第九話 補習までも完璧に

 ディア自身は殆ど使ったことのないショートソードだが、知識は当然備えている。戦闘中の立ち回りが下手であればどれほど力を持っていてもまともに打ち合えないから。

 今回も先に王女に剣を持たせ、感覚を聞いてみた。


「そうね。先にロングソードを持ったからというのも関係しているのでしょうけど、軽く感じるわ。これなら私でも扱えそう」

「もちろん可能だろうな。それじゃあ、もし王女がそれを使って敵と戦うとしてどのような戦法を取る? この利点を考えつつ、答えて欲しい」


 彼の問いに顎に手を当てシーンを想像しながら自分なりの答えを導いていく。それをゆっくり言葉に変え、話し始めた。


「例えば、一対一でも集団戦でも有効なのは空いた片手に盾を持つことだと思う。攻撃後に相手の流れを生まないよう立ち回れるし、集団戦ならどこから剣や槍が向けられるか分からないところで予防線にもなるから」

「ああ、それも一つの手として有効だろうな。実際に現役の歩兵たちはそういったスタイルの者が多い。耐えて時間を稼ぐという意味でも欠かせない戦法だ。さすがは王女様だな。考えてから答えが出るのが早くて助かるよ」

「それはどうも」


 素っ気ない言葉づかいではあるが、その実はすこし嬉しそうだ。


「では、その他の可能性についても話をしよう。この武器は軽さとは裏腹に威力が高い。見てみな」


 そう言って彼は王女から剣を返してもらい、首を落とされた木製人形の前に立つ。そうして長く息を吐き、力を込めて腕を斬りつけた。

 落ちるまでとはいかずとも半ばぐらいまでは刃が入り込み、ダメージを与えるのであれば十分な深さだ。


「さすがね」

「いや、本当は切り落とせると思っていたんだけどな。刃の入り方が良くなかったみたいだ。ほらここ、すこし斜めに入ったせいで手首のつなぎ目に触れているだろ? なかの金属に当たって止まったんだよ」

「なるほど。瞬時にその判断ができるのも私からすれば驚きだけど、騎士団には貴方以上の人がごろごろいるんですものね」

「その通り。彼らならこんなミスもせずに綺麗に切り落としていただろうよ。まあ、とにかく威力の高さは分かってもらえたか?」

「ええ、十分」


 この王女ならここで嫌味のひとつでも言ってくるかと未だに疑っている彼は徐々に素直になっていく姿に感心しつつ、それに応えられるようこういったミスをなくしていかなければと反省する。


 一旦人形を横に退け、次は型の教えだ。


「では、盾を使わない戦法についてだが、この威力の高さで数を打ち込めるとなればある意味最強だとは思わないか?」

「もちろんそうだけど、そんなことが可能なの?」


「これには相当な筋力と器用さ、それに素早さが必要となるが二刀流という選択肢がある。お披露目したいのはやまやまなんだが俺には不可能だ。それこそ騎兵や王妃様の近衛兵ぐらいじゃないと実力不足だろうな」

「たしかに私の知っている限りでも一人、二人ほどね。殆どは物語の世界のお話しよ」


 実際彼らの言うようにそう易々と習得できる技術ではない。そもそも鉄で作られた剣を両手に抱えることはできたとしても、それぞれのスピード感を落とさずに振り回すことなど容易ではないことは誰にでもわかるはずだ。

 それを動き回る相手に対して的確に当てるとなれば更なる技術が必要となる。故に、元レイピア使いで現両手剣使いであるディアでもそれは難しい。


「そうなんだ。おじさんの格好良いところもう少し見たかったのに」

「ハハッ、すまないな。まあでも、そんなふうに片手剣には多様性があってその場に適応した使い方が相手に有効な攻撃を繰り返せるんだ。それに両手剣には素早さとリーチのあるレイピアが、レイピアには速攻や刺突を防ぐことのできる片手剣が有効ではあるがこの三種のなかで片手剣に有効な手は少ない。そういったバランスの良さも利点だろうな」


「じゃあ、どうして皆それを使わないの?」

「さっきも言ったように二刀流は扱えず、基本の型が盾となれば両手剣による踏み込みに押し込まれる可能性があるからだ。今、騎士団のなかでは勇者が使う両手剣を好む者が多いからなおのこと戦い難いんだろう」

「そういう流行りも多少は関係してくるのね」

「逆に数の少ない二刀流が変わらず強いという認識であるのは対策のしようがないからだろうな。表向きで披露される場も少ないから未だに隠されている手札は多いだろうし」


 何度も彼の言葉に頷きを返し、自分の頭のなかにインプットしていく王女。


 普段から勤勉であれと教えられているがためにこういった知識にはどうにも反応してしまうようだ。加えて普段の政治や数学関連のお堅い話とは違って身体を使う剣術の話には興味がどうも惹かれてしまう。


「おじさんのおかげですこしは分かったわ。それじゃあ、私はそろそろ寝るから」

「ああ、ちょっと待ちなさいライリア。実は明日のパーティーにハントゥースを同行させることにしたの。だから、部屋に戻る前に挨拶ぐらいはしていきなさい」

「ああ、そう。よろしく、ハントゥースおじさん」


 拒否こそしなかったものの最後はやはり悪戯な笑みを浮かべて去っていく王女。

 姿が見えなくなってからため息をつく王妃と苦笑を浮かべるディアはまた裏口を使い王妃の部屋に戻っていくのであった。

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