第17話 意外な一幕

 金色の髪の剣士、ユーリ・ブランシュ。

 彼女が戻って来ると、わずかにギルド酒場の空気が変わる。

 粛々とその日の戦果を告げる美しい少女の立ち姿に、皆一様に視線を奪われるからだ。

 そんな昼過ぎのギルド酒場。


「……そこで聞いちまったんだよ。その階層にある宝を狙ってるヤツらの話をな」


 ダンジョン攻略を終えて帰ってきた中級冒険者の男が、同じパーティの仲間たちにそっと打ち明けた。


「俺たちでいただいちまおうぜ」

「でも、不死の王が出るところだろ? 回収は少し面倒だな」

「そうね、特にあの階層の一部は不死の王のせいで毒まみれだもの」

「別に絶対倒さなきゃいけないってわけでもねえだろ? 時間を稼いでる間に宝だけ頂いて逃げりゃいいのさ」


 男は女性付術師の言葉をさえぎるようにして、そう続けた。


「なるほど、それならありね」

「ああ、悪くない」

「俺たちの後に探しに来たヤツは、宝はねえのに手強い魔物だけ残ってる状況になっちまうけどな。へっへっへ」

「まあ、それも運が悪かったと諦めてもらうしかないな」


 笑う男に、仲間たちも同意する。


「よし決定だ。そういうことなら…………おい、鎧鍛冶」

「お、修理かな? それなら一応全体を確認しておいた方がいいよ」

「……なんでそんなに乗り気なんだよ」


 それはもちろん、レベル上げのためだ。


「今回はバックラーとガントレットの接続部だけでいい。明日の夜までにやっとけ」

「夜? なんでまた」

「お前には関係ねえだろ。とにかく夕飯の後までだぞ、いいな?」


 そう言い放った男は修理品を置くと、さっさと仲間たちのところへ戻って行く。

 すると入れ替わるようにして、戦果報告をしていた金髪の少女がやって来た。


「今日もお疲れ様。装備の調子はどう?」

「君は私の父親か何かかい? 問題があれば私の方から報告するよ」


 ユーリ・ブランシュはそう言って「やれやれ」と息をつき、ギルドを後にした。



   ◆



 ルカは水面に手を浸し、新たに得たスキルをもう一度確認しておく。



【――――魔装鍛冶LEVELⅨ.解毒】



【――この技をもって作製された防具は、強力な解毒作用を持つ】


「大丈夫、間違いない」


 正確にはもう一つ新たなスキルが『追加』されているが、それは後回し。

 なぜなら――。


「……よし、交渉は成立だな。これが頼まれてたシロモノだ」

「助かる。これからも頼むよ」

「もちろんだ。こちとら『モノさえちゃんとしてれば何でもアリ』が信条だからな。たとえそれが……どんな出自だろうがよ」


 そう言って若い行商人はニヤリと笑う。

 商人としてなり上がるためなら、危ない橋もいとわないのが彼の理念だ。


「別に怪しいものじゃないって」

「はいはい、もちろん存じておりますとも」

「あと、例の情報も頼む」

「万能薬についてだな。何か情報が入り次第すぐに持って来る。それじゃ今後ともごひいきに」


 そう言い残して鍛冶場を後にする行商人。

 彼こそが『足を付けず』に物品売買ができる、唯一のツテだ。

 そして今回、これまでの稼ぎと交換で手にした金属は――――銀。

 この銀という金属は、ラミニウムのように【耐衝撃】や【跳躍滑走】などが載らず、そもそもの硬度も低い。

 しかし【解毒】という特殊なスキルが搭載できる。

 これがこの後、活きてきそうなのだ。


「果たしてこの【解毒】スキルがどんなものなのか……さっそく試してみるか」


 単純な防具としては厳しいのだろうが、とにかく作ってみない事には始まらない。

 ルカは意気込んで、いつもの鍛冶場へ足を踏み入れる。

 ……あれ?

 月明りに照らされた鍛冶場には、意外な先客がいた。

 机の上に置かれたルカの槌を手に取り、じっと見つめる金色の髪の少女。

 今日もギルド酒場で会った剣士、ユーリ・ブランシュだ。

 仕事の依頼かと思い、ルカが声をかけようとすると――。



「――――ごめんなさい」



 そう、ポツリと口にした。

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