の悲鳴を逃げずに聞きながら、まんじりともせず……


『ある計画書』を

空が白みかけるまで繰り返し繰り返し書き直した

 

愛用の最新型の人工知能カードを何枚も使って

色々なパターンーーー……!!


想像出来る本当に幾通りも、関わる人物の性質や言動〜

とにかくありとあらゆるシチュエーションを考え出した


それを元に更に更に散々シュミレーション……予行演習、訓練

披露する練習もした


あくまでも自然体〜決して無理のない流れに考え抜く


多分今回の<それ>〜肝心な点はそこだ


ここをしくじると水の泡〜計画は頓挫する


クリストファーは納得いく物が出来上がるまで何度も推敲し確認をし

過去のホロ映像も時間が許す限りチェックした


「さてーーー……と……次次ッツ……!!」


繊細で、気を回しすぎで勘の良すぎのウィンストンが今度は僕の事を心配すると全く意味がない


彼だったら『あり得る』…

クリストファーはゾッとした


「ーー…よしっつ!まだイケルッツ!」


気配をそっと窺うとウィンストンはやっと疲れ果てて熟睡している様子だ

ラッキー!!


眠りが浅くなりそうな時間帯直前に作業を切り上げた


『本当にギリギリーーー〜〜〜!!危ない危ない……』


彼もベットの端っこに潜り込み、ぐうぐう寝たふりをした

 



ゴソゴソゴソーーーーー

『うわぁ〜〜〜〜〜!!』


寝具は友人の体温で隅までホカホカと優しく温かく、神経の疲れた体に染み渡り

クリストファーは思っても見ない、ちょっとした幸福な気分を味わった


『いい気持ちだなぁ〜〜〜 フワフワの雲の中にいるみたい!!』




ーーー……


ーー…




「おはよう」

早朝、敢えて眠そうに起き上がりウーーンと伸びをする


オロオロ不安そうな目で見上げるウィンストンに何も知らないふりを装った


「ん〜〜〜何かあったっけ?」


「夕べのことーーー覚えてないの?」


「そうだねぇ」


「ーーーーーーーそう…」


え〜〜〜?

何かションボリしてるけど?


「まぁ 全然って訳じゃ無いけど!!」


慌てて言い添えた

とたんに嬉しそうにグリーンの瞳がパァァ……と輝く


「何を?」


「ーーーーー 一緒に食事をした事」


「ーーーうん」



マズイ、彼の望む模範解答と違ったらしい


この試験官は厳しいぞ?

また意気消沈、項垂れションボリし始めた



『え〜っと 〜何だか変な会話展開だ

……まるで、ワンナイトラブの大人の恋人同士みたいだよ?』


事情を知らない人が聞いたら驚いて〜…

「ホッホゥ実はそういう関係だったんですね?」

〜誤解されそうだ!



違ぁーーーーーーーうっっっ!!




「今の目の前の君の方が大切だもん、そんな昔の事は忘れたよ」


取りあえず慌ててこう言い添えた


途端に表情が甘やかに綻んだ

思わずボヤッと見とれてしまうような光輝く微笑み


今度はギリギリ及第点の『丸』だったらしい



『う〜 ディープな友情はデリケートだ!!』


クリストファーはトホホーーーとぽりぽり頭を掻いた


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