第4話 人間がひとりとさらに猫とトカゲまで増えました   


 人間がひとり増えてからというもの賑やかだった小林さんちはさらに賑やかになりました。わたくしは自分よりも年齢の低い人間の子どもは好きではありませんが、一番上の人間の子どもと、二番目の人間の子どもは他の三人とは違うので、よく膝に乗ってあげました。わたくしが乗ると喜ぶのです。ふくちゃんおいでふくちゃんおいでと私を呼ぶので、仕方ないけれど乗って撫でさせて喜ばせてあげました。


 小林さんちのパパとママはいつもくっついています。お風呂も寝る時もいつも一緒です。そんな仲良しな小林さんちですが、あれからまたしばらくしてママさんのお腹が大きくなり始め、しばらくママさんに会えない日々が続いてママさんのことを心配して家中探し回った日のことです。


 新しい人間の子どもをもうひとり抱いてママさんがご帰宅しました。この日から小林さんちはママさんパパさん人間の子どもが五人になりました。わたくしはそのことにはもう驚いたりはしませんでしたが、新しい人間の子どもの匂いをクンクン嗅きました。懐かしい母の乳の香りがしました。


 それからまた数年たち、新しく増えた人間の子どももわたくしの名前を呼び、撫でてくれるようになりましたが、無理やり抱こうとしたりするのでついつい爪を立てて私は逃げていくのです。なんで人間の子どもはわたくしよりも幼いということを知ってはくれないのでしょうか。わたくしの方がお姉さんだということを。きっと新しく来た人間の子ども達二人は理解できないほどお馬鹿なのだとわたくしは常々思っています。


 ある日、私にとって予期せぬことがおきました。なんと今度はあろうことか猫の子どもがやってきたのです。私のきらいな取手のついた四角い箱から、猫の子どもが出てきたのです。薄い黄みがかったベージュ色の子猫は、恐る恐る私を見つけ信じられないことなのですがシャーと威嚇をしたのです。わたくしがいったい何をしたというのでしょう。わたくしはもう腹が立って腹が立って負けずにシャーと返してやりました。わたくしの大切な小林さんちに猫は一匹でいいのです。お前なんかいなくなれと何度も何度も威嚇しました。


 その日から猫が一匹増えました。


 新しい猫はくうちゃんと呼ばれていました。ふく、くうってつながるねなどとママさんも嬉しそうです。わたくしは全然嬉しくなんかありません。この小さな猫はわたくしにお姉ちゃんお姉ちゃんと懐いてくるのです。遊んで遊んでとわたくしが寝ているのにお構いなしにやってきては、私に話しかけてくるのです。わたくしはそれが気に入らなかったので、三日ほど家出をしました。わたくしがいなくなればママさんはきっと探しにきてわたくしがどんなに傷ついているのがきっとわかるはずだと思ったからです。家出三日目、思った通り隠れていたというよりは隠れていたら閉じ込められてしまった近所の農具庫の前をふくちゃーんふくちゃーんと呼びながら通り過ぎる声が聞こえました。


 この三日間のうちにも何度かその声は聞きましたが、田んぼに住んでいる小さなネズミや小鳥をおやつに食べればお腹が空くことはないので、わたくしはその声を無視して三日は帰らないぞと心に決めていたのです。でもさすがにこのいつ開くかわからない農具庫の中ではおやつを取ることもできませんし、お腹も空いてきてしまいましたので不甲斐ないけれどわたくしはここですよと鳴き声を上げ、小林さんちに戻ったのです。


 それからまた数年経った吹雪のある日。猫がもう一匹増えました。


 もうこの家族はそういう家族なんだろうとわたくしは確信してすんなり受け入れましたが、私の次に小林さんちにやってきた「くう」はあの頃のわたくしと同じように受け入れることができない様子で、その数日後わたくしと同じく三日ほど家出をしました。そしてわたくしの時もそうだったのでしょう。ママさんと人間の子どもたちは「くう」を探しに毎日出かけました。


 わたくしは人間ではなく猫ですので「くう」がどこにいるかを知っていましたが、教えてあげることはしませんでした。わたくしは人間の言葉が話せないので仕方なかったのと、新しい猫が来てわたくしもどこか面白くなかったのかもしれません。


 「くう」は、わたくし同様新しい猫は受け入れられないが隠れ続けるのは自分にとって幸せではないと考え帰ってきたと、のちにわたくしに言っていました。


 新しい猫は白いふわふわの長毛に三色の模様が所々飛んでいてマロンちゃんと名前をつけてもらいました。そのマロンという名の響きがさらにわたくし達二匹の反感をかったとは、きっと小林さんちの人々は想像することもないでしょう。


 何その名前? お姫様のつもり?


 さらに数ヶ月後、トカゲが二匹増えました。ママさんは毎日トカゲに話しかけていますが、わたくしは興味がないので覗きません。


 トカゲは透明な箱から出てこないですからね。

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