〇六 装備品は慎重に選ぼうか

「わたしの身長を返してよ~」


「これはまた唐突ですな」


 ユウと手を繋いでフリーマーケットをそぞろ歩いていると、なにやら身に覚えのないことで糾弾されはじめた、ウケる。


「ほら見て。手を繋ぐときにさ、わたしは肘を曲げて腕をちょっと持ち上げるんだよ。そうしないと届かないから。これがなんか悔しいんだよ。お父さんと子供ってこんな感じになるじゃんか」


 確かに客観的にみたら親子感あるけれども、ボクはどちらかと言うと“おまわりさんこの人です”のほうが怖いけどね。


「それで身長との繋がりが見えないんだが……」


「こう腕を持ち上げるためのカロリー消費が、きっとわたしの背の丈に回ってくるはずだったカロリーなのだよ、キミ」


 そうゆうこと? ほかにもカロリーが必要そうなところがあるけどな、育てるためには誠に遺憾だが提案しなくてはいけないのか。


「じゃ手は繋がないか?」


「いやだし。それは別の問題だよ~」


 きゅっと、指先に伝わる感覚が強くなる。なんだろうこのちょっとしたユウの挙動だけでボクにあふれくるものがある。自然と手を繋ぐのは幼馴染の特権かもしれない。ボクが右側でユウが左側。左手と右手。


 子供の頃からボクたちの立ち位置はいつも同じだ。こうするとお互いに利き手が自由になるから。


「ところで。いまどこ見て言ったのかな。んっ?」


「……なにも見てないよ?」


 胸の前に手を当てながらジト目で問いかけてきた、うん、なんだか圧がすごいな。


「身長を伸ばすにはカルシウム、上質なタンパク源と睡眠が大事だな、うん」


「あ、ごまかそうとしてるでしょ。今話題にしているのは視線の行方だよ。リピートアフターミー、おっぱい。はい復唱」


「分かって言ってるからたちが悪いだろ。その辱めはなんだよ、もっともそんなものは見当たら……ひっ……ごめんなぱい」


「異世界逝っとく? 逝き方は選ばせてあげるよ」


 そんなユウの手にはなんだかジャバラ状の鈍器。いわゆる聖剣をお持ちでいらっしゃった。


「おい、そのハリセンどこからだした」


のお店で展示してあったよ」


「なんでだよ! 売り物なのかよ! 武器は販売できないんだろうが」


「都合のいいところにハリセンが配置される世界線だからね」


「えっ、まじで?」


 そこ? ユウの指差す傍らに視線を向けるとなんだかよくわからない武器屋さん(のようなもの)が商品を所狭しとディスプレイしていた。ちらっとラインアップを眺めれば発狂しているのではとおもう品揃えだ。そもそも商売をする気があるのかはなはだ疑問だ。


 ヌンチャク、アメリカンクラッカー、銀玉鉄砲、パチンコ、モデルガン、ヒノキの棒、棍棒、プラスチックのバット、ピコピコハンマー、プラスチックの刀、トンファー、木刀、円月輪っぽいブーメラン、それからハリセンそしてハリセンとハリセン。種類多いなハリセン。


 ついでになんか魔女っ子が持ちそうなステッキ類や変身ベルトなどがが値札を付けて所狭しと置かれている。あーツッコまないぞ。ツッコんだら負けだろこれは。意外なことに客の寄り付きはよくて店先には数人が足を止めている。


 ちらちらと冷やかしていたら、ユウがその中にあったナイフを手に取りボクに突き刺してきた。


「うへへ、お命頂戴。夢の異世界旅行へようこそ!」


「ぎゃぁ~。っておい」


 刺すと刃先が柄の中に引っ込むプラスチックのナイフでした。あったねこんなの。ガムあげるって言われて、引き抜くと指をパチンとする玩具ぐらい久しぶりに見たわ。やれやれ、危うく異世界に送り込まれるところだったよ。


「ねーねー、この鈍器なんてどうかな?」


「どれどれ、おりはる棍って雑にもほどがあるだろ。太めの木のこん棒じゃん!」


「お安そうだよ?」


「ほほう、二〇〇G(税込)っていくらだよ」


 よく見ると商品の値札には円ではなくてGという謎の単位が付けてある。良い意味で捉えるならば、趣向を凝らしているワケで世界観の演出なんだろうか。でも税はかかるのかよ! なんか台無しだよ。


