8.緩い正月。








「おはよ~……」

「お兄ちゃん。もう『おそよう』だよ?」

「あぁ、昼過ぎてたのか」

「お寝坊さんだなぁ」



 ――元旦。

 俺は完全に生活リズムを崩し、昼になってようやく起きた。

 それに対して絵麻はしっかり者で、朝からしっかり起きていたらしい。こちらが姿を現したのを確認すると、いそいそとキッチンへと向かった。



「お兄ちゃん。お雑煮食べる?」

「おー、正月って感じだな。食べるよ」



 そして、俺にそう訊いて調理を始める。

 その間の俺と言えば、ダラダラと正月番組を見ているという感じだった。深夜の特番もそうなのだが、新年の初笑い、という系統の多いことこの上なし。

 とかく、自堕落な兄としっかり者の妹の図。


 この関係性は、しばらく続きそうだった。



「はい、お兄ちゃんできたよ」

「ありがとう。絵麻」



 そうこう考えているうちに、雑煮が完成する。

 目の前に出されたのを確認すると、ずいぶんと具沢山なものになっていた。親父と過ごす正月ではまず、あり得ない御馳走だ。

 腹が鳴るのを聞きながら、俺はそれを口に運ぶ。

 味を確認して、一つ頷くのだった。



「うん、美味しい!」



 そして、最近ずっと思っていたことを絵麻に伝える。




「きっと、絵麻は良いお嫁さんになるな」――と。




 何気ない一言。

 それを聞いた義妹は――。



「はぅ……!?」



 瞬間的に、顔を真っ赤にするのだった。

 盆で顔を隠して、上目遣いにこちらを覗き見てくる。そして、




「もう。お兄ちゃんのばかぁ」




 そう、か細い声で抗議してくるのだった。

 その姿がなんとも愛おしくて、俺は自然と彼女の頭を撫でる。




 新しい正月の風景。

 それは意外に落ち着いて、居心地の良いものだと思えたのだった。



 





 

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