14 マジンゴ~~~

「ようこそ。良い天気だね」

 青龍さん、今日はご機嫌な様子ンゴ。

「今が一番暖かい時期ですもの。気分も晴れやかですわ」

「それでも気温は17度から18度、といったところかな」

 僕にとっては、ただ立っているだけで汗が滴る陽気。リハビリで廊下を何往復か歩けば、着物は全部着替えないといけなくなる。今も、青龍さんの部屋まで数分の早足だけで、額やもみあげの辺りから汗が滝のように流れている。僕が肩で息をしているので、「どうぞ、まずは一息吐きましょう」座布団とお茶を勧められ、20分ほど、いつも通り3人で雑談をしたンゴ。


「耕作様、皇室の歴史については御詳しいでしょうか?」

「ンゴ?」

「本日は皇室の話をしながら記憶の定着を行いましょう。耕作様の時代の、天子様は分かりますか?」

 天子様……? ああ、天皇の事ンゴね。

「ン~ゴ……聞いた事あるンゴね」

「思い出せるかい?」

明本あきもと……明憲あきのり……そんな感じだったンゴねえ~」

「平成天皇ですから、明仁あきひと様で御座います」

「ンゴ~、そんな名前だったンゴね。詳しいンゴね」

「それはもう。天子様に仕えるのがヤタガラスだからね」

 デスヨネ~。ドヤ顔で答える青龍さンゴ。

「では、第何代目かは分かるかい?」

「第125代天皇ンゴ! それはニュースで見たンゴ! 国会で天皇譲位の議論が始まったンゴ!」

「おお!」

「素晴らしいですわ! さすが耕作様です」

「ほう……」

 青龍さん、朱雀さん、そしてまたどこからともなく現れた玄武さん。3人が口々に賞賛の言葉を述べるンゴ。そんなに褒められると照れちゃうンゴ!

「……」

「……?」

 ん? なんでこんな微妙な空気? 僕、間違った? いつの間にか、また玄武さんいなくなったンゴし。

「合ってるンゴ?」

「さあ?」

「私は分かりませんわ」

「知らないンゴか~い!」

「何代目かまではね」

「えぇ……」

「逆に聞くけどさ、例えば会社で働いているとして」

「ンゴ?」

「創業数百年、または千年という老舗で」

「老舗ンゴ」

「百年前の西暦何年に、社長が誰で何代目の社長だったか、と聞かれて答えられると思う?」

「ン~ゴ、それは無理ンゴねえ」

「そういうことだよ」

 お、おう……? そ、そういう事ンゴ……ね。


「少し話を変えましょうか。耕作様、皇室に代々伝わる三種の神器。というものを御存知でしょうか」

「聞いた事あるンゴ」

「歴史に御詳しい、耕作様なら御存知だったと思います。日本の皇室に代々伝わる秘宝で御座います」

「ン~ゴ……?」

 確かに知っている気がするンゴねえ。

「三種の神器は、神話の時代より皇室に代々受け継がれてきた秘宝さ。天子様が代替わりする際に継承されてきたものなんだ」

「あ~ンゴ……知ってる気がするンゴ」

「今後、耕作様の心魂定着のために……いや、日本と皇室存続のために、一つないし二つは使うことになるだろうと考えている」

 青龍さんは立ち上がると、何か護符かお札のようなものを取り出したンゴ。

「そろそろ始めようか」

「な、何をするンゴ?」

「大丈夫。心配は要らないよ。体も良くなって、だいぶ記憶も戻っている。だけど、まだ戻らない記憶の奥底を呼び覚ましていくだけだから」

 嫌な予感がするンゴ。

「それは、思い出さないといけないンゴ?」

「そうだね。とても重要なことだよ。そのために、これを用意したんだ」


 厳かな雰囲気で、大事そうに奥の間から運んで来たのは、ブタのように大きな僕の顔よりも、更に一回りか二回り大きな円形の金属だった。広げた護符の上に載せられたそれは、黒ずんでるが、丁寧に磨き上げられているのが分かる。炎のような形をした、簡易な装飾が円形に施され、焚火かキャンプファイヤー、または太陽のようにも見えるンゴ。

「これは……何ンゴ?」

八咫鏡やたのかがみ。というものだよ。知っているかい?」

「ヤタノカガミ……?」

 聞いた事があるような、ないような? 失われた記憶のどこか、聞き覚えがある気がする。曖昧に、首を縦に振るンゴ。

「知っていたんだね。そうだろうとも。これこそが、三種の神器が一つ。八咫鏡だよ」

「ンゴ……ンゴォ!?」

 へぇ~……えっ!? マジンゴ? マジンゴ~ッ!? マジンゴ~~~~~Z!?


「先に忠告しておくよ。施術前に、この鏡の表側は見ないよう注意してね」

「ンゴ?」

「表側は磨き上げられた鏡面になっております。ここに、今から青龍が術を施し、過去の映像を映し出します。施術前の鏡面は……真実を映す鏡となっております。それを御覧になってしまいますと……」

「なってしまいますとンゴ……?」

 ゴクリ。なんだろうンゴ……?

「きっと後悔なさいます」

「ンゴー!」

 ズコーっとコケそうになった。えっ? 何それンゴ?

「……それだけンゴ?」

「はい」

「後悔するだけンゴ?」

「はい。大変、後悔なさるかと存じます」

「ン~ッゴ……」

 取り敢えず、見ない方がよさそうンゴね。


「では始めようか」

 青龍さんは、鏡の下に敷いた護符を1枚取ると、舞い踊り、護符を投げながら、祝詞のりとを読み上げていったンゴ。

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