〇七 最終的には耐性がつく

「働き方を改革しようと思うの」


「えっと、行政の長かなにかかな?」


「のぅーでーす。ばつ!」


 今日はなんだろう。楽しみにしている自分がいる、いっぱいいる。ボクはひとりしかいないけれど、いっぱいいる。目の前にはちっぱいいる。ちょっと混乱。


 さて本日のユウの装いですが、黒の半袖のワンピースは足元がやや見えるぐらいのロング丈。編み上げのブーツがちらと見える。毎度のことながら靴は室内用らしいというかボクの部屋用。気持ちパフスリーブ状の袖からは真っ白で綺麗な曲線の腕がのぞいている。それに加えてピナフォアとホワイトブリムという鉄板の組み合わせだった。


 一言で伝えるとメイドだった。ちっさいメイドだった。スッゴイ似合っている。


 でもきっと変なことを言い始めるんだ。このように

「昨今の異世界事情は複雑化する一途です。その中においても生活していくには貨幣・金銭が必須の要素となります。昔から働かざるもの食うべからずとも言われます。こちらをスローガンとして、業界としては各種耐性の上昇と雇用機会の創出を検討していく所存です」


「所信表明演説! だいたい業界ってなによ」


「異世界冒険者組合と関連商会、チート検討委員会が主になります」


 ふーん。としかいえないヤツだ、これ。めんどくさ。


「というか、今日のユウは誰ですか?」


 どうゆう質問してるんだろうね? 何をいっているのか自分でもはなはだ疑問ではあるんだよ。


「わたしはサポートAIですよー。AIあいと呼んでね。ナビゲーションしてあげるからね」


「どうやらまた、おかしいのが出現したな」


「AIだからコンプライアンスにさえ注意していただければ、なにをされても大丈夫だよ?」


「あっこれ知ってる。近づいただけでセクハラで訴えられるやつだよね?」


 拡大解釈で破滅のプレゼントだね。というかだな、なにをされても大丈夫とかいわないように。


「えっと、不慣れな異世界じゃない? ガイドとかあると楽だと思うんだ~」


「そうだね。なんか途端にゲームっぽくなるけどね」


「あと、大事なのが主人公ひとりだと間が持たないから、だよ」


「でたメタ発言、そういうので冷めちゃう人いるよ」


「問題ないよ。メンバーが増えてくると忘れられてフェードアウトしていくから!」


「そ、そうか」

「そうよ!」

 なら仕方ないか。


 メガネすちゃ、してるな。

「えっと、異世界にいったらなにをしますか?」


「チートかな」


「ぶー。それはズルです。やれやれですね。万人ばんにんがチートスキルを貰えるわけではないのですよ。泥臭くいってくださーい」


「じゃ、やっぱり戦闘とか討伐かな? 生活費のために」


「やだ、なんかにおうよ。所帯臭かしら」


「ちょっとお嬢さん?」


「まぁそうですよね。異世界と戦闘は切っても切り離せない間柄だからね」


 そうだよ。ファンタジーといったら中世や転生、戦闘、魔法、チートという要素は必ず踏襲するべきポイントではあるのだ。なかでもバトル関連のイベントは往々にして不可避であるし、ターニングポイントにもなりえるからね。現代生活との絶対的な差別化もここに帰結していくわけだし。


 そして能動、受動に限らず戦闘への手がかりとなるのが冒険者ギルドという存在になるわけですよ。


「そこで、戦うといったらグラディエーターだよね。ということで闘技場にいくよー」


「おーい、まてまて、そこは冒険者だろ」


 微妙にズレてるんだよなー。わざとだろ。


「えー。固定観念は捨てようよ」


「そもそも途中の工程がまったくないよね? きっとボク狩られちゃうよね? なんか職業が戦闘奴隷に向かっている気がするのだが。転職希望します」


「またですか! しかたないなぁ~。冒険者ギルドにいくか~」


「ちょっと嫌そうな感じださないで!」


 とはいえこれでひと安心。ディス・イズ・ファンタジーだもの。いいよいいよ。モンスターとバトルをするならやはり冒険者にならないとだしね。


「いっせーのせでジャンプするよー、一瞬でいけるから」


「なにそのTV的演出」


「四の五の言わずに飛ぶのよ!」


 ……一緒にジャンプさせられた。これは恥ずかしいな、もうしないよ?


