第13話
「・・・まだ雨降ってるのか」
月曜日の朝、起き抜けに外を見て今日も雨かと優は少し憂鬱になる。
昨日は結局家の中に入ったものの、玄関先で1時間程へたり込んでしまっていた。霊の存在を知り、九重からこれで安全だとお守りをもらったところで、やはり怖いものは怖いのだ。
優は再び外を見て、はぁ・・・と憂鬱そうなため息をついた。
「今日も昨日の奴がいたら嫌だなぁ・・・。でも流石にこれ以上学校を休むのもなぁ・・・」
優は、男だった頃の学校での成績を思い出し苦々しい顔をする。男だった自分に戻るのをあきらめた訳ではないが、もしこのまま女として生きていかざるを得ないのなら、ココでこれ以上成績を落とすわけにもいかないと、優は考えていた。
優は寝る時も首にかけていたお守りを握りしめ、自分に言い聞かせる様に呟いた。
「昨日も結局は実害もなかったし、一定の距離以上は近寄ってこれなかったみたいだから、大丈夫大丈夫・・・」
最後に一度、ヨシ!と気合を入れ、優は登校する為の支度を始めた。
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「忘れ物なし、服装も多分よしっと」
学校へ行く準備を終わらせ、優は玄関に置いてあった全身鏡の前で最後の確認をしていた。
男から女に変わってしまったとはいえ、基本的には持ち物や制服は決まった物だから大丈夫と、自分を納得させるように頷いた。
「しかし・・・やっぱりかわいいな俺・・・」
優は鏡の中の自分を見てうっとりとした。
部屋の鏡を見た時もそうだが、その顔はノーメイクだというのに、目はパッチリしていてまつ毛も長い。鼻筋もしゅっとしていて小顔でかわいらしく、顔のパーツの位置も絶妙で美少女という感じだった。
更に今回は、長いサラサラストレートの黒髪と、生徒や親たちからもかわいいと評判の制服と合わさり余計にかわいく見えた。
「世界狙えそう・・・」
そんな馬鹿な事を考えていたが、ハッと気を取り戻す。
「いかんいかん!いつまでもこうしてたら送れる!出発しよう!」
優は傘入れから傘を取り出し、玄関の扉を開けようとした。しかしドアノブに手をかけたところで一度動きをピタッと停めた。そして恐る恐るに少しずつドアを開けて外の様子を確認する。
「道路ヨシ・・・。空も大丈夫・・・。・・・ふぅ」
外に昨日の霊がいないかを確認し終わると、普通に扉を開けて傘を開きながら外にでて玄関に鍵をする。
「途中で出てきませんように・・・」
優は誰にともなくそう祈り、学校へと歩き出した。
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本日は雨だった為、バスと徒歩を組み合わせて約30分程で学校へとたどり着いた。優は校門を潜り下駄箱へと向かう。
(靴箱の位置も変わってないみたいだな。ヨシヨシ)
自分の靴箱の位置が変わっていないことを確認してまず一安心。だが問題はココからだと優は考えていた。
(この分だと教室とか席とかも変わってないんだろうけど・・・問題は人間関係だよなぁ・・・)
優は頭の中で一番の問題に頭を悩ませた。
優の学校での人間関係。もちろん友人は大体が男子で、偶に話す女子は友人というよりはクラスメイトといった感じだった。
だが今はどうなっているのだろうか・・・。優は少し不安を感じながら自分の教室へとたどり着いた。
(ええい!悩んでいてもしょうがない!)
