一五 ケース バイ 転生・転移

「色色な人生があり、多様な生活があるんだよ! つまり可能性は無限大だけれどもリスクは極限まで減らしたいわたしが来ましたよ」


 頬を薄桃色に染めて、砂糖菓子のようにとろける笑顔をたたえてユウが、豪快に窓を開けてボクの部屋に突撃してきた。白いTシャツに白いホットパンツ、部屋着オブ部屋着。服の下に着ている黒色の何かが薄っすらと見えるが気にしないことにしよう。寒くないのかちょっと心配だが。それでもって今日もちっちゃくて可愛い、左をちょこんとサイドテールにしている毛先がぴょこぴょこ跳ねる。近づいてくるとほんのりとした幸せが鼻孔をかすめて、ボクの頬も自然とゆるむ。


「また今日も唐突だな」

「ごほん静粛に。本日のテーマは“転生先・転移先問題”と大発表だよっ」


 ほほう。異世界ものでは転生ないしは転移というのは避けては通れない問題ではあるね。それ次第ではイージーにも、ベリーハードにもなりうるところダシネ。ボクだったら自分の運を信じたいところだ。更に言っちゃうならば強くてニューゲーム的なやつならありがたい。


「異世界への転生・転移先にも色色なパターンがあると思うんだよ」

「たしかにな。一般的には王城とか、草原にぽつねんとかかな。目が覚めたら知らない人体にインしてたりもありがちだ。できれば避けたいのは上空三千メートルとか、ダンジョンの深部とか致死率の高いところだな。魔の森とかも相当ヤベーかもな」


「それは人として転生できた場合ね~。蜘蛛とかけだものだったりとかね」

「畜生道に堕ちてるぢゃねーか!」


「あと、石の中の場合もあるかもねー」

「それは、転移じゃなくておっとテレポーターしてるぞ」


「そうそう。つまり何が言いたいかっていうと、状況は多岐にわたっちゃうのだよってこと」

「出オチというか、即死なプレイスは考えたくないのだが」

「ということで状況開始よ!」

「はなしきかねーなー」

 まぁ、そうゆうことになった。


「私王女様。地面ピカッとインスタントで召喚されたキミは異世界にきちゃって帰れないから、それでも鑑定したら強そうだから、マオーたおせよ! じゃあな、あとはよしなになー。そうそう貴族と騎士ぽい人がうおぅー成功だって言ってる」

「ザツ! 雑すぎる」


 まぁまぁ。王家に召喚される流れのプロローグとか最初の何話かを要約するとこうなんだけどさ。ザツすぎん? 一発で状況把握できちゃう端的で疑問を挟む余地がないほど簡素で的確な説明ではあるんだけれども。

「女王様ならそれらしく言葉を尽くして! もしくはメリハリのある展開をみせて」

「えー面倒くさいな……洗脳するか」ボソッ。

「こら、なんつった」


「それじゃあ、あなたには四つの選択肢があるわ。ひとつ、この首輪をつけてわたしの犬になる。ふたつ、いつのまにか魅了されてわたしのもの。みっつ、みだらな性奴隷。よん、そのほか」

