〇九 状態異常に対処する方法

 お礼は高価たかく付いたようだ。


「ユウさんや、宿題のノートを返却するときに“ぷっ”って言いながら先生に目をそらされたんだけど、なにか心当たりはないかな?」


 それは先生によって中二病がボクに付与された瞬間だった。委員会・部活動などとかの欄に書き込まれたらどうしてくれるんだよ。


「な、なんのことかな」


 おい、キョドりながら下手な口笛のマネするな。ごまかしかたがいつも同じだぞ。隠す努力をしないのか、隠蔽がどうしようもなく下手くそなのか。うん、考えるまでもなく両方だったね。


「借したノート全ページの下の空白にイタイ呪文を書かなかったかな?」


「き、きのせいだよ。……痛くないしボソッ」


「なんか所所に魔法陣が書かれていて、魔術書みたいになっちゃってるんだが」


「へー、そうなんだー」


 おい、下手くそか、棒読みですよ。お仕置きにぐ~でこめかみをぐりぐりしてあげようかしらね。


「あ~あっ……確認しないで提出するからだよ……あばばばば、頭がぁ」


「報復は虚しいなぁ」


「ひどいよ~。物理攻撃により超軽度な頭痛と、薄っすら赤くなっちゃってるこめかみに四パーミル位の麻痺がみられるよ。目に見えないレベルの状態異常になってるじゃん」


「また変なことを言い始めたな」


 ユウはボクのお腹にツッコむように頭部をこちらに突きつけながら「さぁ撫でるが良い!」って言ってきた。


「ま、まぁいいけど」撫でるけどさぁ~。


「ふふ、自分で攻撃してから撫でるとか、マッチポンプもいいところだよね~」


「うるさいですよ」


「とりま、撫でることによる癒やし効果の検証をしたいと思いますので丁寧にお願いねー」


 やれやれ。室内灯、LEDの白熱色を取り込んで綺麗なつやのあるサラッサラの髪の毛にそっと指をふれる。沈黙。なんだろうな、このカニを食べているときのような集中力と口を開くことすらはばかられる気持ちは。


「『沈黙』だねぇ」


 うっせ。仕方ないんだよ。しっかり堪能させていただきましたからね。


「本日のテーマは状態異常なんだけど知ってる?」


「もちろん初耳だ! あれだろ、なかなか大きくならないとかな」


「おい、いまどこ見て言った、んっ?」


「……なにも見てないよ?」


「ごまかそうとしてるね、視線の行方だよ? リピートアフターミー『お・む・ね』はい復唱」


「分かって聞いてるからたちが悪いぞ。その辱めはなんだよ、もっともそんなものは見当たら……」


「おい、異世界逝っとくか? 逝き方は選ばせてあげよう。警察オア他殺」


「社会的か物理的かの違いはあれど、殺られる! あと警察から異世界に行くパターンは終身刑しか思い浮かばぬ」


 ストップおまわりさんあそこです。あと内緒だけど身長のこともよぎりました。


 状態異常。


 ゲームではおなじみのステータスの変化だ。広義ではバフいわゆる能力などの底上げや上昇なども含まれるけれども、ここでユウが言ってるのはバステ、いわゆるバッドステータスを示唆しているのは議論を待たないだろうね。


 とはいっても現実的な問題として、物理的であれ精神的な問題であれ身体というのは何らかの影響を及ぼし合うし、フラットな状態というは逆に珍しいくらいなのだろうけれども、そこから自身の許容値をこぼれたものが状態異常なのだろう。


「状態異常を思いつく限り答えよ、正答ごとに一転1点をあげちゃう」


「なにか腑に落ちない気がするが、そうだな思いつくところだと、どく、やけど、出血、怯み、スタン、凍結、暗闇、恐怖、発狂、老化や空腹とかだな」


「私が得意なのは怒り、魅了、沈黙、まひ、パニック、石化、呪い、病気とかかなぁ」


 得意とは?


「あ、そうそう脱衣が入ってないよ~」


「ほほう、どうゆう効果なのか教えてもらおうか」


「じゃ、実践あるのみだよ~」


「オイマテって遅かったか」


 ノータイムでお腹のところに手をかけると、一息に着ていたパーカーをキャストオフしやがった。ところでそのパーカーどこで買ったんだよ。“チートは鑑定と全属性魔法で”って書いてあったよね?


