第29話 街探索
コンソール室でロムを再生すると、数時間前にプラネタリウムで見た内容と同じものがフォーマルハウトのドーム型モニターに映し出された。ただ一つだけ変わっている点があり、不明瞭に##name1##と読まれていた箇所が「フォーマルハウト」という単語に差し変わっていた。黙ってそれを鑑賞していたレイは、フーっと息を吐くと感想を一言でまとめる。
「つまり、この船もいずれ止まる可能性があると?」
「おいレイ、こんな出どころも怪しい情報を信じるのか」
ハジメが警戒心をむき出しにするが、冷静なリーダーはそちらを向いて指摘をした。
「鵜呑みにはしない。だが、冗談と笑い飛ばすにしては手が込みすぎていると思う」
ここで上空の操作席から椅子ごとスルスルと降りて来たニアは、椅子の一部を叩いてデータROMを取り出した。
「この星座盤には、いま再生した映像と謎の実行ファイルが入ってる。たぶんこれをフォーマルハウトに読み込ませたら、行き先が最終ダンジョンのポーラスターに設定されるんじゃない?」
「ヤコ、君はこのロムの存在を知っていて、プラネタリウムに行きたいと提案したのか?」
邪魔にならないように隅で控えていたヤコは、急に話題を振られて軽く飛び跳ねた。
「あっ、いえっ、私はロム自体知りませんでしたし、行きたいって言ったのは謎の声が気になったからで……」
「謎の声?」
ここでようやく、自分を呼んでいた声について説明をする。そういうことは最初に言えとハジメに怒られたが、立ち上がったニアがいつものようにかばってくれた。
「まぁまぁ、結果オーライなんだからそんなに怒らない。行こうってそそのかしたのは僕だし」
後ろに回り込んできたニアはヤコの両肩に手をポンと置いた。ついでに頭の上に顎を乗せてくる。
「僕はヤコちゃんがポーラスターから呼ばれてるんじゃないかと思ってる。そもそもがこのコ、イレギュラーすぎない? 半年の空白期間はあるわ、特殊能力はあるわで」
ここで覗き込むように顔をずらしてきた彼と視線が合う。眼鏡の奥の垂れ目がどこか愉快そうにキラリと光ったのは気のせいだろうか。
「まるでヒロインみたい? フラグを逃さず、流れに乗るのも悪くないと思うけどね」
「貴様、さきほどから聞いていればゲームか何かと勘違いしていないか?」
不謹慎だぞと苛立つハジメの声に、ニアはようやく離れてくれた。顔を真っ赤にしていたヤコは正直助かったと胸をなでおろす。初対面の時から変わらず色んな意味でこの人は心臓に悪い。
「そんな得体のしれないロムを大切な船に読み込ませられるか! 俺は反対だ」
腕を組んだハジメが端的に切り捨てる。警戒心の強い彼らしい判断ともいえたが、対するレイは同じく反対派とは言えそれよりは柔軟だった。
「可能性の一つとしては考えておこう。だが実際にエネルギーが目減りするまでは保留にさせてくれないか。二人ともありがとう、だが次からは出かける前に一言欲しい」
「すみません……」
「この件は口外しないように。余計な不安を煽っても仕方ないからな」
それはそうだ。何度も頷くヤコに満足したのか、レイはにこっと笑って空気を変えた。
「よし。それじゃあ今日はみんなが待ちに待った探索だ。眠いだろうがしっかり頼むぞ」
「うっ」
そうだ、忘れていた。そろそろ疲労がたまり始めていたヤコは、急激にこみあげてきたあくびを噛み殺すのに必死になった。
***
市街地が目と鼻の先にまで接近したころを見計らい、フォーマルハウトの速度を最低限ギリギリにまで落とす。下方タラップから次々と飛び降りた子供たちは、一目散に駆け出した。
「あっ、待って、危ないから走らなーい!!」
ナナが慌ててその後を追いかける。ヤコも周囲を警戒したが、今のところ敵が出現する気配はない。おそらくは大丈夫だろうが気は抜かない方がいいだろう。眠気を飛ばすため頬をピシャピシャと叩く。
リュックやカゴをめいめい持った子供たちは、ガレキの下から使えそうな物をいくつも発掘してはしまい込んでいく。久々の収穫にあちこちから歓声が聞こえてきて楽しそうだ。そんな中、ヤコは近くにいたツクロイがご機嫌なことに気が付いた。頬を染め、鼻歌など歌っている。
「ツクちゃん、何かいいことあった?」
「え? えへへ、ん-とね……」
はにかんだ彼女は嬉しさのにじむ瞳でどこかを見つめる。何だろうと視線を追うと、男子たちがバカ騒ぎをしながら物資を運んでいるところだった。見ていると、中心にいたナツハが仲間からふざけ半分にどつかれていた。ヘッドロックを掛けられた彼は、それでも照れくさそうに笑っていた。仲間の一人が拾った何かの箱を押し付けられ、真っ赤になっている。
「?」
お菓子でも見つけたのかと考えていたヤコは、ツクロイからちょいちょいと手招きされたので耳を傾ける。
「え! ナツハ君に!?」
「シーっ! 声大きいって!」
嬉しい報告にヤコは頬が緩む。そうかぁ、お似合いだもんねと祝福するのだが、当の本人は照れ隠しなのか尊大に腕を組んだ。
「まぁね、アイツがどうしてもって言うから仕方なくよ」
「良かったねぇ、ツクちゃん」
「だからぁ!」
友人二人が幸せそうでなんだかこっちまで嬉しくなってくる。こんな幸せがずっと続いていけばいいなぁと、ヤコは青い空を見上げながら考えた。
この世界でそれがどれだけ難しいことなのか、思い知るのはもう少し先となる。
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