第5−4話 子供と喧嘩

 ゆっくりと近付く僕たちに気付いたのか、少年たちがこちらを見て、相談するように手を止めた。

 ほどなくして、集団の中から2人が抜け出して僕たちを睨む。


「あの、ここ、今、取り込んでて通れないんすよ。あっち、イケよ」


「そうそう。じゃないと、痛い目遭いますよ? 俺ら、ガキだろうと女だろうと容赦しないんで」


 ガキと少年たちは言うが、年齢はそう変わらないと思うんだけど。

 まだ、幼さの抜けない表情で、子供たちが精一杯大人に近付けようと背伸びしているみたいだ。

 しかし、彼らは何よりも髪型に特徴があった。髪を油で固めているのか。ガチガチに固められた髪が突き出すように前に伸びる。

 多勢の少年たちは皆同じ髪型……。流行っているのかな? 

 重くないのだろうか?

 髪型に見惚れていた僕よりも早く、ユエさんが少年たちに応じる。


「そうかよ。でも、私はそこに用があるんだ。悪いけど退いてくれないか?」


「はぁ。話聞いてた? ここは通れないっつってんの!!」


 一切引く気のないユエさんに、少年たちは苛立ち態度が荒くなる。そして、相手の態度が悪くなったことで、ユエさんもまた態度が荒くなる。


「話聞いてないのはあんたらだろ? 私はそこに用があるんだよ!」


 ……。

 ユエさんって、大人しそうに見えて結構、行動的で好戦的なんだよね。デネボラ村でも【獣人】に挑んだわけだし。


「はぁ? やんのか、お前!!」


「いいわよ、やってやるわよ。かかって来なよ」


「なんだよ。お前が来いよ」


 売り言葉に買い言葉。

 というか、もはや互いに「来い」しか言っていない不要な会話。 

 どうすれば丸く収まるのか。とにかく、ユエさんをこのまま前に出していてはキリがない。そう考えた僕は少年とユエさんの間に入る。


「ああん? なんだ、お前は?」


「あ、えっと……」


 僕は少年たちを刺激しないように言葉を選ぶ。


「その、理由は知らないけど、複数で1人を痛めつけるのは良くないと思うんだ。それって凄い辛いから」


 僕は視線の先で繰り広げられる一対多数の光景は良くないことだと告げる。数の力は恐ろしい。歯止めが狂い、人は徐々に狂気に浸食されていく。

 最初は言葉。

 次に暴力。

 そして、その行動は徐々にエスカレートしていき、【魔法】を使うまでになる。

 僕は自らの経験で知っていた。

 だから、辞めるならば今だと僕は伝える。だが、僕の口調が悪かったのか。ユエさんに接していた以上に、相手の態度が悪くなる。

 ユエさんみたいに、はっきりとした物言いではなかったため、少年たちは僕へ狙いを定めたようだ。

 少年たちは僕に【魔法】を発動する。


「うるせぇよ、引っ込んでろ!! 【ウォーターバレット】!!」


 口では容赦しないと言っても、威力が低い【魔法】を選択する辺り、彼らにも迷いがあるのだろう。それでも、普通の人が受けたら傷は負う、

 僕は全身から【魔力】を放出して、水で出来た一発の弾丸を僕は正面から受ける。


「……【魔法】は人に使うべきじゃないよ」


【魔法】を受けても両足で立つ僕に、少年たちは驚く。正面から【魔法】も使わずに受け止める人間など出会ったこともないのだろう。

 少年たちは、「どうすんだよ」と焦りの表情を浮かべる。

 今なら僕の言葉を聞いてくれそうだ。


「僕は何度も【バレット】は受けてきた。だから、やるならもっと強い【魔法】使わないと。殺す気で来ないと止まらないよ?」


 僕の言葉に、人を殺す覚悟までは決まっていなかったのか、少年たちは逃げ出し、仲間と合流する。そして、そのまま全員で逃げ出していった。


「ふう」


「大丈夫か?」


 ユエさんが僕の心配をしてくれる。


「うん。慣れてたとはいえ、威力が低かった。やっぱり、フレアは王族だったんだなって」


「……それもあるけど、修行の成果が出てるんじゃないのか?」


「そうかな……? こんなに早く?」


 僕はこの道中。

 とある訓練を続けていた。

 フルムさんと別れる前。

 デネボラ村に引き返す最中の出来事だった。

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魔法を使えない僕は、悪役令嬢を追放された彼女に命を救われる~恩返しするため、魔力放出の力を鍛えます~ @yayuS

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