第16話

 曜日は瞬く間に過ぎ、土曜日。


 この日は、半日だけだが授業のある日だった。


「それでは帰りのHRを始めるぞ~」


 担任教師のそんな声を聞きながら、優は今週の事を思い返していた。


 女子生徒としての初めての学校であった月曜日。


 学校にあった七不思議を知ってしまった火曜日。


 学校の帰りに、遠目だったがまた霊を見た水曜日。


 特に何もなく無事に過ごせた木曜日。


 放課後買い物に行った時に、気づいたら真横に霊がいて変な声を出してしまい、周囲の人に不思議な目で見られて恥ずかしかった金曜日。


 本当に霊さえ見えてなければそれなりに平和だったのになあと優はため息をついた。そしてそんな風に今週の事を思い出していたら、いつの間にかHRは終わりを迎えていた。


「以上、帰りのHRは終わりだ。月曜日まで怪我や事故のないように過ごしてくれ。それではさようなら」


 担任が最後にそう言って締めくくり、HRが終わる。


 優が終わったかと思い下を向けていた顔を上げると、この六日間ですっかり馴染んでしまった二人、弘子と結が目の前にいた。


「優!行こう!」


「弘子ちゃん急ぎすぎだよ」


 弘子が随分と急いた感じで声をかけて来たので、優はアハハと笑いながら席を立った。


「大丈夫ですよ弘子、予め連絡してありますから無くなる事はありませんよ」


「わかってるよー!それでも早く食べたいじゃーん!」


「まったくもう・・・弘子ちゃんは・・・」


 弘子の答えに結がやれやれといった感じになる。


「ふふ、弘子が待ちきれないみたいだし、早く行きましょうか静かな幸福へ」


 ・

 ・

 ・


『チリン チリン』


「いらっしゃいませ~、あら?優じゃない、言ってたね?」


「こんにちは静さん。はい、昨日言ったです」


「解ったわ、まず席へどうぞ?弘子ちゃんに結ちゃんもいらっしゃい。ゆっくりして行ってね」


「はい!ありがとうございます静さん!」


「こんにちは静さん。ありがとうございます」


 桐谷夫妻が営む喫茶店『静かなる幸福』に着いた優達は、接客で出迎えてくれた静に案内されて席へと着くと、直ぐに静が話しかけて来る。


「三人とも言ってたは良いとして、飲み物はどうするの?」


「あ、私はコーヒーでお願いします」


「私は温かいお茶で!」


「私は紅茶にします」


「コーヒーと温かいお茶に紅茶っと・・・。解ったわ、じゃあ少し待っててね」


「「「はーい」」」


 静が注文を伝えに席を離れると、三人は早速お喋りを始める。


「いやー!昨日優から聞いて、それからずっと楽しみにしてたんだよね!」


「実を言うと私も・・・。優ちゃんがあんなに美味しそうに言うんだもん、食べたくなるよ」


「あはは、ごめんなさい二人共。でも本当に美味しかったんですよ、新作のパスタとケーキ」


 話題は今日の目的であるパスタとケーキだ。これは優が日曜日に食べた物である。


 事の始まりは金曜日のお昼休みの事である。



 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


 ≪金曜日・お昼休みの教室≫



 この日、前日の木曜日に霊にかかわる事が何もなく、優は機嫌が良かった。


「もぐもぐ・・・。ねえ優?今日は何かいつもよりご機嫌だね?何かいい事でもあったの?」


「あ、私もそれ思ったよ。何かあったの優ちゃん?・・・はっ!まさか彼氏でも出来たとかじゃないよね!?ないよね!?」


「むぐっ・・・!けほっ!けほっ!」


 ご飯を食べながら喋っていた三人なのだが、機嫌のよかった優に対して結がそんな事を言ってきたものだから、優は思わず咽てしまった。


「大丈夫優?・・・え?まさかそのリアクション、本当に・・・!?」


「ち・・・ちが・・・いきなり・・・そんな事・・・言うから・・・えほっえほっ」


「そ、そうなの?ごめんね優ちゃん。でもそうしたら何で今日は機嫌が良かったの?」


 優はまだ少し咽ながら、その事について考えた。


 自分ではそんなつもりはなかったのだが、周りから見るとどうも機嫌が良く見えたらしいのだが・・・。


(あ、もしかして昨日霊と関わることが無かったから、自分では普通にしているつもりでも機嫌が良くなってた?)


 優は自分の中でそう推察をしたのだが、流石にその事を言う訳にもいかず、かといって何か言わなければやっぱり彼氏!?等と言われてしまうかもしれないと思った優は何かないかと考える。


 そして考えた結果が・・・。


「あ、いや、えっとね?実は日曜日に幸平おじさんのお店で新作の料理を食べたんだけど、それが美味しくてね?それで明日も食べに行こうかなって・・・」


 少し苦しい言い訳だったかな?と優は思ったのだが、話を聞いた二人は納得した様で話に乗って来た。


「へ~、そうなんだ!あそこのお店ってどの料理も美味しいしよね!」


「そうだよね、三人でもちょくちょく行ってるけど、毎回お料理美味しいよね」


「う、うん。そうなんだ。それでね?その新作の料理はね・・・」


 優は説得力を持たせるために、更に新作料理の事について話していく。やれ見た目からして美味しそうだの、実際食べてみると思っている倍は美味しかっただの、本当に思った事を素直に話した。