 よんが現れやがった。あとは隷属しかないじゃんか。


「ちなみに四番目はどういったものでしょうか」

「それを選ぶなんてどうかしてるわ」

「では四でおねがいします」

「それを選ぶなんてどうかしてるわ」


「あ、これはRPGで選べないループ選択肢のヤツだ。でもワンチャン、二五六回選択すれば選べるかもしれないな」

「バ○ュラじゃないから! ゴホン……取り乱しましたわ。それを選ぶなんてどうかしてるわ」

「二五六回同じ受け答えをして壊れるのはきっとボクだけどなー。そんなわけで王城に召喚された時点でアウト感すごいな」


「難易度的には☆5だね」

「基準がわからないんだけど、ダメ寄りだということはわかるわ」

 いずれにしろ奴隷一直線だけどな。王城はナシだな。


「それじゃ、魔の森に転生しました。目の前にレッドドラゴンがいますよ~」

「はい、死んだ」

「諦めるの早すぎない?」

「いや、死ぬでしょ? レベル一だよね、たぶん」

「レベルは一六だけど、無職だよ」


「あーだいぶ前にそうゆう設定あったね、なにか武器とか持ってないのですかねぇ」

「キミには鍛えあげた拳が……後々備わる予定ですねー。がんばれがんばれ」

「よーし、その喧嘩買った」


「中略……おお死んでしまうとは何事だ、転生させてやろう」

「ザツ。今日はザツ! はい、センセー異議あり! 蘇生してくれないんですか?」

「そんな都合の良いやつはありませんがなにか?」

「……」

「そーれ。弱くてニューゲーム」

「ぬ。なんつった」


「ちなみに難易度は☆6だよ」

 魔の森もナシだな。そもそもこの世界の神様というか管理者がユウの時点で詰んでるんだよな。◯マンシアぐらい正解ルートが少ないというかハマるんじゃないの、これ。山◯章さんとかじゃなきゃクリアできんだろ。多分難易度はベリーハードとアルティメットとエクストリームしかないぞ。


「それじゃあ、キミはサラダキングダムにトメートとして生まれたのよ」

「また、へんなのに転生させてくれたな。質問していいか?」

「質問はカタカナ入力で受け付けるわ」

「意味がわかんねぇー」

「デゼニーだったら英語入力しか受け付けないのだから感謝してほしいよ」

「チェンジ。あまねく世界にチェンジを。次をお願いします」


「そうだ、異世界からくるスタイルもあるよ」

「ほほう」

「なんか超大型の台風が列島を縦断しているなか、すっごい地震が同時期に発生するんだけど、そのタイミングで部長がくしゃみをしたら世界が変質しちゃうんだよ」

「部長なにやった?」

「嵐は嘘のように収まったけど、結果として街中に緑色っぽい超人な生き物や二足歩行のマントと仮面を付けたほにゃららマンとかアニメキャラっぽいヤツなんかが闊歩する世界になってしまうのだよ」


