二一 キミについて

 ひとつずーっと悩んでいた事を告白したいと思います。


 わたしの名前は君島祐希キミシマユウキ。物心ついたときにはお隣さんだった、幼馴染の結城公彦ユウキキミヒコはわたしのことをユウと呼びます。だからわたしはキミって呼ぶことにしました。何事も対等に、そして同じ距離感でいたいからです。


 キミとは学年も一緒で年齢もほぼ一緒。わたしのほうがちょっと誕生日は早いけれどもおねーさんぶるつもりはないし、どちらかと言うと私がいつでも助けてもらっている感じだから、甘えてしまうことが常でしたね。


 ある日、キミが真剣な顔で話しかけてきました。なにをして欲しくて、なにを言おうとしているかなんて言われなくて分かります。何年間、幼馴染をやっていると思っているんですか。


「ボクはユウが好きなんだ。彼女になって欲しい」

 ふふっ、知ってましたよ。だって同じ気持ちですからね。キミのことだからなにも伝えていなくても、なにかを察知したのかもしれませんね。気持ちを伝え合わなくても、分かっていると思っていても、おぼろげでもいいからカタチにしたかったんですよね。きっと。


「わたしもキミが好きだよ、だけれどごめんなさい。今のままの関係じゃダメかな?」

 飛び上がりそうな程にうれしくて、自分でも口元がゆるゆるになってしまうのが手にとるように分かります。でもこの気持ちにフタをして答えました。ちょっと寂しそうなキミには悪いことをしてしまいましたが、病気のことがチラついてどうしても望む答えは返してあげられなかったのです。


 よく、距離が近すぎてとか、家族のようだからとかいう人もいるけれども、そんなことはありませんでした。私の中ではただひとりで、ずーっとこの胸の中に住んでいたのはキミだけですからね。


「いつかこの思いに答えをくれるのだろうか?」

「異世界で会えたら、喜んでお付き合いするからね」

 こんな実現不可能な約束しかしてあげられないなんて、わたしは本当に残念な子ですね。でもそれを口実にキミの部屋に遊びにいく頻度はほとんど毎日にしてしまいましたから、意味が分からないですよね。


 告白を断ったにもかかわらず、今まで以上に毎日遊びに行って、水着になって布団に潜り込む私にキミは混乱しつつも嬉しそうだったので、良かったのかななんてちょっと思いましたけど。


 キミって思っていた以上にエッチなんですよ。水着になると全身じっくり見てくるし、チラチラとお胸も見てきますし、気づかれてないと思っているんですかね。まぁ私は優しいので指摘しないであげますけれどね。むしろ綺麗なままの今を見せつけてやりますとも!


 もちろん体調の問題とかがなければ、もう今頃は目も当てられないぐらいイチャイチャしていて周囲の人たちからは、鬱陶うっとうしがられていたかもしれませんけどね。


 これでも頑張っていたんですよ。三年ほどだましだまし過ごしてきたのですが、もうあまり時間がないようなので、最後のチャンスにかけることにしました。ただ、それは確率の低い賭けでしたし、説明して待っていてなんてとてもではありませんが言えません。なので私はこのことを秘密にしたんです。


 それから、わたしには決めたことがありました。キミにいっぱい笑ってもらうこと、傷もなにもない綺麗なままの私を見てもらうこと、辛そうな姿は決して見せないこと。そして、良い思い出だけを残して……忘れてもらうこと。


 私のことを忘れられなくてそのままこじらせちゃって三十歳を過ぎて魔法使いになって私の所為せいにされても困りますからね。もし私が無事でキミの新しい家族とかにあっちゃったら泣いちゃうかもですけどね。そんな可能性ですら大切で愛おしいかもしれません。


 そう決めたなら私はもうとまりませんよ。いつかキミと一緒に遊びに行こうと思って買ったビキニを着て、キミの部屋に遊びに行く……いえ突撃することにしました。キミは凄い驚いていたけれど、随分だらしなく頬が緩んでいたから、すーっごく恥ずかしかったけど嬉しかったです。

 こんなぺったんこでも喜んでくれると分かったら、なんとなく欲も出るというものです、可愛い水着を次々とネットで買っちゃいました。ふふっ、ヤバ~イ。痴女まっしぐらですね。


