第18話 ふたたび、一線を越えた人間のセリフ
もうしワケないと思いつつ、キキさんをサスマタをつかってうつ伏せから、お好み焼きみたいにひっくり返す。
キキさんは両目をつぶって眠っていた。口は半開きだった。
もしかして、これは気絶というやつか。人生で、まだ、気絶した人を見たことがないので、この状態が気絶なのかの判断がつかない。
だいだい、気絶ってなんだろうか。どうやったら人は人を気絶させられる。
そこに大きな疑問を抱く。でも、それはまた時間のあるときに考えることにした。
ただし、そうやって、一度、別の場所において、あとから考えようとしたものは、けっきょく、あとになっても考えないままで終わらせるものが多い。消化できない在庫だけがふえてゆく。
いや、それでいいや。
じぶんでじぶんを救った後、キキさんを見下ろす。そして、ふたたび、もうしワケないと感じつつ、キキさんの首の後ろに右手を添えた。よく知らない人の肌にふれることに、罪をおぼえつつ、三秒だ、三秒だけです、懺悔混じりで念じる。触れると、スマホから、ぴ、ぴ、っとカウントみたいな音が聞こえた。そして、三秒立つと、ぴー、っとサッカーの試合終了のホイッスルみたいな音が鳴った。
スマホを見ると『貴方が相手の記憶を消しました』と表示されていた。現在の生存している参加者の人数も表示されていた、残り六名。
「これが、異能力設定サバゲー」画面のメッセージを見つめながら感じるままをつぶやいておく。「倒した手ごたえゼロだな、無だな、なにもない」
そして、おそらく、まずまちがいなく、いまのところサバゲーとしては狂った展開をしている。
「しかし、振り返るな。迷うなかれ」
自身へ言い聞かせる。もはや、まっとうに生きるのを、あきらめろというが如く。
とにかく、これで残りはあと六人。考えながら、キキさんをひきずって、道の真ん中から、近くの家の軒先へ運ぶ。身体を持ち合えるだけのマッスル力はないので、両足のかかとをひきずって運んだ。
黒いスーツのにんげんが、黒いスーツの気絶した女のひとを運ぶ。
絵的には完全に犯罪の図だった。
「しかし、振り返るな。迷うな」
ふたたび、一線を越えた人間のセリフを口にして、なんとか心の濁りをクリアに仕向ける。
やがてキキさんを道の真ん中から運び終える。ここなら軒先はあるし、直射日光もあたらない。今日は涼しいし、キキさんもこのまま野ざらしでも、水分を失って、しおしおになることもないだろう。
きっと。
雑に確信して、道に残して来たサスマタを拾う。
ひとつの戦いが終わった気分だった。
厳密には、戦ってないけど。
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