4.連絡先交換。








「そういえば、瀬奈が絵麻の連絡先知りたがってたよ」

「え、野川さんが?」

「うん」




 帰宅後に俺が言伝をすると、義妹は首を傾げた。

 荷物を片付け、すでに夕食の準備に取り掛かっていた絵麻はこちらへやってくる。そして、テレビの前で胡坐をかいていた俺の隣に、ちょこんと座った。

 スマホを取り出したので、どうやら連絡先を知りたいのだろう。


 だが、そこでふと思うのだった。



「あれ、そういえば……」

「……?」

「絵麻と俺、連絡先交換してないよな」

「あー! ホントだ!」



 そうだった。

 てっきりしたものだと思っていたが、俺は絵麻の番号諸々を知らない。

 そんなわけだから、そそくさと自分のアドレスを表示した。それ以外にも連絡アプリの情報などを義妹に。こちらも受信を完了して、念のため画面を見た。

 すると、こう感じるのだ。



「絵麻、少し殺風景じゃないか……?」

「そ、そうかな!?」

「プロフィールが、まさかの初期画像とは」

「あはは……」



 苦笑いを浮かべ、頬を掻く絵麻。

 どうやら生徒会メンバーと、恵梨香さんとの連絡にしか使用してなかったらしい。だから特に問題もなかったそうだが、兄からすると味気ないように思えた。

 なので――。



「――なぁ、絵麻。こっち向いてくれ」

「え、どうし――」

「それ!」



 ――パシャリ。


 絵麻が自然な表情で俺を見たのを逃さなかった。

 カメラに収め、それを彼女に送る。



「これだったら、使ってても違和感ないだろ?」



 変に気取った風の画像に変更するのも、おかしい感じがした。

 満面の笑みを生徒会メンバーに見られるのも、恥ずかしがるだろう。だったら、このような画像を用意にした方が違和感がないと思われた。

 その意図が伝わったのだろう。

 絵麻は明るい笑みを浮かべながら、こう言うのだった。



「ありがとう! お兄ちゃんっ!」



 そして、さっそく画像を変更してみせる。

 すると途端に、ぴこんっ、と着信音があって……。



「あ、雨宮さんからだ」

「画像を変えた効果だな」

「えへへ……!」



 どうやら、後輩との会話の種にもなったようだ。

 いつになく楽しげにスマホをいじる義妹を見ながら、俺は自然と笑みを浮かべる。絵麻の素直な反応が、心地良い。

 そうしてその日は、ゆっくりと終わりへと向かうのだった。





「あれ? なにか、忘れてるような……」









 ――一方その頃。



「うぐ。たっくんから、全然連絡ないんですけど!」




 部活を終えて、帰宅の途に就く瀬奈は唇を尖らせていた。

 そんな彼女に後輩女子が話しかける。



「キャプテン、彼氏さんからの連絡待ちですか?」



 それに対して、瀬奈は首を左右に振って笑った。




「たっくんは彼氏じゃないよ~?」




 否定し、またスマホの画面を見る。

 そして小さく、微笑みながらこう呟くのだった。




「…………今はまだ、ね」――と。




 





 

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