 そんなこんなで莫迦みたいな毎日はキラキラしてました。性別がちがっても友情は育てることが出来るなんて思っちゃったりもしました。莫迦ですよね。私のほうがキミよりもっと、だれよりもずっとキミが好きなんですから。でもこの気持を素直に伝えることなんてできませんでした。


 伝えたくてなんども飲み込んだ言葉「大好きだよ」、意気地がないだけかもしれませんね。キミの優しさにつけ込んでいたのかもしれません、悪女です。おさなおさなサギです。


 ある日、一緒に手をつないで出掛けた公園のフリーマーケットで「なんかボクの趣味で選んじゃったけど、ほかのが良かった?」とシルバーのリングをキミがくれました。きっと私は気持ちが悪いぐらい笑顔だった思うんですよ。我慢できなくなってしまって右の薬指に付けてしまいました。そうしたらキミは左手の薬指に付けてほしかったっぽいですけど、男の子なんてそんなものでしょうね。内緒だけど、右手の薬指は「恋を叶える」って願いを込めるところなんですよ。ふふ。


「キミはたまにキザだよね」っていったらスッゴイ赤くなっていて、つられて私も顔があちちになってしまいましたが、そっぽを向いて堪えてたんですからね。もう本当にキミったらキミですね。


 それから、いっぱいいっぱいいっぱい異世界について話ました。今の人生に残った私の未練を託されてしまう異世界さんもさぞご迷惑だったかと思います。ええ。ほんとうはもっともっと話したいことなんて腐るほどあるのに。キミを笑わせることに夢中でした。それが私の全てですからね。


 わたしだって可愛い服を着て美味しいものを食べて恋をして、普通の女の子としてキミと呆れるほどの時間を過ごしたかったんです。でも仕方ないじゃないですか。優しくされたらきっとすがってしまうし、迷惑をかけてしまうことが分かっているのですから。ネガティブなこの気持ちさえ、キミを思うだけで愛おしくなるのですから。


 そうそう、でも私が最も長く一番悩んだのは、キミと結婚したら私の名前がユウキユウキになっちゃうことなのです。物心ついた頃にはこの悩みはあったんですからね。私の大好きの先に常にある悩みだったんですよ。そりゃないよって思いませんか?


 だからといってキミにお婿さんにきてもらったらキミシマキミヒコってなってしまって、ちみちみって変なオジサンみたいになってしまって爆笑しちゃう自信もありす。八方塞がりですよ。なんなんですか、もうっ。


 あ、でもこっそり占った姓名判断での相性は良かったのですよ。誕生日とか血液型占いとかも当然やりました。恥ずかしくなるぐらい乙女すぎでしょう。はぁ顔あっついです、恥ず恥ずです。


 本当は昨日も、なにも伝えないつもりだったんだけど、我慢できなかったんです。ごめんなさい。あ~あ。最後に恰好をつけることさえ出来なかったですよ。キミは私がいい匂いってよく言ってたけど、私もキミの匂いいっぱい吸い込んじゃったからちょっと満足ですけどね。


 もっと毎日ハグしに行けばよかったなとか、キスぐらいしとけば良かったなあとか、振り返れば後悔ばっかりです。もっと前向きな気持じゃないと私らしくないのに。弱っている姿を見せてしまったらいけないのにね。私がプレゼントしたいと思っていた、楽しい思い出を逆にこんなにもいっぱい溢れるほどもらってしまって良いのでしょうかなんて思います。


 もし叶うならば、元気になって、ずっと寄り添って、やがて歳をとって老いたら、いつかキミといせかいに、なんて詮無きことを思うんです。




 キミに短いお手紙を書きました。


 嘘つきでごめんなさい。

 告白、嬉しかったです。

 大好きだよん。

 本当は童貞と処女を交換したかったけど。忘れられない女になったら困るでしょ?

 魔法使いになるなよ。

 いつ異世界にいこっか?

 ユウキ




「ばっか、なんで『よん』なんだよ。こいつ、やっぱりアホだな。忘れられるわけないだろうに――異世界いきてーなぁ」

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