3.お兄ちゃんはそんなことしないもん!








「へぇ……」

「両親が……」

「再婚ですか……」

「えっと、そういうことです」



 生徒会室に入るやいなや、俺は三名の生徒に拘束された。

 それで、自分と絵麻の関係について根掘り葉掘り聞かれたというわけで。三人に過不足なく説明を終えるまで、小一時間かかった。

 最終的には三者三様の表情を浮かべながら頷いていたが、なにを考えているのかが分からない。とりあえず、敵意というものは持たれていない。



「ていうか、お前さ。一年の時に同じクラスだった小園だよな?」

「え、うん。そっちは高橋だっけ」

「そうそう! 覚えててくれたんだな!」



 その中でも高橋は、とてもフランクに肩を組んできた。

 よく話すグループが違うということもあり、滅多に接することもなかったが、どうやら高橋も覚えてくれていたらしい。

 彼はいわゆるクラスの人気者、というやつだ。

 で、もう一人の男子である佐藤は――。



「二年になって、かかわる人間も変わりましたからね。お久しぶりです」

「あぁ、久しぶり。佐藤は副会長だっけ?」

「はい。その通りです」



 冷静に、さも親しい友人のように振舞っていた。

 実を言えば名前くらいしか知らない。


 第一印象は生徒会選挙の時、絵麻と票を分け合ってたくらいだ。



「それで、キミは一年生か。名前は――」

「……雨宮恵です、先輩」

「あぁ、雨宮さんね。よろしく」

「…………はい」



 そして、最後は眼鏡の一年生なのだけど。

 どうにも複雑な反応をされていた。よそよそしい、というか……。



「とりあえず、自己紹介は済んだかな。それじゃ――」

「おっと。まだ帰さないぜ?」

「えぇ……?」



 とにもかくにも、弁当を届けるというミッションは達成した。

 なので、そそくさとお暇しようと思ったのだが。席を立とうとする俺の肩を押さえつけたのは、運動部を兼任している高橋だった。

 彼はニヤニヤとしながら、俺と絵麻を交互に見る。

 そして――。



「で、お二人さんは一緒に暮らしてる……と?」



 義妹に向かって、そう訊ねた。

 その言葉に、石像のように固まっていた絵麻はビクリを反応する。顔が真っ赤になって、分かりやすく視線を泳がせていた。

 返答はなし。

 なので、俺が代わりに答えることにした。



「あぁ、そうだな。今は両親が新婚旅行に行ってるから、二人で――」

「なんと!?」

「ほほぅ……?」

「会長と二人きり……!?」

「へ……?」



 ……どうやら、地雷を踏んだらしい。


 生徒会メンバーは目の色を変えて、俺へと詰め寄ってきた。

 そして、一番鼻息を荒くしているのは高橋で……。



「え、つまり!? 会長のパジャマ姿とか、風呂上りとか――あるいは、ハプニング的なことも発生しちゃったり!?」

「い、いや……そんなことは起きないよ」

「そんなわけねぇぜ、兄弟! お前だって男だろ!?」

「お、おう……」



 彼は俺の肩を掴んでがくがくと揺らしてきた。

 否定しても、どうにも止まらない。というか酔ってきた。

 そして最後にはもう、暴走状態。高橋は絵麻を指さしながら言った。



「だったら、こんな美少女の風呂の一つや二つ覗くことだって――」



 だが、それを遮るようにして。



「やめて! そんなことないもん!!」

「え、絵麻……?」



 机を力いっぱいに叩きながら、絵麻が立ち上がって叫んだ。







「お兄ちゃんは、とても優しいお兄ちゃんだもんっ!」――と。






 だから、覗きなんて行為はしない。

 そう瞳に涙を浮かべ、顔を真っ赤にしながら言い放ったのだった。



 他の面子は顔を見合わせる。

 どうにも、こういった絵麻を見るのは初めての様子だった。



「あぅ……」



 そして、自分が取り乱していることに気付いたのだろう。

 絵麻はそう小さく鳴くと、縮こまってしまった。



 






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