第4話  魔法が使えないのはたぶん、、、

 テラがデビュタントに向けての茶会に初めて参加する少し前の出来事だった。

 「ねえ、なぜテラは魔法を使えないの」

 唐突にそんな言葉を投げかけたのはまだ7歳になったばかりの従妹だった。遠くに住む為、ほとんど会う機会のなかった従妹は、幼い無邪気な表情で大きな瞳をさらに大きくするようにテラの顔を覗き込んで問いかけてきた。従妹の額の家紋からはオレンジ色の光が微かだが放たれていた。

 テラはその日の夜に鏡を覗き込み、額の家紋を見つめて自分の異質さに思いを巡らせた。この国は魔法が日常に深く係わっているけれど負い目や不自由さを感じることはなかった。そう、いつも両親と過保護すぎる兄や侍女たち、周りの人の優しさに護られていたから。


 なぜ家族の中で自分だけ魔法力が無いのだろうか。なぜ額の家紋は光を放っていないのだろうか… 


 テラには誰にも話すことの出来ない秘密があった。多分その秘密が影響しているのだろうと薄々感じてはいたけれど、改めて「やっぱり、そうなのかしら」と鏡に映る自身に呟いた。

 テラには前世の記憶があった。そのことを理解したのは、ちょうど無邪気に問いかけてきた従姉妹と同じ年頃。その時までは、前世の記憶と現世の出来事がただ混在し別物だと認識できていなかった。


 あれは5年ほど前に帝国の祭事で幾つもの大きな花火が夜空を彩った日の翌朝。

 テラはふかふかのベッドの上で瞼を閉じてはいたものの、お日様の光は感じていた。微睡みの中で「起きなくては」と思いながらも、再び眠りに落ちかけていた時だった。

 「お嬢様、まだお目覚めになられませんか。太陽はもう高くまで昇っていますよ。」と、侍女の声が響きテラはっとして目が覚め焦った。

 「あ~どうしよう。ちこく、ちこく」と、大慌てでベッドから飛び起きてランドセルを探した。慌てふためいて部屋をグルグルと動き回るテラを見て侍女も慌てた。

 「お嬢様、どこかお体の具合が悪いのではないですか」

 「違うの。学校に行かなくっちゃ。ええっと、ランドセルはどこ」

 侍女はテラが何を言っているのかわからなかった。

 「えっ、ら、ランドセルって何のことでしょう。」

 「だから、学校に行くための、、」

 「がっ、がっこうっていったい、、、」

 話がかみ合わないまま慌てふためいているその様子に侍女は驚き心配して侍医までも呼んでしまった。結局、その日テラは、ベッドで一日中休む羽目になり両親や兄であるシリウスも心配顔で付き添った。テラは仕方なく狸寝入りをしながら思案した。

 そして、初めて自分に現実と異なる前世の記憶があることに辿りつき、更には前世の大人になってからの記憶までもが走馬灯のように蘇ってきた。


 無邪気な従妹の言葉によって12歳のテラはそれまでは目を背けていた魔法力の無い自分に向き合おうと決めた。 

 そして、ある仮説を立てた。  

 前世の私は、成長するにつれて真面目を通り越して所謂頭の固い人間になってしまった。何に対してもエビデンスを求めていた。自分で言うのも変だがとても窮屈で鬱陶しい女性だった。起こりうる事象には全て根拠が存在すると思っていたのだから。仕事はもちろん、日常生活においても。

 魔法が使えない私には言い切れないのだけど、たぶん魔法はイメージの世界ではないだろうか。だから、全てを論理的に捉えようとする前世の私とは真逆。すなわちそのことが魔法力を生み出すことを阻んでいるのではないだろうか。

 そのような答えを出したテラは、誰もいない部屋でため息をつきぽつりと言った。

 「このように考えてしまうこと自体が魔法から遠ざかっているのだわ」

 

 

 

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