第32話 もうひとつの危機

やれやれ、これで一件落着かな。


「休暇中にも関わらず、協力ありがとうございます」


犯人を現場に急行してくれた神奈川県警の警察官から声をかけられた。


「こちらこそ管轄外なのに大変失礼しました。対応、感謝します」


俺は県警の刑事に頭を下げた。


「ところで香月部長刑事のお車は大丈夫ですか?」


「ドライバーの擦り傷が着いてますが走るには問題なさそうです」


「保険で修理の際は神奈川県警から事故処理の発番をするので連絡ください」


「了解です。ご苦労さまです」


敬礼を返しパトカーを見送った。



やれやれだ ───、あれっ沙羅さんはドコ?

さっきまであの辺にいたのに・・・

あっ、いた ── けれど。


ハァ?何だよ、あの男共は?!

何で沙羅さんを囲んでるんだよ!


「沙羅さん!!」


かなり遠くから大声で名を呼んで走った。



三人の男共はベンチに座った沙羅さんを取り囲むようにして何か喋りかけている。

貴様ら!

俺の大事な沙羅さんが綺麗な眉を寄せて貴様らの圧に困っているじゃないか!


俺が走って近づくと、


「あの、来ました」


と沙羅さんはホッとした笑みを浮かべて俺に小さく手を振った。



その5分前。

香月と警察官との話が終わるまで沙羅はベンチに座って待つことにした。


ところが座るがいなや、30歳前後の三人組の男が目の前を塞ぐようにベンチの前に立ち、沙羅を見下ろした。


『すっげ、美っ人!さっきから見てたけどさぁ、お姉さん一人ぽっち?』


『俺たち今から浜名湖まで鰻食いにいくんだよ、一緒に行かない?俺らと遊ぼうよ』


「──(あ〜ぁめんどくさい人かも、困ったな)いえ、結構です。人を待ってるので」


『こんな美人をほっとく奴なんて捨てちゃってさぁ、奢るから行こうぜ』


「──(陽司くんまだかなぁ)待ってるので結構です」


『俺たちと一緒の方が楽しいって!』


『お姉ちゃんのツレってどんな奴よー』


『どうせ金持ちのジジイかシケたIT社長とかだろ』


下卑た笑いが気持ちが悪い・・・こっちに来ないで!


「やめてくだ・・・」「──沙羅さん!」


陽司くん、来た。良かった…。


「あの、来ました」


ひとこといい、沙羅はさっと立ち香月へひらひらと手を振った。

あらーー?立ち上がって気がついた。

この男の人達、私よりちっちゃいわ。


沙羅のモデル体型と高身長に一瞬気圧された男らだったが、あまりの美貌に再び沙羅に手を伸ばすそうとする、が、


「触るな!!」


香月が沙羅と男たちの間に割って入り、背に沙羅を隠して前に立つ。

沙羅よりさらに高身長、服の上からもわかる鍛え上げられた隆々とした筋肉。

日本人離れした彫りの深い華やかな顔立ちの男が怒りの形相で男達を見下ろし、一人一人を睥睨へいげいする。


そそくさと逃げ出した男達には一瞥もくれず沙羅に振り返ると、


「ごめんね、時間がかかっちゃって。怖かったよね」


「びっくりしちゃったわ。陽司くんこそ終わったの?」


「お陰様でね。沙羅ママの名推理でまた勲章が増えたね」


「もう、からかわないで。それよりお父様の車が・・・」


「少し傷がついたけど保険で直すから心配しないで」


香月はそう言い、沙羅の買ってきたコーヒーを美味しそうに飲んだ。



「さて、もう一時だ。とんだ寄り道になってごめんね」


「いいの、私が追いかけてなんていったから。ごめんなさい」


お互い謝りながらクスクス笑いあう。


「せっかくだから海を見て帰らない?」



次話は「サザンビーチのシンデレラ」

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