第2話 ステータス先生、お願いしますっ
少年レックは、得意げに笑みを浮かべていた。
ステータス――と、叫んだからだ。
「ふふふ………この世界で、少なくとも、オレが生まれて15年、耳にした記憶はない。つまり、オレだけのズルだ、チートだ」
ステータス
便利な言葉だ。
呼びかけるだけで、今の自分の能力や、隠された秘密を教えてくれる。これから、どうすればいい、自分になにが出来るのか………それは、今後の方針を決定する、大切な材料となるのだ。
「そう、オレは転生主人公。ならば、誰も知らない魔法を知っていても、当然だ。そう、チート生活の始まり――あれ、まだ開かない?」
開かない。
開くというか、展開されると言うか、目の前にヴぃ~ん――と、現れるというか………それが、まったく反応しないのだ。魔法の力を使いすぎて、発動できないのだろうか、それとも、まさか、まさか――
がっくりと、ひざをついた
「はぁ~………そうだよ、分かってたよ。そんなに都合よく行くはずがない。魔法はあるけど、ファンタジーだけどよ………だけどよ、こっちからすりゃ、現実なんだよ。世知辛いんだよ………」
ひび割れたマジック・クリスタルを見つめて、目の前に現れないステータス画面を幻想して、心の声を、振り絞った。
「チート、できねぇぇえええっ~!」
人生、甘くないようだ。
病気によって浪人し、なぜか混じる作業着姿の、疲れた夜勤生活。混乱しても、すでに終わったことなのだ。
世知辛い底辺冒険者なのだ。
お古を専門に扱う店の常連で、少しでもいい服を、防御力が残っているアーマーを探し、ようやく中古のリボルバーを手に入れて………
「………ステータス………ステータス………ステータス………ステータスって、言ってるだろぉぉおおおおっ」
むなしく、少年のステータス叫びが、夜空に響く。
ここは徒歩で数日の森の中、冒険者が耳にしているかもしれないが、わけの分からない叫びだ。関わりになるべきではないと、距離を置くのが平和な道である。
期待したステータス画面は、いくら叫んでも現れない。もしかしてと、時間を置いて口にしようとしても………
一時間後――
「あのぉ~………ステータス先生。大声で叫んで申し訳なかったであります。どうかご機嫌を直して、ちょっとだけでも顔を見せてくれませんですかねぇ~、へへへ――」
へりくだっていた。
この世界の、よくある農村で生まれ、村を飛び出したお調子者である。下級魔法すら、まともに使えないが、冒険者は知恵と経験と勇気でのし上がるのだと………
現実は、底辺冒険者だった。前世の記憶がよみがえっても、多少魔力が
そう、希望はステータス先生なのだ。
「いやぁ~、ステータス先生もお人が悪い。あっしは底辺冒険者、ブロンズの中級ランクってもんですがね、これでも、半年で中級にランクアップして、一応は一人前なんっスよ~、ですからね、ほら、こうしてリボルバーも手に出来て~………いやぁ、いきなり威力が、すごいのなんのって~………」
誰と話しているのだろう、いもしないステータス先生へと向けて、大変腰を低くして、お願いしていた。
「ですけど、こうしてほら、モンスターになったイノシシを
いったい、どこへ向けて語りかけているのだろう。とにかくも、そろそろ良いだろうかと瞳を閉じる。
なぜか、正座だ。
それでも、しっかりと背筋を伸ばして、片手を前へと突き出した。
「んじゃ、あらためて――」
かっ――と、目を開く。
[ステータスっ――]
叫んだ。
口元が、笑みにゆがむ。オレ、かっこいい――という、自分に酔いしれた笑みであり、自分以外は、認めてくれない笑みである。
ステータス先生も、認めてはくれなかったようだ。片腕を上げたまま数秒がたち、十秒がたち、数十秒が経過する。
そろそろ、突き出したままの腕がだるくなってきた。
「………ちきしょぉおおおおおっ、ステータス先生、オレを見捨てるんですかいっ!」
また、叫んでいた。
それほど、待ち望んでいた、期待してしまったと言うことだ。
この世界の常識から外れて、ステータス画面が広がり、恐るべき伝説のスキルが
存在しなかった。
突然、現実に引き戻された。何かが近づいていると、さもしい底辺冒険者の経験が、警告を与えた。
上空を見た。
「ん?なんだ、この音………戦争映画と言うか、アクション映画と言うか………」
聞き覚えのない、聞きなれた
前世の記憶は、叫んでいた。
「あ、ヘリだ………」
言葉にも、出していた。
そして、その言葉を待っていたかのように、森の彼方から影が現れた。バララララ――と、轟音をとどろかせて、黒い影がやってきた。
「ほんっとに、ファンタジー気分台無しだよ、現実ってやつはさぁ~」
近づくほどに、姿ははっきりとしてくる。飛竜に乗って飛んでくればカッコイイ、ペガサスやグリフォンに乗っていても、近づけば姿が見える。
機械的な轟音であるために、そのような期待は、最初からしていないのだが………
「あぁ~あ………これが『テクノ師団』がご自慢の、ヘリポットか」
シルエットは流線型で、映画で登場するヘリコプターと近い。ただし、バラバラバラ――という轟音を響かせていたのは、スピーカーだった。
これから向かう、あるいはモンスターを遠ざけるための鈴のような扱いだろう。ともかく、側面のマジッククリスタルらしき輝きで、飛んでいるのだ。
現代の地球でも、このような飛行技術は存在しない、ここが異世界だと分かる技術ではあるのだが………
この異世界は、ややSFだった
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