「マテっていっただろうがー」


「あ、怒りを付けるの成功。……ふむ、若干の発熱と魅了もかかってるかもー」


 おでこに手をあてて熱を測らないでよろしい。近いから肌を露出しながらこないで、ボクの理性があの世にいっちゃうんだよ! ちくせう的確に弱点を突いてくるな。


「…………」


「あっ。沈黙と軽度のまひとパニックもついたかなー。状態異常は重複するからねぇ」


「もう、どうにでもしてくれ」


「さらに、えいっ」


 ちょっと、ボクに寄りかりながらジーパン脱がないでほしいんだけど、最後片足が上手に脱げなくて、脚を振ってるの可愛いのだけど、むぎゅむぎゅされっから。あざといわー。


「効果をまとめるとキミにめっちゃバステと盛りがついて、わたしにはキミの視線が絡みついて羞恥がつくけどマウントが取れる結果になったよ?」


 ぐぬぬ。反論できぬ。盛り……羞恥。


「ユウには恒常的に頭がオカシイ病気とかついてないかな?」


「あ、やた、羞恥もついた。……でも、すごない? くさい息を吐くあの人並みに一気に色色付けられるじゃん」


「女子にくさい息かけられたらちょっと涙出るかも……」


「はい、悲しみも頂きました!」


 ああ、ボクの感情が支配されてゆく。


「そういえば、昨日の体育のせいで体が刃牙刃牙バキバキとかいってなかった?」


「なんというか凄い筋肉質の人っぽいけどな。そもそもインドア派にマラソンとか拷問だよな、あちこちが痛いよ」


「その痛みこそがバッドステータス。状態異常。つまり体育教師は敵性存在だったんだよ。狩っとこ?」


「ユウはおっさん全般になにか恨みでもあるのかな」


「おっさんはオークの近親種だからねぇ、氾濫スタンピードするまえに間引こう」


「もうおっさんという名のデバフが掛かってるのだろうな」


 哀れ、未来が怖いわ。


「そうそう、おっさんといえば。キミは虫が触れなくなったって言ってたじゃない?」


「最近気がついんたんだけどね。大人になるにつれて触れなくなってきてる気がするんだよ。ちょっとまてボクはまだおっさんじゃないからな」


「それは大人というデバフが掛かってるからなんだよ」


「なんだってー。大人になるのがマイナス効果みたいじゃないか」


「えっ、いいことあるの?」


「そうだなぁ、働いてお金が継続的に増えていくバフが掛かるはずだからプラスマイナスゼロとかでどうだ?」


「バッドステータスを付与、サラリー八〇パーセントオフよ」


「ひどい懲戒処分のようになってるぞ」


「ノンサラリーでダイエットよ!」


「死んじゃうから。あとユウはダイエットじゃなくてむしろお肉を増やしとけ」


「胸肉のことじゃなかろうな?」


「三〇〇グラムで三〇〇円ぐらいのヤツな……ごめんなさい」


「とりま、魔法だったら状態異常なんてなんでも治りそうでいいよね」


「そうだな、限界はあるかもだけど奇跡に近いしな」


「謎の万能感・全能感に目覚めちゃうよ」


 まぁ状態異常は多岐に渡るし、それをすべからく網羅して回復できる万能薬なんてものも登場したりするけれど、それってもう超常現象すぎて理解が及ばないよね。そうゆう意味では現代医学って対処療法にはなるけれど解決手段はそこそこ用意されていて魔法のようではあるんだけどね。


「治りにくそうといったら、カエル化とか小人化とかもあるよね」


「カエルになっちゃうやつとか、小さくなっちゃうヤツはもう治らんだろう」


「小さくなっちゃうヤツは私が脱げば治る、どやや~ん」


「下品! ユウが処置不能。脳に異常ありですね」


「でもカエルに変わるってどうゆうことなんだろうね」


「魔法使ってバレたんじゃ……完全変態だしな」


「きゃー。変態。お薬どうぞ」


「おいまて、お薬で変態は治らないぞ」


「え、ヤモリの黒焼きとかニワトリの生き血とか必要なやつなの?」


「そうだね。分かっていることは呪術的な儀式は必要ないんじゃないかなぁ」


「医療少年院はこちらだよ→」


「ちっがーう。ストップ、ウェイト、ちょい停止。変態の定義について語り合おうか」


「もう、えっちなんだから」


 おい、赤面すんな。


、そうゆう意味ではなk……」


「うわー、変態って認めたし。えっちだ。眼球と虹彩を動かす筋組織以外は石になれ! あと喋るのはセーフ」


「なーんか微妙で細かい呪いというか石化の指定なんだよなー」


「視程は大体五〇メートルぐらいです。部屋の広さ的に」


「見ることだけできて動けないとかツライだろ」


「反省したら解除されるはず」


 ずいぶんファジーなヤツだな。


「そもそも、ボクは姿形が著しく変容することを言ってるんだよ」


「つまり、大が小に……水着……からの大」


「そうじゃねーーぇ。変態前提でお話を進めないでもらえますかねぇ」


「ほら、やっぱり変態じゃん」


 じりじりと後ろに下がったりされると傷つくんだけど。


「そんなものじゃないからな」


「そんなものじゃないって……えっ、ちょっとまって、ド変態なんて嫌なんですけれども~。キミはクビよ!」


「おい“ド”を付け足すな。変態に不満があったわけじゃないから」


「なら、変態で決定じゃん、追放」


 ボクは今日もパーティーをクビになった。


「ああ、そうそう。言い忘れていたよ。キミは変態の相がでているよ。解除したければこのドツボを買うといいよ? 七六五〇円也」


「お年玉の残りで、かえるけどさ、時間経過でどうにかなりそうでは……」


「自然治癒はないよ」


「そもそもツボはいらないし、ドツボはもっと要らないんだよなぁ」


「あら、ではこのおハーブでもなおりますわよ」


「草w」


 それから、ボクがあくびを噛み殺したタイミングで、ユウは服を着直しながらカエルことにしたようだ。おいまてそのカエル頭のフードがついたパーカーどっからだした! そんなのまで仕込んでたのかよ。準備万端すぎるだろ。


「さて、今日はホームシックが付いたから帰るね」


「母つーかよ!」


 翌朝。目が覚めると、ユウとがっつり目が合った。ふぁぁ? ちょうどボクのベッドの真上に水着の肖像画が貼ってあった。いつの間にか移動してやがる、えーっと昨日の夜には壁にあった気がするのだけれど。


 なんでこれで気づかないのだろうね、ボクは。ちょっとやそっとじゃ、眠りの状態が解除されないようです。異世界にいったら野営は無理なんじゃないだろうか。


 それはそうと、起きぬけにユウの笑顔と水着姿みると気分は上がるんだよなぁ。バフ盛りがすぎるぞ。

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