第19話

「ご馳走様でした・・・」


「ご馳走様でしたっと。それで?何があったか話してくれるのかい?」


 遂に夕食は終わり、考える時間は終わってしまった。


 何とか食べている間に考えを纏めた優は、涼真へと話をし始めた。


 ・

 ・

 ・


「なるほどね。そんな事があったのか」


「信じるんだ・・・?」


「まあ、長年の付き合いだしね。嘘を言ってるかどうかくらいは解るよ。それで、今言った事で嘘は言っていない、俺はそう思ったよ」


「ありがとう・・・」


 結局優は全てを打ち明けた。


 涼真はこの通りの男で、男であった時の優にとっても一番の親友・・・ともすれば兄弟ともいえる仲だった。

 そんな涼真だからこそ、優は何があっても信用・信頼できるとして全てを打ち明けたのだ。


「でも優が男だった・・・ね。容易に頭に浮かぶよ」


 涼真は少し笑いながらそんな事を言った。優は疑問に思いながら、何故?とその事を聞くと。


「いやね、昔の優はそれはそれは男勝りな性格だったからさ。あのままだったらまさにそうだっただろうなって」


「そうなんだ。そう言えば、俺はよく解らなかったからあんな口調で喋ってたんだけど、女の俺ってあんな喋り方してたのか?」


 もう涼真の前では気を張らなくていいと男口調に戻した優は、ふとそんな疑問を聞いて見た。


「そうだね、全く違和感を感じないほどに一緒だね。因みにだけど、小学3・・・4年生当たりだったかな?その・・・女の子らしくなってきたくらいで口調も変わってたかな」


「そ・・・そうか・・・」


 二人は少しセンシティブな話題に触れて口ごもった。何処まで言っていいものかと、双方が探り合いみたいな感じになっていた。


 その後少しぎこちなくなってしまったモノの、涼真から優が女の子らしくなってきた辺り、つまり男の優が知らない記憶の話がなされ、優の中で知らない事の補完がなされた。


「なるほどな・・・基本は俺以外何も変わっていなくて、友達関係が少し変わったくらいか」


「そうだね、中学まではそんな感じ。高校に入ってからは三崎さんと中森さん、あの二人とずっと仲良しって感じかな?男だった時の優の友達だった何人かは・・・、まあ偶に喋っていたのは見た事あるってぐらいかな」


「ありがとな涼真、お前に話が聞けたお陰で色々な事が解った」


「どういたしまして」


 優は涼真にお礼を言った後コーヒーを飲もうと思ったが、あいにくともうカップの中は空だった。その為ソファーから立ち上がり、新しくコーヒーを入れようとした。


「コーヒー無くなってたからもう一杯いれるわ。涼真も飲むか?」


「あ、じゃあ頼もうかな?」


「了解、ちょっと待っててくれ」


 優はキッチンへと行き、コーヒーを入れる準備をしながら涼真から聞いた話を思い返し、自分の中で整理していった。

 コーヒーを入れ終わる頃には自分の中で記憶の整理がつき、これからの生活の為に役立つかな等思いながらリビングへと戻った。


「お待たせ。熱いから気を付けろよ」


「ありがとう」


 涼真へと入れたてのコーヒーを渡し、二人して無言で一口飲む。


 そして二人してカップを一旦置くと、涼真の方から話を切り出してきた。


「それで、どうするの?」


「ど・・・どうって?」


「色々さ。これからの事や性転換、霊の事」


「・・・」


 優は聞かれるだろうなと思いながら、それらの事は全く考えていなかった。というより考える余裕がなかった。

 九重のあんな姿を見るまではある程度の方針等を考えたりもしていたが、今は唯々優の中にあるのは霊への恐怖、そしてそれが転じ、知ってしまう事への恐怖になっていた。


 優が何も言えず黙っていると、涼真はこんな事を言ってきた。


「俺は優が色々怖がる気持ちは解らない。なんせ俺は実際に優が体験したことを体験していないし、出来ないからだ」


「・・・」


「それでも少しは力になれるかもしれない。怖かったらしがみ付いてくれても構わないし、調べものがあるなら手伝う事も出来るかもしれない」


 優は涼真が真っ直ぐ自分の目を見ているのに気づき、その真っ直ぐな視線が、優の怯えた心を勇気づけている気がした。


「だから動こう。立ち止まっているだけでは何も変わらない。霊への恐怖も、これからの現実への恐怖も、ね」


「涼真・・・」


「月並みな言葉だったかもしれないけど、少しは元気づけられたかな?」


 優はコクリと頷いた。


 確かに、何処かで聞いたような月並みな言葉だったかも知れない。

 だが、それでも今の優には、止まってしまった全てを動かす救いの言葉の様に聞こえた。


 優の目に力が戻った事を感じたのか涼真はニコリと笑い、早速次に起こすべき行動のアドバイスをしてくれた。


「動く事を決めたのなら行動だね?とりあえず・・・九重さん関連から手を付けるのがいいかもしれないね」


「師匠の・・・?」


「うん。優には重要な事かもしれないけど、正直性別の事はこのままでもいいかもしれないじゃない?」


「え!?」


 涼真が言った言葉に優は思わず驚いた。確かに涼真にとってはどうでもいいかもしれないが、優にとっては己の尊厳をかけた重要な事なのだ。

 優はお嫁さんでなくお婿さんになりたいのだ!