優は出たとこ勝負だ!と教室のドアを開け中に入った。すると、すでに教室には何人かいて、優の事をちらりと見て来る。
優は少し硬い笑顔を浮かべながら、小さく「おはよう」と挨拶をした。すると教室にいた人達は口々に「ウィーッス」だの「おはよう」だの挨拶を返してきた。
(とりあえず第一関門突破だ。まぁウチのクラスは結構皆仲がいいから大丈夫だと思っていたけど・・・)
優は仲がいい理由であるできた幼馴染に感謝をしながら、自分の席へとついた。すると、離れた位置にいた2人組が優に近寄って来て声をかけて来た。
「おはよう優!もう大丈夫そうだね!」
「おはよう優ちゃん」
「お・・・おはようございます。三崎さん、中森さん」
(三崎さんとはたまに喋るけど、中森さんとはあんまり喋った事ないんだよな・・・)
声をかけて来たのは三崎弘子と中森結という二人の女子生徒だった。
三崎弘子はとても明るい子で、女子だけでなく男子にもよく話しかけていて、そのお陰で優もそこそこに仲は良かった。中森結の方は三崎とよく一緒にいるのだが、大人しめの性格なのか、大体は三崎の後ろでニコニコとしていて積極的に喋りかけてくる感じではなかった。
その為、三崎は女子の中ではよく喋るクラスメイト、中森は喋る事はあまり無いが中は悪くないクラスメイト、といった感じだった。
そんな二人であった為、優は無難な返事を返したのだが・・・。
「どしたの?名字で読んだりしちゃって?」
「優ちゃんやっぱりまだ調子悪いの?」
(えぇ!?あ、俺この二人とは仲イイ感じなのか・・・?)
三崎と中森は優に名字で呼ばれた事を不思議がり、中森などは調子が悪いのかと心配をしてきた。
どうも女である佐十優はこの二人と名前で呼び合うほどの中らしく、優は慌てて言い訳をした。
「えぇーっと、ご、ごめんなさい弘子に結?ちょっと寝ぼけてたみたいです・・・。」
自分でも苦しいなーと思いつつそんな言い訳をした。ダメかなぁーと思いつつ、手を合わせながら二人を見上げ謝る。
すると・・・。
「うっ・・・、そんなかわいく言われたら何にも言えないよ優!」
「ほんとだよ優ちゃん。反則っ!」
「うわっぷ!」
彼女たちは「許す許す。許しちゃうよ!」等と言いつつ優に抱き着いてきた。
どうやら優が見上げて謝った姿勢が、優より高い位置にいた彼女らには、上目づかいにかわいく謝っているように見えたらしい。そしてそれを受けた彼女らは、普段から仲良く、尚且つ彼女達から見てもかわいいと思っている子にそんな事を言われたものだから、たまらなくなってしまったらしい。
二人から抱きしめられている優は、ココは天国か?等思いながら大人しく二人のなすがままになっていた。
すると教室にいた男子達から「あの三人本当に仲がいいよなぁ」「俺もあの二人に抱き着かれたい」「俺は佐十に抱き着きたいわ」等の声が微かに聞こえて来た。
(気持ちはわかるぞ元友たちよ。だから武士の情けで二人には黙って置いてやる。・・・俺に抱き着きたい奴は許さんがな!)
男だった時に友達だった者達からの邪念は、幸い優に抱き着いている二人には聞こえていなかったみたいだった。なので優も聞こえなかったふりをしておいた。
やがて3人でキャッキャしていると予冷がなり、二人は自分の席に戻って行った。優は少し残念と思いつつ、これから自分は二人の前でボロを出さずに行けるのかと不安になって来た。
(家に帰ったら携帯で二人とのやり取りとか確認しておこう)
優がそんな事を考えながら、少し乱れた髪等を直していると担任教師が教室に現われHRが始まった。
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『キーンコーンカーンコーン』
「じゃあ帰りのHRはこれで終わりだ。気を付けて帰る様に」
女子生徒になって過ごした初めての学校生活は、担任教師のそんな挨拶で締めくくられて無難に終わりを告げた。
(やれやれ、どうにかなったけど・・・。明日は体育とかあるんだよな・・・。コマッタ!コマッタ!コマッチャウナー!)