「ゴブリンの魔石で二○匹分ぐらいかな。つまり読みはゴブだよ!」


 ゴブリン商店でしたか。ジ◯ノの下層じゃないからね。


「えー、ゴールドじゃないんだ」


「うむ、昨今は金本位制ではないからね」


 八百屋さんで、はいお釣り参百万両とかいわれたときぐらいポカンとするわ。お金の単位ってえんもそうだけどドルとかポンドとか一捻りある印象が強いから、オーソドックスにって書かれているのを目にすると違和感はあるなー。


 でも、なんとなくお客さん居るのわかってきた、なんかポンコツ楽しいよ、ここ。必要かどうかで考えれば断固ゴミなんだけどね。それとわかっていても変な魅力があるのは間違いない。店主の趣味全開だしな。


「ねーねー。ここのお店の人は異世界転生者かもよ?」


「その手に持っている棍棒はアホになる呪いでもかかっていたか」


「やめてよー、その憐憫れんびんを湛えたまなこは。呪いなんてないし健常だし」


「まぁ状態異常者はだいたいそう言うんだよ」


「ぶーぶー」


 いかんいかん、アホの子を優しく見すぎてしまったか。なにを根拠にその見解になってるんだろうか。


「そもそもどうしてそう思ったんだ。転生者の印でもついていたか?」


「うーん、格好かな。指ぬきのグローブしてるし、おまけに眼帯もしてるし」


「まて、それだとウイッシュの人も転生者になるだろうが。あれは中二病疾患だから」


「じゃあキミは中二病だから転生者(予定)だね」


 なんか聞き捨てならないことを言われた気がするが……ちゅ、ちゅ、中二病ちゃうわ!


「言っておくが、中二病イコール転生者ではないからな」


「嘘だ! またまた~騙そうとしてるでしょ」


 なぜ疑った!? 転生者の判別やバレって必ず踏襲するポイントなんだけれど、そんなところで判断する人はあんまりいないんじゃないかなぁ。これは議論の余地があるなぁ。


「そもそも転生者ってバレる特徴ってなんだろうね」


「服やスマホとかはそうだよね」


 バレの原因となるのは、中世世界に現代的な衣服やかばんといった身に着けている外見的なものや、スマホや腕時計みたいなオーパーツ的なものの所持とか分かりやすいものだよなぁ。


「言葉による弊害みたいなものはほとんどないという設定が多いけれど、地球での諺や故事成語とか四字熟語を心的表現はともかくとして会話で使ってるのはボク的にはバリバリ不自然なんだよね」


「でも、それは現地のものと比較して意訳されてるという解釈もあるんだよ」


「まぁな。それとやっぱりアレだな鑑定でバレるな」


「それは防ぎようがないよね。あとは身ぎれいだったり経済観念とか、生活習慣上の乖離かいりはあるよね絶対」


「それな。むしろ一番、隠蔽がむずかしいところかもな」


 結局、どうしてバレを避けているのかということに帰結するわけなんだけれど。異世界に行ったとしてチートなりなんなりで勝手気ままに自由を謳歌したいワケで。それに対して障害となる事例、例えば貴族などといった権力や暴力などの介入を避けるために秘密にしたいのだ。


 でもチートって慎ましくひっそりと暮らすなんてものとは相容れないし、いうなれば二律背反。生きづらいよな。


「そうだ! ギリースーツとかなら発見されないかも!」


 草とか枝とか体中につけて発見されにくくはなるけれどね。それでキミは狙撃手にでもなるのかね? アンブッシュしていてもなにも生まれないとおもうけど。


「どこで暮らすんだよ? 映像を想像してみろよ……主人公とヒロインがみんなモサモサだったら激しく盛り下がりまくるだろうが!」


「森? そう森で暮らす人になるのだよ。つまり森の人!」


「うんそれ、オランウータン。もう人ではなくなっているからな。もっとも異世界で森に引きこもりたくないけどな」


 そんな馬鹿話をしながらの物見遊山は楽しいもので。ユウはなんだかんだでボクの腕に自分の腕を絡めて胸を押し付けてくる。内心はドギマギしながらも、零に近い距離感を満喫しながら身のない与太話くりかえす。えっと、ちょっとは柔らかいですよ。