 しかし涼真の次の言葉を聞いて優の荒ぶる男心は治まりをみせる。


「あ、ごめん。それは言い過ぎかもしれないけど、正直命の危険とかはないじゃない。だから取りあえず置いておく事にして、先ずは九重さん・・・霊関連だなって」


「あー・・・まぁ確かに命の危険はないな・・・」


 涼真の言う通り、緊急で対応すべきなのは命の危険がある霊の方だ。性別の方は最悪このままでも死にはしない。


「しかしそうか・・・師匠・・・関連・・・」


 九重関連と聞いた優の中に、思い出さない様にしていた九重の最後の姿が思い出されてしまった。


 ・・・上下に分かれた・・・九重の体が。


 優がその事を思い出し、再び頭の中が恐怖の感情で埋め尽くされようとした時、肩に力強く手が乗せられた。

 優はハッとしてその手の主を見ると、いつの間にか移動して来ていた涼真の手だった。


「優落ち着いて、とりあえず深呼吸でもしてみて」


「う・・・うん」


 言われるがままに深呼吸を2,3回すると、少しだけ心が落ち着いた。


 涼真はそれを確認するとソファーの対面側に戻り、腰を掛けた。


「ありがとう涼真・・・。でも少しだけ待ってくれ・・・」


 優は少しだけ覚悟する時間がほしくてそう言った。涼真はその言葉に黙って頷きコーヒーを飲み始めた。


 優も同じくコーヒーを飲みながら、自分に大丈夫と言い聞かせて九重の事を思い出す覚悟を決める。


 そうしてカップが空になる頃、ようやく覚悟が決まった。


「よし・・・よし!大丈夫!大丈夫!」


「もうちょっと落ち着いてからでもいいんだよ・・・?」


「いや、大丈夫だ!俺はやれる!やれるぞっ!」


 少し変なテンションになった優だが、九重の事を考えても最後の姿がフラッシュバックして恐怖にかられることはなくなった。

 なので九重の事・・・霊関連について考えていく事にした。


 だが・・・


「と言っても涼真、俺も霊については全然知らないんだ。だからどうしようって感じなんだが・・・」


 そう、霊関連について考えていく事にしたものの、優の中の知識はほぼ0。唯一解っているのは、危ないというくらいだった。

 霊について知っていそうな人も九重以外に知らず、どうしようもなくない?と諦めかけた優だったが、涼真は優の話を聞いて思った事があった様だった。


「俺から二つあるんだけどいいかな?」


「うん?何?」


「優から聞いた話なんだけど、紙袋拾ったんじゃなかった?その紙袋の中を一度見てみるべきじゃないかな?」


「!」


 優は自分でも話しておきながらその中身は見ていなかった事を、涼真に言われて初めて気付いた。と言うより存在自体を忘れていた。


 優は待ってて!と叫んで自室へと走り、バッグを引っ掴みリビングへと戻って来た。そしてソファー前の机の上でバッグを逆さにして中身をぶちまけた。


「豪快すぎないかい?」


「いいから!これだ!」


 優が紙袋を取り上げ涼真の前へと突き付けると、涼真は少し眉間に皺を寄せたり目をこすったりした。


「どうしたんだ?」


「いや、なんだろう・・・。何かあるって解るんだけど、なんか変な感じがするんだ」


 優はそう言われ少し考えてから、紙袋のある場所を指さし問いかけた。


「ここ、何か書いてあるの解るか?」


「んー・・・何だろう。その場所を見てると変な感じが強くなるね・・・」


 優はなんとなく解った気がして、それを涼真へと教えた。


「多分だけど・・・、実はこの指さした所には変な文字?みたいなのが書いてあるんだ。それは恐らくだけど呪文みたいなもので、それが作用してるんじゃないかと思う」


「なるほどね・・・能力バトル系の小説で言う所の人払いの結界みたいな物なのかもね」


「あー、そうかも」


 涼真が出してきた例えに優は同意を示した。

 実は涼真も結構小説を読む方で、偶に本の貸し借りもしていたりする。なのでこういう例えは二人の中ではよくある事だった。


「まぁとりあえず開けて見る」


 自分の名前も書いてあるし危ないものではないだろうと思い、優は紙袋の封を開けて中身を取り出した。

 すると中にはレポートみたいなものと、お札らしきものが数十枚入っていた。


「紙袋から出すとちゃんと見えるみたいだね」


「そうなんだ?」


 やはり紙袋の文字に何か細工があったらしく、中身は涼真でもきちんと見えている様だった。


 とりあえず、二人はレポートの方を見てみる事にした。


「ふむふむ・・・修行法にお札の書き方・・・他にも色々あるな」


「どうやら付きっ切りで優の指導をするのも難しいから、ある程度はこうしてまとめてくれていたらしいね」


「師匠・・・」


 優は九重の心配りに改めて感謝をして、心の中で礼を言った。


 涼真は優がそうしている間にもレポートを読んでいったようで、何かを決めたように頷いた。


「これなら大丈夫そうだ。ねえ優」


「うん?何?」


「俺から霊関連で二つあるって言ったよね?」


「言ってたな?あ、もう一つの話?何だった?」


 どうやら涼真は霊関連の二つ目を言いたかったらしい。


 涼真は優の目をまっすぐに見つめ、口を開いた。


「優、九重さんの所へ行こう」



 涼真が言った言葉に優は固まってしまった。



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