 すると、話を聞いた二人は顔を向き合わせてこんなことを言っていた。


「ねえ結?これはあれだね?」


「そうだね弘子ちゃん?あれだね?」


「どうしたんですか二人共?」


 何の事かイマイチ解らなかった優は二人に問いかける、すると。


「じゃじゃん!発表します!」


「明日は静かなる幸福でご飯を食べる事になりました!」


 二人が言ってきた事に、そういう事かと優は納得した。


「ふふ、じゃあ静さんにそう連絡しておくね?私が言ってた新作で良いんだよね?」


「ありがと~優~」


「お願いするね優ちゃん」


 優は、後で連絡しておくねと二人に言ってその後も色々な話を続けて、学校を楽しんだ。


 放課後は、買い物行くから今日は部活を休むと言って帰宅し、また霊を見てしまってテンションは下がったが無事に土曜日を迎えた。



 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



 以上が事の次第であり、こうして今に至った。


「はい、お待ち堂様。まずはパスタとお水ね。ケーキと飲み物はこれを食べてからでよかったわよね?」


 優達が色んなことの話題に花を咲かせていると、待ちに待った料理がやって来た。静はケーキと飲み物の事も言ってきたので、優はそれでお願いしますと返事をしておいた。


「解ったわ、それじゃあパスタを食べ終わったころに持ってくるわね」


「「「はーい」」」


「ふふ、ごゆっくりどうぞ」


 静はニコニコしながら席から離れていったので、優達は早速パスタを食べ始めた。


 ・

 ・

 ・


「あー美味しかった!本当に優の言う通りだったよ!」


「そうだね、美味しかった~」


「私もまた食べれて満足です」


 優達三人はケーキまで食べ終わり、まったりと飲み物を飲みながら喋っていた。そして明日についての話題が出て来る。


「明日は二人共暇?暇だったら家に遊びに来ない?」


「私は大丈夫だよ。優ちゃんは?」


「あ、ごめんなさい。明日は用事があるんです・・・」


 折角弘子が誘ってくれたのだが、優には用事があった。それも極めて重大な・・・。


「あ、そうなんだ。ざんねーん」


「そんな日もあるよ弘子。明日は二人で遊ぼうっか?」


「ごめんなさい二人共・・・どうしても外せない用事で・・・」


 優は本当に残念に思いながら二人に謝った。事態が優の性別問題だけならば、優もそれを後回しにして遊ぶのだが、事が霊によるもので、しかも連絡先を交換せずに待ち合わせをした九重との用事なのでどうしても外すことが出来なかったのだ。


 優がシュンとしながら謝ると、二人はあたふたしながらフォローして来た。


「えっと、あの、残念と言ったけどそこまで残念でも無くて・・・いや残念だけど!あのその!」


「弘子ちゃん言ってることが意味不明だよ?優ちゃん、いいんだよ?用事があるなら仕方がないよ!また来週にでも遊ぼう?ね?」


 余りに二人があたふたしていたので優は笑ってしまう。すると二人も何を笑っているんだーと言い返してきて、結局は何時もの雰囲気に戻れた。


 そうした所で時間も程々に経っていたので、三人は店を出る事にした。


「ご馳走様でした静さん。幸平おじさんにも美味しかったって伝えておいてください」


「「ご馳走様でした!」」


「はい、伝えておくわね。またいらっしゃい三人とも」


 優達は会計を済まし、静に挨拶をしてから店を出た。そして三人は商店街の方へ歩いて行く。


「ごめんなさい二人共、買い物に突き合わせてしまって」


「いいよいいよ!気にしないで!」


「そうだよ優ちゃん、それにお買い物は楽しいよ?」


 優は明日九重と会ってから忙しくなるかもしれないと思い、今日の内に買いだめをしておくつもりだった。

 それを二人に話すと、二人共買い物に付き合うと言ってくれたので、現在商店街へと向かっているのだ。


 その後商店街へと着き、三人は色々お店を見ながら買い物をして楽しく過ごした。


 ・

 ・

 ・


 そして時刻は夜10時過ぎ、優は自室にて一人明日の為に準備をしていた。


「持っていく物はこれくらいでいいか。特に何か持ってこいとも言ってなかったしな」


 優は机の上に広げた品々を見てそう言っていた。特に変わった物は無いのだが、銀の十字架のネックレスや塩等、それっぽいかなーと言う物がチラホラと見受けられる。


 優は一人、ヨシヨシと言いながらそれらをバッグに詰め始めた。


 そして持ち物を確認し終わった優はふとある事を思いついた。


「そうだ・・・ちょっと師匠にドッキリを仕掛けてみよう。名付けて、お前そんなにかわいかったのか弟子よ、ドッキリ」


 自分で言って見た物の語呂が悪いなと思いつつも、ドッキリ?の準備を始める。


「これも美少女である俺に連絡先を聞かないからですよ師匠!今度こそ、コネクトやってる?どこ住み?とか言わせてやりますからね!」


 霊の恐怖に曝された優は、感情の行先をどうしていいか解らず、取りあえず九重に向ける事にしたのだ。

 そしてその理由付けとしてこんな理不尽な理由を付けたのである。


 自分でも流石に苦しいとは思いつつも、まあやる事は単に着飾るだけなので問題ないだろうと判断して、九重に会うための服装を選び出した。


「うーん・・・こうか?いやなんか違う。ならこう?いやいやこれは・・・。っていうか何でこんな服あるんだよ!?」


 優はクローゼットの中をかき回し、あーだこーだ言いながら一人ファッションショーをしていた。


 そして気づいた時には大分時間が経っており、優は慌てて眠りについた。



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