「ねーねー。このリングなんてどう? 付けてみてよ」


 ユウが髑髏ドクロがあしらわれ、一部を硫化させてくすませてあるいわゆるいぶし銀のシルバーリングを勧めてくる。


「えーなんか呪われそうじゃない?」


「大丈夫、鑑定したから。知能が一倍になるリングだよ」


「よん(笑)じゃねーか。ほんとにゴミのような性能しかないじゃん。ハックアンドスラッシュの初期みたいだよ」


 ボクはRPGロールプレイングゲームやハクスラ系をプレイすると、ネタ装備とか呪われているアイテムとかも収集してタンスの肥やしにしてニヤニヤしたりするタイプだけれども、それをユウも知ってるけれども、横で見てるからね大概。髑髏って。とか考えていたら別の商品を手にとって見せてくる。


「コレなんてすごそうじゃん、どーよ?」


「うわ、アーマーリングじゃん。珍しいなぁ」


「指の防御力が二七くらいアップだね」


「範囲狭いな。ピンポイントバリアぐらい狭いなぁ」


 ヴィヴィアンっぽいデザインがカッコいいのは確かで、手にとって試着させてもらう。人差し指をジャバラ状に覆い爪先の部分がシャープな形状は男の子ならグッとはくるよね。けれども、普段遣いには向かないよね。ボクが持ってたら明らかに死蔵になっちゃう。


「なにゆえパンクっぽいのばっかりオススメしてくるのだろうか」


「えーっと。中二病寄りのほうがいた……かっこいい?」


「今、イタイとか言おうとしたよね? あと疑問形やめて」


「うわっ、デザインの関係もあるだろうけど、結構いいお値段するな」


「ふむ、六〇〇〇レンテンマルクかぁ」


「いつの時代のお金の単位だよ! ハイパーインフレは起こってねーよ。ついでにペソでもガバスでもないからな」


「先回りはよくないよ~」


 それからしばらく、ぶらぶらと様様なブースを冷やかして歩く。ときに手に取り、たまに店先の人に声をかけられてそそくさと撤退したりしながら。


 足取りは緩やかで会場を賑やかすだけの存在かもしれないけれど。ちょっとした宝探しみたいなものも味わえて楽しいな。


 そんな折、ふとユウが足を止めて眺めている店先は、黒いビロードの上に多くのシルバーアクセサリ。リングやチョーカー、ペンダントが整然と並べられている。比較的簡素だけどなんとなく惹かれるデザインのものが多い。お値段もお手頃で普段遣いに向いてそうだった。


 ユウの視線の先にあった指輪を一つとって持ち上げると、連動するように彼女のおとがいが上がる。わかりやすい。それはディスプレイの隅で、太陽の光を集めて輝くシンプルなシルバーリングだった。


 シルバーは柔らかいからできることなのだけど、お店の人に声を掛けてその場で5号のサイズに調整してもらい購入。ユウの小さな手にそっと握らせる。


「ほい、どうぞ」


「わぁ、ありがとね。なんでサイズを知っているのかは謎だけれども」


「パンクな指輪の店で物色してるときになんとなく分かったからな」


「見られてた!」


 顔をほころばせてこちらを向いてきたのでお値段以上の価値はあったのかな、とは思う。


「でれでれでれでぇ~~れっ♪」


「なんか呪われてない?」


「もうとれないよー」


「なんかボクの趣味で選んじゃったけど、ほかのが良かった?」


「ううん。ありがとう。これでいい……これがいいの。気分が七五七アップするから!」


 ユウは買ってあげた指輪を右手の薬指に付けてたのを見つめながら、にまにましていた。なんだか嬉しそうに緩んでいる顔を見られたので、僕の気持ちも上がったよ。効果すげー。とはいえ、いつか一番心臓に近い指にはめてもらいたいけどね。


 衝動的にプレゼントしてしまったのだけれど。それがそこにあるのが自然なものってあるよね。太陽や月はもちろん、街角の赤いポストでさえあたりまえにそこにいて、世界に溶け込んでいる。ボクにはなぜかその指輪がユウのところにあるのが自然な気がしたんだ。


「キミはたまにキザだよね」


「うっせ」


 ぼそっというなし。ちょっとだけ自覚あるからやめて。赤面するから。ちょっとだけだぞ。


 それから。おもいっきりフリーマーケットを楽しんで帰宅。その後、ほぼユウしか鳴らさないボクのスマホがなった。夕飯のメニューであろうホワイトシチューの画像が添付されていた。


 ごめんすっかり忘れていたよ、カレー。今日も平和な一日であったな~(白目)。

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