「コスプレ会場かな。なんだろう、このどうしようもない危機感のなさ」

「そんな世界の変革にびっくりしたキミはあたふたしてください」

「なんだかなー。まぁするけど、あたふた」


「やぁ来たぞ我が幼馴染よ、無条件で世界の半分をおまえにやろう」

「あ、どもども」

「めでたしめでたし」

「ユウが魔王だった!」


「あーそーそー、その部長はクシャミの瞬間につるっぱげになっちゃって、涙目になっちゃうんだけどそれは余談かな~」

「部長、ウイッグばれ。たんなる貰い事故だった」


「難易度はおよそ☆3だよ」

 ゆとりなの? 簡単そうだけど、あたまがアホになりそうだよ、ボクは。


「もっと簡単なヤツないですかねぇ」

「わかったよ~だったらこんなのはどうかな? 気がつくと真っ暗ななにかに閉じ込められているような、キミはぼんやりと覚醒しながらそんなことを考えるんだよ」

「ふむふむ、それでそれで」

「やがて何かが破れるような、剥がれるような音が聞こえたかと思うと、微かな水の音とともに光と温かいなにかといい匂いに包まれていくのだよ」

「いいよ、なんか幸せが訪れそうな出だしではないですか」


「それからしばらくして、なんとなくお腹の満たされたキミはまどろみとともに眠りに落ちるんだよ」

「お、これは赤ちゃんに転生系の展開がキタのか!?」


「やがて強烈な光がやってくるとともに、二本の棒がさしこまれ、油分をまとった調味液をぶちこまれ……」

「ちょっとマテ、カップ麺だよね、それ? ねぇ?? 簡単っていったけど簡単に食えるって意味じゃないんだよなぁ」


「調理難易度的には☆1ぐらいかな」

「昨日も言ったけどボクは非常食じゃないんだよ。食い気を抑えて! だいたい、これって喰われて終わる未来しかないから」

「ソンナコトナイヨー。やがて栄養を一杯に吸い込んだキミは二倍以上の大きさに成長するんだよ」

「ノビテルー、タベテー」

「やっぱり食べてほしいんじゃん。ツンデレなのかな」

「だあああああ、なんだかハラタツ~」

「そんなにテンションあげないでよ~、ノンフライなんだから」

「ウマくないからな」

「じゃあ食べないよ」


「あwせdrftぎゅhじこlp、ちげーーーーーぇ」

 丹田にオーラを貯めて壁ドン、丹田にオーラを貯めて壁ドン。落ち着けいまは焦るときじゃない。ひっひっふー。こうゆうときは数字を数えるんだ。いち、にい、さん、いっぱい。いち、にい、いっぱい。いちっぱい。いち……かゆ……。


「やれやれ、テンション高いね~。あれ~壁に追い込まれてる系わたし?」

「うっせー。なんでどれもこれもクソゲーレベルなんだよ」

「こんな てんせいに まじに なっちゃって どうするの」

 ああ、納得したわ。これは挑戦状だったわけか。どんな状況になっても冷静に行かないといけないね。そうクールにだ。むぎゅ。「つかまえた~」だぁ~~~、抱きつくな。あったかやわらかいいにおい。春のおひさまがここにいた。


「転生者は取り乱したら負けだよ~」

「わかってる、クールに。そうクールにだ」


 むぎゅ。

 ムリ~。


「ところで、根本的でいまさらな疑問なんだが、どうして転生したいのだね」

「ん? 知りたいの? 転生というのは、人生にエクストラターンを得ることなのだよ」

「な、なんだってー。やれやれカードゲームみたくなってきたな」


「そう、ずーっとわたしのターンよ! つまりヤリたい放題。ということでさっさとこの魔法陣に乗るのよっ」

 と言いながらユウは丸めてあった模造紙を手元に引きよせて、床に広げるとボクをその中心に座らせようとする。抵抗しても無駄なんで素直に入るけどさー。


 ガチャ。

「おいなんで、後ろ手におもちゃの手錠で拘束された?」

「いいから、いいから。次はこれだよー」


「こわっ、アイマスクさせてどうするんだよ、こわっ」

「いいから、いいから」

 ちょっと背中にぴったりくっつきながらとかやめませんかねぇ、抵抗する気持ちが絶滅というか、もっと頼む。


「ところで、いま一瞬なんだけど、ニワトリ(ぬいぐるみ)とナイフ(おもちゃ)がみえたんだけどー」

「いいから、いいから」


「よくないよくない。ちょまま、ちょっとまって、それ悪魔召喚するやつ。ボク生贄なの?」

「大丈夫、依代よりしろとして肉体は残るからね」

「ねぇ、精神は? ねぇねぇ精神は~~~」


「よしよし、もうちょっとだから待っててね~」

 あやされてる? あれだ、目隠しをされているものだから、戦々恐々として状況の経過を待つしかやることないんだよね~。とか思っていたらアイマスクを外されましたよっと。


「我を呼び出したのはおまえか~」

「なんで黒いレザーっぽい水着になってるんだよ」

「わたし、サッキュバスのサッポロ。ほらほらシッポかわいいでしょ?」


「ちょ、ローライズ。シッポ以外も見えちゃってるからね! 上もニアリー紐。あと名前なのサッポロ? 名は体を表すってか」

「なんですと………………じゃ、そうゆうことで」

 どうゆうことなんだよ。鏡に写った自分の姿を見てびっくりした様子のユウは、瞬間に真っ赤になって自分の部屋にダッシュで戻っていきおった。さっぽろり。


 眼福。

 あ、ロリのサッポロという意味だからね? 他意はないからね、本当だよ?

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