第21話 四日目 夜道

いろんなことが頭をぐるぐる回っていた

そしていつも通りに紛れる何かに俺は恐怖していた

だからかいつもはいかない道を選択してみた

そしていつもはいかないコンビニに入る

「いらしゃいませ!」

店員が挨拶する

いつもは何の気なしに聞いている言葉だが今はなんだか暖かく感じる

たぶんそれは人がいるという安心感

人がいる・・・

よくよく考えると俺はこの仕事をしてから

人との接触を極力避けてきた

それは簡単だ

仕事でつく臭い

何度も言ってるが

あれはついて回る

日常ではおおよそ嗅ぐことがない臭い・・・

それがいい臭いなら喜んで人がいても気にせずにその横を通るだろう

しかし

これは悪臭

嫌な臭いだ。

現場があったときは必ず思う。

人の迷惑にならないようにしないと・・・

嫌な顔をされてないだろうか?とか・・・

実際は顔に出されたことも

臭いを指摘されたこともない。

いや・・・

その現場を俺は見ていない。

実際は陰で

「あの人なんか・・・」とか

「うわ!何この臭い!?」とか

そんな風に感じて言い合っているかもしれない。

でも世間はなかなか優しいものでそういうものを包み隠してくれる

とくにこの日本という国は

そういった気遣いというか人との距離感をうまい具合に保つ

そんな気がする

そんな中でもストレートに言う人もいるだろう・・・

今はたまたまそんな人に会ってない

それだけの話である。

にしてもだ

やはり気を遣うのは変わらない。

だって俺も日本人だから・・・

うまいこと社会に溶け込むためには

その臭いがするときは人に会わないこと

それが一番楽だったから

そしてそう言われた。

藤井さんに・・・

「・・・」

葬式の後だからかなんか考え深い・・・

店内を少しうろうろして

おおよその買うものは決めた

けど・・・

これから帰ると思うと気が重い

いつもなら早く帰りたいと思うのだろうけど・・・

最近は帰るのは・・・

「・・・」

目的なくうろつくのも限界を感じてきた

そう思って本の前に行く

雑誌を手に取り開いた。

とくに興味があるわけではないが・・・

なにもしないよりは取り繕うことができるだろう

「・・・」

店員は特になにもしてない。

本来は立ち読みは良くないが・・・

今日は許してほしい。

人が恋しくて店内にいるなんて・・・

なんかおかしかった。

いつもは避けていたのに

今はいてほしいと思うなんて

それに今は臭いがするとしても

線香の臭い・・・

不快に思う人は少ないだろう。

だから気が楽ではある。

自分でいうのもなんだが・・・

こんなときだけ人を頼るなんて・・・

都合がよい話だとは重々わかってはいる

けど・・・

なんというか・・・

世間体を気にしないで生きていくのは

難しいし面倒なことが多いとは思う。

俺にはできない。

社会にいる限り

人と関わることは必須で

いくら人と会わない

接触が少ないとしても

そこを全く考えないでは生きれない。

なのでってわけではないが

こんなときくらいは人を頼ってみることにする

といってもたぶん店員さんは頼られているなんて思ってもいないと思うが・・・

その時なぜか“あの”部屋の光景が流れる

「っつ!!!」

声を噛み殺す

こんな時にも考えるなんて・・・

でもなぜだ?

「・・・!」

そうか

今俺は人のつながりを考えていたからか・・・

そう考えるとあの部屋の初期の様子はセルフネグレクトみたいな感じだったな・・・・

俺にはできないっと言ったが

“あの”部屋の住人はそれをやっていたんだよな・・・

人を頼らずに

世捨て人のように

他人とあまり関わらずに過ごしたのだろうな・・・

その光景は今まで恐ろしさしか感じなかったが

なんか・・・

悲しげにも感じた。

俺には理由があって会えなかったけど

“あの”部屋の住人は多分違うだろう。

自ら望まない

きっと拒否していたのだろうと

想像に難しくなかった

だって“あの”部屋には恨みにつらみが満載してあったから

そんな人間がほかの人とうまく交流できてたとは

とても・・・

でもしかし

本当に俺はどうしたというのだろうか?

せっかく考えたくなくて

考えると怖くて

それで人のいるところに逃げてきたというのに

結果また考えて

それでもって

元凶の“あの”部屋の住人を

可哀そうだなんて・・・

なんていうか・・・・

ここまでくると・・・

「藤井さんに馬鹿にされたように言われたけど・・・あれを否定なんて・・・・」

最後の日に藤井さんが俺に

「怖くて助け呼んだのかな?案外かわいいところあるね!」

と冷やかしてきた。

その言葉に反論したが・・・

「案外かわいいところ・・・あったみたいです・・・」

なんとなく言葉をかみしめて

そしてそのあと言っていた

「まーまー、わからんでもないからなその気持ち。でもこの世界でそんなオカルトめいたこと信じてたら仕事にならないからな!」

その言葉も頭に蘇ってきた。

こんなときだからこそかもしれない。

今はこの言葉を大切にしよう。

胸にひそかに思う。

そしてとくには見ないがとっていた雑誌と飲み物を手に

コンビニを出た。

雑誌は・・・

お世話になった代?的な?

とりあえず家に帰ることにした。

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