第31話 海老名de大捕物

勘づかれないよう、見逃さないように二人で尾行する。


通りがけにアクアの窓を覗き込むと助手席に数本工具が放置されているのを見て俺はますます疑いを深くする。


ターゲットはシアトルの有名コーヒーショップに入って行った。

俺たちも男を追って店へ向かった。


「どう?」


沙羅さんに主語なしで聞く。


「似てるわ。というより多分あの人だわ。服は違うけれどスニーカーが同じよ」


モンタージュを作成した時に言っていた黒に赤いラインの特徴あるスニーカー。

靴底を照合したら犯行現場に残されていたものと合致するかもしれない。


コーヒーショップのドア開けながら沙羅さんの言葉に頷き、指で唇をおさえて “ 黙って ” と合図する。

店のカウンターからターゲットの声がしてきたのだ。


「せやな、コーヒー。ホットで」


「サイズはどうされますか?」


「小さいんでええわ」


関西の言葉。沙羅さんが小さく頷いた。


ターゲットがコーヒーを待っている間、俺は沙羅さんに飲物を頼み(いざとなったら俺は走らないといけないからさ)何があっても俺を追わないように約束をさせ店の外に出た。


すぐに一課長のスマホを鳴らし、早口で事情を説明する。

一課長は神奈川県警へ連携とるといい、経過を報告することで俺は尾行の許可をとった。


ターゲットがコーヒー片手に店から出てくる。

沙羅さんがまだ店内にいるのを確認して俺はベンチに座ったまま相手をやり過ごし、気づかれないように距離を置いて後を追った。


ウロウロと駐車場を物色するような目の動き。

いかにも怪しい。


俺は後ろを沙羅さんが距離をとりながらついてくるのに気づき、時々振り返り目線で歩みを抑えさせた。


そのたび、両手に飲み物を持ったまたピタンと両足を揃えて止まるのが可愛くて、尾行していることを忘れてしまいそうだ。


しかし・・・


「(陽司くんっ)」


沙羅さんの小さな切羽詰まった声に我に返る。


沙羅の視線の方向を見るとあろうことか。

ターゲットは俺たち(正しくは親父)の車を覗き込んでいる。

周囲に数台がまばらに停まっていて、なのにあえて白いBMWの周りをゆっくり回っている。


俺は手で《 来るな 》と沙羅さんの足をその場に縫い止め、ターゲットの死角に隠れて監視を続けた。


しばらくすると男はポケットからドライバーを取り出し運転席のドアの隙間に差し込んでこじ開けはじめた。


工具を持ち歩きながら目ぼしい車への狙いのつけ方、手際の良さ、そして現行犯。

これはもう決定だ。


俺は一度指の関節を鳴らしてから一気に駆け出した。

ドアをこじ開けようとしている男の右腕をねじり上げて一瞬でアスファルトに組み伏せる。


「なんや貴様!離せや!畜生、離せー!」


「離すかよ、これはうちの車だ。現行犯だ」


両手を後ろ手に押さえつけアスファルトに押し倒した。

動きを完全に制圧する。


「痛い!いたいたいた!!」


「痛くねぇ、関節いれてないし」


そこへ警備員が走ってきた。


「どうしました!」


「車上狙いの窃盗です。私の車にドライバーが差されたままになっています」


「大変だ!警察を呼びます」


「多分、県警のパトカーが到着します。私は東京都管内の警察官です」


周りが騒ぎになり、沙羅さんは少し離れたところで待ってくれている。

心配かけてごめんね。


やがて神奈川県警が到着し、身分と状況を説明した。

俺は管内に手配しているモンタージュと被疑者を確認してもらい、残務は県警と警察庁との間で捜査と取り調べに任せることにした。



次話は「もうひとつの危機」です。

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