第33話

 優の話を聞き終わり涼真は何も言えなくなっていたのだが、最後の言葉を聞いて困惑が極まってしまう。


「え・・・?な・・・?え・・・?」


 桐谷涼真と言う男、彼は頭もよく理解力も高く度量も大きい。

 現に、優が自分は男でパラレルワールドに来てしまい霊が見える様になった、と言われた時もそれに理解を示し受け入れた。

 しかし今回は衝撃的な話が続き過ぎたために、流石の涼真といえど許容量を超えてしまったらしい。


 それでも何とか聞いた話を飲み込み、頭をフル回転させて口を動かした。


「優・・・最後の言葉ってどういう意味なんだい?あれじゃあ・・・」


「そのままの意味ですよ・・・」


「そのまま・・・」


 と言ってもやはりまだ頭は上手く回らず、「そのまま・・・そのままね・・・」と考えだす。

 優はそれが聞こえていたのか、呟くように喋り出した。


「そうですよ・・・そのままの意味です。阿部さんに認識を弄られて『佐十優は男だった』と思い込まされ、幼いころに霊が見えない様にしてもらっていたのに、それが解けてしまって再び見える様になった。本当にそのままの意味です」


「な・・・成程・・・」


「ふふ・・・そうですよね。実は男でパラレルワールドからやって来たんです、なんてSF小説じゃあるまいしある訳がなかったんです。まぁ霊が見えると言うのも十分小説じみてはいるんでしょうけどね」


 優は自分に対して皮肉を言うように言った。

 それに対して涼真は気遣うように話しかけた。


「仕方ないよ・・・そもそもが人の認識を弄るだなんて訳が解らないし、だから・・・」


「だから・・・?だから・・・なんです!?だからお父さんや九重さんを私の体が勝手に動いて殺したのは仕方がないとでも言うんですか!?」


「いや・・・それは・・・」


 涼真が気遣ったつもりでかけた言葉だが今の優には逆効果だったらしく、突然火が付いたみたいに叫び出してしまった。

 涼真は言ってから迂闊だったと後悔してしまい、それ以上声がかけられなくなってしまった。


 再び二人の間には沈黙が漂うが、優がまたポツリと呟く。


「すいません・・・涼真が気遣ってくれているのは解っているんです・・・でも・・・」


「いや・・・俺もごめんね少し迂闊だった」


 涼真が優へと向き直り頭を下げると、優も同じく頭を下げる。

 そして二人が頭を上げると、そういえば・・・と優が涼真に問いかけた。


「そういえば・・・涼真は何で私の家に?流石にまだ退院できないと思うんですけど・・・?」


「あー・・・それなんだけど、俺が事故にあった時に見た光景を優に相談したかったんだけど・・・それも解決したかな」


「あ・・・」


「大丈夫、あれも阿部さんの霊?がやったんだよね」


 涼真が病院を抜け出しても確かめたかった事とは・・・事故の時に見た『自分を突き飛ばした優の姿にダブって見えた何か』だったのだが、先程の優から聞いた話で全てその謎が解決した。

 要は、あれも阿部の霊が優の体を使い引き起こした事だった。


「ごめんなさい・・・」


 それでも謝ってくる優に涼真が「大丈夫、大丈夫だから」と言うと、優は力なく「うん」とだけ答えると、何やらジュラルミンケースの元へ行きごそごそとし始める。


「涼真・・・これ持ってて下さい」


「これは・・・?」


「九重さんの・・・師匠のお札です。励起・・・使える様にしておいたので暫くは効果があります。持っていてください」


 涼真は札を受け取ると裏返したりして確認した後、優に問いかけた。


「ありがとう。でも何故これを俺に?」


「念のためです。阿部さんの霊はまだいますから」


「・・・!?」


 阿部は一時的にここからいなくなっただけで、まだ存在はしている事を優は涼真へと

 説明する。

 涼真は深刻そうな顔をしながら頷き、「解った、気を付けるよ」と言い札を丁寧に懐へと忍ばせる。


「それで涼真、そのお札があれば暫くは大丈夫な筈なので病院へ戻った方がいいです。きっと色んな人が心配していますよ?おじさんや静さん・・・お医者さんも」


「・・・優、君は大丈夫なのかい?」


「ええ、大丈夫です」


「いや・・・でも・・・」


「大丈夫です」


 涼真は心配するのだが、優は大丈夫の一点張りで引こうとはしなかった。しかし涼真も流石にここは引かず粘るのだが・・・


「大丈夫です。涼真にはまだ言ってませんでしたが、私は色々出来るようになったんです。お札だって自分で作れるし、涼真に憑いていた霊の対処をして目覚めさせたのも私ですし」


「うーん・・・、あ、そうだ。解ったよ、そこまで言うなら俺は戻るけど、人を呼んでいいかい?」


「え・・・それは・・・」


「大丈夫、呼ぶのは霊の対処屋だよ。事故に合う前にお寺や神社を回っていた時、霊の対処屋の連絡先が聞けたんだ」


「そう・・・なんですか・・・」


 実は涼真が事故に合う前、無事霊の対処屋について情報を知ることが出来ていた。それを持って優の元へ帰ろうとした矢先に事故に合い、結局伝えるのが今になったのだ。


「うん、だからそれだけ手配してから病院に戻るよ」


 涼真がそう言うと優は何かを考えだし、考えがまとまったのか口を開いた。


「解りました。ただ、先に自宅へ戻っておじさんと静さんに連絡を入れてあげてください。私はご覧の有り様なので着替えたりします」


 優はそう言うと、今の酷い恰好を涼真に見せつける様に披露する。涼真はチラリとそれを見たが、直ぐに目をそらし謝る。


「ごめん、そうだね。じゃあ先にそうするよ」


「はい、私も時間が掛かるかもしれないのでゆっくりで大丈夫です」


「解ったよ」


 涼真は立ち上がると玄関へと向かって言った。優はそれに続き、玄関で涼真を見送る。


「それじゃあ行ってくるね。大丈夫、お寺の人の話では対処屋の人はかなりやり手らしいし、人数も呼べるみたいって聞いてるから」


「はい」


「それじゃあ、後でもう一度来るね」


 そう言って涼真は佐十家の玄関を出ていった。


 優は涼真が出ていくのをジッと見送ると方向転換をし、自室の方へと向かって言った。


 ・

 ・

 ・


 暫くして涼真が呼んだ霊の対処屋が佐十家を訪れたのだが、その時には家はもぬけの殻になり誰もいなかった。



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