「ついたよー。気持ちを切り替えて、もうここは戦場よっ」


「ど、どこに連れてこられちゃったの?」


「冒険者ギルドの入り口ですよー」


 戦場て。やれやれ。とりあえずノッておきますかね。


「ああ。なんか剣と盾を使ったピクトグラムの看板があるな~(棒)」


「いえ、普通に冒険者ギルドって書いてありますよ」


「えっ、識字率の関係とかあるじゃんよ」


「異世界人を馬鹿にしてはいけませんよ~」


 そうですか。すんません。


「では、内部に侵入していきますよ~」


「侵入って」


 一歩踏み出したと同時にトーンを落とした低い声でユウが絡んできた。


「ようようにぃちゃん。後ろの女は、たっぷり可愛がってやるから」


「きゃ~ん」


 ユウ、なんか嬉しそうだね。きゃ~んっていまどき言う? AIさんだよ?


「いきなり絡まれているわけだが、コレがテンプレの力か」


 ユウさぁ、最近二役するの好きね。戦闘するにしてもモンスターじゃないしなー。これはあれだ。ハゲでマッチョでBランクのおっさんだろうなぁ~(白目)。


 すかっ。ユウはボクの右腕に自分の腕を絡めてボクに寄り添ってきた。暖かい。えっ、なにこれ嬉しいけど。でも、いまのシチュエーション的には不安が募りまくるのだが。これって――――。


「さぁ、はやくしろ!」


 なんか強めに引き寄せられた。


「うっわ、おっさんに連行されてるヤツじゃん」


「ぐっへっへ。あっちでいいことしようぜ」


 やめなさい。お腹をさすさすしながら言われてると変な気分になるから。


「ボクが絡まれてた! 貞操の危機だった! ごめんなさいボクはノーマルなんで」


「おれは女だぁ~」


 ああ、そうゆうやつか。ちっぱいでわからなかった。


「受付嬢はいないの? ギルマスは? 普通、ボクを助ける人が現れるでしょうが」


「いませーん。わたし、嘲笑う係ね」


「サイテーだ、このAI」


 ――ハァハァ、なんとか振り切った。


「さてと、冒険者ギルドの受付嬢になるので外で待ち給えよ」


 といって部屋から追い出された。えーっと、ボクの部屋なのだけれども。


 やがて、部屋の前でちょっとした切なさとともに待機していたボクに声がかかる。


「いいよ~はいってきて~」


 覚悟を決めていざ入室。部屋に入るとカウンターみたいに机がレイアウトされていた。まったくどこから持ってきたんだよ。また机を挟むように椅子が配置されている。机の上にはハリセンとアクリル板が置いてあった。なぜだ。これはまた本日も自由ですね。


「ごめんくださ~い」


「ちょっとー、スイングドアに突撃しないでよ!」


「そんなものないでしょう」


「歪んだ心の目で見て!」


 もうさ、仕方ない。演出のエフェクトぐらいいれてやるよ。


「ぎぃ~、から~ん、ぎっこぎっこ。じゃまするぜ」


「なにやってるのかな。変だよ?」


 真顔で問い詰めないで。


「ちくせう。羞恥心がはんぱねー顔熱い」


「そろそろ羞恥耐性が生えるよ~」


「いらないんだよなー、それ」


 さて、大事なことなのでツッコまずにはいられないわけだが、「ところでなんでその格好に?」


「ギルド嬢は制服の胸に名札をつけているものだからね」


「確かにデッカイのついてるよね」


 紺色のヤツに白いゼッケンが縫い付けられてるね。小学校の授業で使うのに用意したやつだよね? いまだにサイズアウトしてないとか涙がでちゃうんだが。哀れ。スクール水着だよね。正しい合法ロリだけれども。


 あと、これは特筆ものなんだけれど、白いサイハイを装備しておりました。ブーツは脱いでいるのに、どうしてそれを脱がないのか。マニアックなんだよなー。好きだけど。ボクのハートにすっごい刺さるけれども。


