第23話 亀裂

「……え? 言っている意味がよくわからないでやんす」


アーノンはまず自身の聞き間違いを疑う。私からそんな言葉が飛び出るだなんて少しも思っていなかったのだろう。私は再度同じことを言った。


「だから、もうアーノンは使わない。私一人で戦っていく」

「いや、いきなりそれはないでやんしょ? なんでそうなったのか、理由を述べるのが最低限のマナーでやんす」


アーノンはやっとこれが聞き間違いではないと知ると、急に真面目なトーンに変わり、私に理由を求める。しかしアーノンのヒレは忙しなく動いていて、動揺を隠しているのがわかった。


「さっき、ソロバトルタワーでの連戦の途中でディゼから聞いた。【操獣】とカメロケラスランスは改造データだって。その武器をくれたウィズダムとも話したけど、事実だってことで間違いない。ゲーマーとして、私は改造のスキルや武器に頼って戦いたくはないの」

「その言い分もわかるでやんすけど……なんでワチキに相談もしないで一方的に決めるでやんすか。ワチキとクララ嬢は『仲間』だったんじゃなかったのでやんすか?」


アーノンのごもっともな言葉が返ってくる。私はその言葉を聞かないように顔を沈めて、それでも自分が決めた選択を信じることしかできなかった。


「『仲間』だよ。私だって、この選択が正しいだなんて思ってない! 思ってないけど……このままアーノンを使い続けることも正しいと思えないの」


アーノンと一緒に戦いたいけど、改造に手を染めたくない。アンビバレンスな想いが揺れる中で、ズバッとその答えを決めるのは難しい。どの選択が正しいかだなんてわからないけれど、このままアーノンを使い続ければ私はゲーマーではなくなってしまう。そうなれば七瀬を探すこともできなくなる。アーノンを失うか、私のプライドと七瀬の両方を失うか、失うもののを多さを考えるとやはり私はアーノンを使えない。


「これがアーノンを裏切ることになるってこともわかってる。でも、こうするしかないの……!」

「そうでやんすか」

「ごめん、アーノン」

「わかったでやんすよ。もうワチキからは何も言わないでやんす。ただ、ワチキは今までの戦いをクララ嬢と一緒に乗り切ってとても楽しかったのでやんす。これからはそんなこともなくなるのかと思うと、率直に言えば、寂しいでやんすね」

「アーノン……」


アーノンはベンチから降り、地面から私を見上げる。


「じゃあ、これからはまた野良のボスモンスターとしてやっていくでやんす。会いたくなったら、いつでもワチキのいるマップに来るでやんすよ」

「うん……」


私は最後にアーノンを強く抱きしめた。次にアーノンを腕から解放させると、私の相棒はゆっくりとゲートの中へ戻っていく。そこで初めてとても大きな存在を失ったことに気づいた。とてつもない虚無感が私を襲う。私はしばらく公園の中央に設置された噴水の水が流れる様子を眺めてから、力なくセントラル・シティからログアウトした。

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仮想の国のアリス序章〜Story OF THE Ancient Girl〜 門矢稜星 @ryonryon0531

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