第133話 大繁盛と、これから

 『グルメの家』の新メニュー、パフェとポーションドリンクの提供開始から、約2週間の時が経過した。


 事前に予想していた通り、それぞれの新メニューは大好評。


 まず2種類のパフェについて、こちらは味・見た目ともに、様々な層で反響を呼んだ。


 メニュー追加日にやって来たフレジェさんのようにスイーツ好きのお客さんはもちろんのこと、美食家のような人々の間でも話題になっているようだ。


 最初のうちは見た目の派手さからか『ストロベリーパフェ』が人気だったが、ここ数日は『チョコレートパフェ』も追い上げを見せている。


 とにかく毎日ものすごい人気ぶりなので、パフェ用のテラス席を用意していて正解だった。


 仮にそのままの状態で臨んでいれば、今頃店はパンクしていただろう。


 次に、10種類のポーションドリンクだが、こちらもパフェに負けない人気ぶりである。


 というのも、ディーニャの店でポーションを買った冒険者の人達が、かなりの割合でこちらに流れているようなのだ。


 効果のある本物のポーションは、特殊な薬草等を使うため価格が高い。


 一方、『グルメの家』で扱うポーションドリンクはあくまで〝ポーション風〟であり、他のドリンク類と同じ価格だ。


 また、ポーションの本質は薬なので、美味しいからと飲みすぎるのも危険である。


 そのため、ポーションドリンクの販売を始めて以降、明らかに冒険者と思われるテイクアウト客がぐっと増えた。


「……こりゃ、早いとこ従業員を増やさないとな」


 ひっきりなしに注文を捌く1日が終わり、俺は額の汗を拭う。


 現在、カフェラテ姉弟の幼馴染である犬獣人の女の子が仕事を探しているとのことなので、近いうちに簡単な面接を行う予定だ。


 一時期はカフィ達と同じ職場で働いていた過去もあり、接客能力も高いそうなので問題はないだろう。


 ちなみに、ホール担当のカフェラテ姉弟曰く、「まだまだ接客は余裕」とのこと。


 俺の目には常に風の如く動いているように見えるが、しっかりと余力を残しているようだ。


 ただ、姉弟に余裕があると言っても、このまま人数で働かせ続けるのは忍びない。


「店の認知度も上がってるからな」

「キュウ?」


 俺はツキネを抱えながら呟く。


『薬屋ディーニャ』での宣伝効果や先日のメニュー追加によって、店の認知度はぐんぐん上がっていた。


 つい先日、料理人ギルドで受付嬢から聞いたのだが、魔法掲示板でのランキングもいつの間にか100位に上がっていたようだ。


 今も急速に順位を伸ばしつつあり、トップ100入りも目前だと興奮気味に伝えられた。


 冒険者達からの投票効果も大きいようで、これまでにない勢いのトップ100入りになる見込みらしい。


 また、ハイペースでの新商品開発と、ポーション監修の功績によって、九つ星への昇格を予定していると言われた。


 遅くとも数週間以内には昇格するだろうとのことで、クービスに伝えた際は「もう九つ星……!?」と大いに驚かれた。


 さらに、これはまだ仮の話ということだが、昇格に合わせて二つ名が付く可能性が高いとのこと。


 新店フェスで知り合ったピルツさんの【絢爛】のような、限られた一流料理人だけが与えられる称号だ。


 昇格の時までに与えられるかはわからないが、二つ名の授与自体はほぼ内定だそうだ。


「二つ名かぁ……少し恥ずかしいけど、楽しみだな」

「キュ!」


 俺はふっと口角を上げる。

 

 九つ星への昇格も嬉しいが、二つ名の授与にはまた違った嬉しさがある。


 ギルドの上層部で『二つ名会議』が進められているとのことなので、良い二つ名になることを願いたい。


「思えばもう1年以上か……」


 俺はしみじみと転生直後のことを思い出す。


 転生からいろいろと密度の高い日々が続いたので、なんだかずいぶんと懐かしく感じる。


「久しぶりにグラノールさん達を食事に誘おうかな」


 転生初日に俺を助けてくれたグラノールさんと、彼の店の従業員達。


 先日、フレジェさんから「また皆で食事会でもどうですか」と言われたので、明日にでも手紙を出そうと思う。


 昇格や二つ名の件はまだ知らないはずなので、伝えたらきっと驚くはずだ。


「なんだかんだで、カフェラテ姉弟とかクービスとか、ちゃんと紹介できてないしな」


 直近の食事会は俺がグラノールさん達の店に行く形だったので、今回は俺の店に誘って皆を紹介する形にしたい。


「どうせだし、クービスの試作料理を出してもらってもいいかもな。プロの目線からいいアドバイスをもらえるかも」


 俺はうんうんと頷いて言う。


 最近ではオリジナル料理の試作にとりかかりはじめたクービスだが、この前大きな転機となる出来事があった。


 それは皆の夕食として、『味噌ラーメン』を出した時のこと。


 別に意図してのことではなかったのだが、どうやらクービスがいる場でラーメンを出すのは初めてのことだったらしい。


 俺やビア達に倣って恐る恐る麺を啜ったクービスは、「こ……この料理はっ!!!」と目を瞠りながら叫んだ。


 どうやら、ラーメンという料理に運命のようなものを感じたようだ。


 その後、醤油ラーメンや豚骨ラーメンも食べさせてみたところ、「奥が深い料理なんですね!!」と感動していた。


 そして現在、彼なりのラーメンを作ろうと熱を入れて開発に勤しんでいる。


 これまで以上に気合いが入っており、独立時にはラーメン屋を開くのではないかと思うほどだ。


 異世界の街にラーメン屋……とても面白い店になりそうなので、クービスにはぜひ開発を続けてもらいたい。


「ふむ……ラーメン屋か。そうなると、ケーキ屋とかを作るのも面白そうだな」


 俺はふむふむと夢想にふける。


 今はまだ『グルメの家』の仕事で手いっぱいだし、人材的な余裕もないが、将来的に姉妹店を開くのも悪くない。


 スイーツ専門の店ができればお客さんも分散しそうなので、かなり良いアイディアに思える。


「……ま、考えるには早いか。ビア、フルール、そっちは終わったか?」

「終わったよ!」

「ん」


 厨房の片付けを終えた俺はビア、フルールと共にホールへ向かう。


 本日の稼ぎをチェックしていたカフェラテ姉弟とクービスが、「「「お疲れ様です!」」」と笑って言う。


「皆も、お疲れ様」


 ビア。

 フルール。

 カフィ。

 ラテ。

 クービス。

 腕の中のツキネ。


 皆をぐるりと見回して俺は笑う。


 これからもこの皆と、新たに増えていく仲間で、着実にステップアップしていこう。そしていずれは――


 こうして、今日もまた、充実した1日が過ぎていくのだった。


 -(終)-


----------------------------------------------------------

これにて、本作【味覚創造】はひとまず終了といたします。

続きを更新する余地のため、完結とはいたしませんが、今後の更新は完全に未定です。

最後までお読みくださった読者の皆様、本当にありがとうございました!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【味覚創造】は万能です~神様から貰ったチートスキルで異世界一の料理人を目指します~ 秋ぶどう @autumn_grape

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