「ぐぬぬ、なんか知らんけど憐憫れんびんの情とえっちなのが混じっている気がするよ」


「に、似合ってるよ。とても」


「なんか釈然としないのはなぜかしら」


 それにしてもユウの考えている異世界はどうなってるんだろうか。女性の布面積が少ない設定でもあるのか。変態にあふれている。好きだけど。転生したいまである。


 それはそうとして、部屋に入るとギルド嬢? に声をかけられた。長かったやっと実務的なところまできましたよっと。


「いらっしゃ~い。今日はどんな御用ですか?」


「えっと、冒険者になりたいんですけど」


「そうなんですね。どうぞ勝手になさってくださいね」


「はい? 登録をお願いしますって」


「登録は必要ないですよ~どんなクズ人間でも就職できる夢のようなお仕事ですからねー」


「うわ、すごい濃厚な毒がでてる」


「クズになるのに誰かの許可がいるのかしら? 自分がそうだと思ったときから、自認したときからそうなっていくものよ。さぁ自称冒険者クズにおなりなさい」


「…………」


 えっと、脳が思考を拒否するレベルだわ、これ。今日の方向性はちょっと新感覚だ。――そうだ。


「でも、あちらの人がギルドカードみたいなのを使っていますよ」


「あらあらまぁ。ギルド会員になりたかったんですの? 無知蒙昧ですわね」


「もしもし~。ポイズンがだだ漏れですよー」


「アホばかりがきて嫌になっちゃうわ~」


「チェンジ、ギルド嬢チェンジで」


「では金貨八枚になります」


 スパーン!


「ぼったくりかよ」


「ギルド内で武器の使用は厳禁ですよ」


「じゃ、なんでハリセンコレがカウンターに置いてあるんだよ」


「ちなみに金貨一枚で諭吉か栄一ね。価値は下から鉄、銅、銀、金それから霊銀があるってばよ」


 話しきかねーなー。


「だれ、語尾が忍者してない?」


「バカですねー、忍者の語尾はニンニンでござる。これぞ本則ほんそくなり」


 また脱線したな。とはいえお金の話がでた瞬間に、ココぞとばかりに貨幣経済とその価値をわかりやすく入れ込んでくるあたりは流石ですね。


「ちなみに1鉄貨は十円くらい。1010イチゼロイチゼロ鉄貨で1銅貨の価値ね」


「二進数! ゲームの内部処理かよ。10ずつ繰り上がるのな」


 ちょっと感心したボクを返せよ。にしたってだ、ボクたちの会話はいつでもあっちにいったりこっちにいったりとまっすぐには進まない。〇と一しかない世界のように単純ではないんだよ。


「やれやれですね。ギルド職員にツッコミかますとは……あなたはクビよ」


「いきなり追放イベント、キタコレ。ところで、まだパーティー加入どころかギルド登録もしてないけれどなにをクビになったんだ?」


「ツッコミよ! ハリセンを置いてさっさとでていきなさい」


「無限にボケるつもりかよ」


 ツッコミ不在なんてとんでもない。


「チェンジよ。さっさとチェンジしなさい。次の金貨さんクズいらっしゃ~い」


 もうこのギルド嬢やだ~。


「ところで、毒の耐性は生えたかしら?」


「生えないし。欲しいのは毒耐性じゃないんだよな~」


「それにしても、アクリル板をうまく避けてツッコミを入れたものですね」


「まあね。でもなんでアクリル板?」


今流行いまはやりの感染対策よ」


「必要かな~それ。中世欧州だよね、時代考証がおかしいでしょーが」


「あらいやだ、常識が欠如しているのかしら。アンチペストシールドよ!」


「黒死病だった! そんなのが蔓延している世界なのかよ」


「そう、ここで生活をする、コレこそが冒険者よ!」


「やかましいわ」


「そうそう、付け加えるなら。オーバーテクノロジーでもなんでも、そのすべてを可能にするのが魔法よ」


「設定のザルを魔法で解決できる奇跡よ」


 こんな小ボケのためにアクリル板を買って用意したわけでは無いとは思うのだけど、その意図はわかりかねるね。


「どうしてアクリル板なんて持ってるんだよ、そこそこのお値段でしょうに」


「ガラス越しにちゅーをする練習に使えるからね、乙女には必須だよ」


「常識みたいにいわれても」


「興味あるの? それなら練習しちゃう?」


「ちょ……」


「あらら、赤くなってしまって耐性がないですね~」


「う、うっせ。こっち見るな、ニヤニヤすんなー」


 返答に窮してしまった。煽られ耐性も生えてこないみたいだ。


 ボクには、草しか生えんわwww

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