優が明日の事を思いながらニコニコとしていると、弘子と結が話しかけて来た。
「優!部活いこう!それで今日あれを完成させよう!」
「あと一日あれば完成って所でお休みしちゃったもんね優ちゃん。私たちも優ちゃんと合わせたくって未だ完成させてないんだ」
「う・・・うん」
優は二人にそう言われ少し焦った。
優は男だった時部活には入っていなかった。しかしどうやら二人の言い方では何処かの部へ所属していると言う。しかも何やら作っているらしいのだ・・・。
(あまり高度な部活ではありませんように・・・)
優はそう祈りながら席から立ち上がった。すると丁度教室を出ようとしていた涼真と目が合った。涼真が軽く手を上げて挨拶して来たので、優も手を上げて返した。するとそれを見ていた弘子と結は、優を冷やかしてきた。
「やっぱり仲いいねぇお二人さん!」
「だよね。流石幼馴染」
「あはは・・・」
優は何と返していいものか困り、曖昧に笑って返事をしておいた。そんな優を見て弘子と結は、わかってるわかってると頷いた。
「大丈夫だって。優から散々ただの幼馴染って聞いてるんだから!」
「そうだよ優ちゃん。今更付き合ってるの?とかは聞かないよ。ただ本当に仲がいいなぁーって思っただけ」
「う・・・うん。でも涼真はいい奴とは思ってますよ?」
「まぁそうだよね。桐谷は間違いなくいい奴!」
「そうだね。桐谷君はいい人だよ」
二人はウンウンと頷いていた。優は、もしかしたら二人は・・・と思いさりげなく聞いて見たが、「ない」とあっさり言われた。どうも完璧すぎる幼馴染は二人の趣味ではないらしい。
「私は優の方が好きぃ~」
「私もだよ優ちゃん~」
二人はそんな事を言いながらまた優へと抱き着いてきた。優は、女の子っていいわぁ・・・と思いながら二人と一緒に部室へと向かった。
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「いやぁ~!完成したね!カピパラ3兄弟!」
「本当だね。かわいい~」
「上手くできてよかったです。本当に・・・」
優は手に持った編みぐるみを見てホッとしていた。
あの後3人が付いた場所は裁縫室で、手芸部の部室であるらしかった。どうも女子生徒の佐十優は、友達と一緒に手芸部へと所属しているらしく、作りかけだという物は、編みぐるみというぬいぐるみの仲間みたいな物だった。
最初はその編みぐるみを見て、もうほとんど完成だけど俺がここから仕上げられるのか?と思っていた優だったが、以外にもやり始めると出来てしまった。手芸の経験など、男であった時は授業で裁縫の真似事をした事くらいしかなかったのだが、これも女に変わった影響なのだろうかと不思議に思ってしまった。
3人で出来上がった編みぐるみを見ながらワイワイ言っていたのだが、優はある事に気が付いた。
「あ・・・、携帯を部室に忘れたみたいです・・・」
下駄箱で靴に履き替える時、持っていた編みぐるみを鞄に入れれないかと鞄を開いた所、いつも入れてある位置に携帯が入っていないことに気が付いたのだ。
「あらら、一緒にいこうか?」
「いえ、もう二人共靴に履き替えてるので待っていてくれれば大丈夫です。あ、でも鍵が・・・。もう部長さんも帰っちゃいましたよね?」
「大丈夫ですよ優ちゃん。私も鍵をもっていますから。はい、これ」
「ありがとうございます、結。それでは取ってきますね」
「あーい、待ってるねー」
「いってらっしゃい優ちゃん」
そんな風に二人に見送られ、優は部室へと戻った。部室に付くと明かりは消え鍵もしまっていた。やっぱりか、と思いつつ預かった鍵を使いカギを開けて室内へと入り明かりをつける。
「あった、あった」
室内の自分が使っていた辺りを見ると携帯が置いてあった。誰も持って行っていなくてよかったーと思い携帯へと近づいて行く。
「綿・・・?しまい忘れたかな?」
携帯へ近づくと、携帯のすぐ傍に白い綿があった。使った後仕舞ったと思ったんだけどなと思い、携帯を取った後に綿を仕舞おうと手を伸ばす。
『スッ・・・』
「ん?風?」
優の手が綿に触れようとした時、綿がスッと動いた。優は一瞬風か?と思ったのだが・・・。
『スッ・・・スッ・・・スッ』
「・・・っ!」
綿はその後も不自然にスッスッと動いて棚の隙間へと入って行ってしまった。優はそれを茫然と見送った後、ぎこちない動きで部室を後にした。
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作者より:読んでいただきありがとうございます。
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