第21話 不死の王Ⅱ

 あらためてキングオーガの剣をつかみ直したルカは、一気に距離を詰めに行く。


「邪魔だぁぁぁぁ!!」


【パワーレイズ】によって振るうキングオーガの剣で、骸骨兵たちを次々に粉砕。

 そんなルカを狙って放たれる魔法。

 しかし不死の王は、ここで魔法の選択を間違える。

 放たれたのは、毒を含んだ炎弾だった。


「――――悪いな、効きが悪いんじゃない。そもそも毒は効かないんだ!」


 紫炎を突っ切り、骸骨剣士たちの振り降ろす剣の隙間を縫うようにして跳躍。

 そのまままっすぐ不死の王へ。

 しかし、決め手に欠けるのはルカも同じ。

 キングオーガの剣では、どれだけ深い傷を負わせたとしても回復されてしまう。

 かといって銀のガントレットを外して【魔力開放】を使えば、【解毒】の効果が消える。

 全てが【毒】で作られたこの場所でそれは、あまりに怖い。


「インベントリ!」


 だからルカは手を伸ばす。

 右手に持ったキングオーガの剣が消え、代わりに現れたのは――。


「――――ただ異常に重いだけのハンマー!」


 それは屑鉄を集めて固めただけの、巨大ハンマー。

 前回のダンジョン攻略時に生まれた、『切断以外の攻撃方法が欲しい』という思考のもとに作られた新装備。

 ヘッドだけで数百キロに及ぶ武骨な鉄塊に、同じく鉄の取っ手を付けただけの代物だ。

 もちろん普通に振り回すには重すぎし、大きすぎる。

 だが、高いところから落下の勢いに乗せて振り下ろすだけなら、その威力は絶大だ!


「オラアアアアアアアア――――ッ!!」


 超重量を叩きつける。

 武骨な鉄塊は不死の王の頭部を楽々砕き、そのまま首、胸、腰の骨までを巻き込み地面にめり込んだ。

 まさに必殺の一撃。

 ここまで粉々になってしまえば、いかな不死の王といえど復活はできない。

 砕かれた骨が、砂のように崩れて消えていく。

 不死の王、討伐完了。


「次は魔法防御について少し考えた方がいいかもしれないな……っていうか、魔術師系の敵はこのパターンが多いなぁ」


 その場に遺されたのは、杖に使われていた宝玉だった。

 ルカはささっとひろい上げて、奥へと急ぐ。


「さて、ここの宝は…………」


 魔石脈から零れ落ちる、スライム状の液体。

 どんな怪我にもなかなかの効果を発揮するらしく、薬師はこれを使って様々な調合をするんだとか。

 もちろん高級品だ。

 無事お宝を発見したルカは、さっそくビンを片手に採取にかかる。


「よし、今夜はここまでだな」


 こうして今夜も無事にダンジョン攻略を終えたルカは、【滑走】で帰途へ着いたのだった。

 ――――そんなルカが、31階層を出た直後。

 入れ違いになるように、冒険者の一団がやって来た。


「やっぱり、不死の王がいねえ……」

「おいおいラッキーじゃないか。それならとっととお宝をいただいちまおうぜ」

「それが……宝もねえんだ」

「そりゃどういうことだ?」

「……どうやら、先を越されたみたいね」


 荒れた現場、失われた宝。

 残された痕跡を見て、付術師の姐さんがこれ見よがしなため息を吐く。


「さあ今夜は大残念会よ。もちろん――――アンタの奢りでね」

「ええっ!?」

「酒場にいるやつらの代金もまとめてな」

「えええー!?」


 仲間たちに引きずられていく、バックラーの冒険者。


「ったくなんだよツイてねえな!」


 足元の石を蹴っ飛ばす。

 蹴られた石ころが飛んで行った先には、デモンビーの群れ。


「…………」


 怒りに震える黒蜂たちが動き出す。


「じょ、上等だ! 十匹や二十匹くらいなんだってんだ! こうなりゃお前らで腹いせしてやっから、かかって来いよ!!」


 雄たけびをあげるバックラー男。

 するとさらに背後から、多量のデモンビーを引き連れたクインビーの姿が。


「……に、逃げろォォォォ!!」


 半泣きになりながら逃げ出す、バックラーの男たち。

 結構刺されはしたものの、多量に用意していた毒消しポーションをがぶ飲みすることで、どうにかこうにか事なきを得たんだとか。

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