第12話 沙羅の憂い
高輪台 午前1時25分 7月2日
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マンションの部屋に戻った沙羅は、着物を脱いでからゆっくりとバスタブに身を委ねる。
入浴剤から出る小さな気泡を見ながら改めて自分の身体に手を添わせた。
沙羅は大学に入学してからしばらくまではどこにでもいる普通の男子大学生でガールフレンドもいた。
女性経験はゼロではないが、男性経験は一度もない。
今はクラブのママとして働き、都合上女性のような生活に慣れてしまっているので外面的に沙羅を男性と思う人はいないだろう。
ただ信条は男性そのものなので、精神的にも肉体的にも男性を求めることはなかった。
そして長いこと女性を求めることもない。
でも香月は違う。
若く健康で精力的な男性だ。
逞しく男らしい体躯と精神の持ち主の香月はきっと性欲も・・・。
恋人同士になって3ヶ月。
香月からのそういう雰囲気を感じていなかったかと言われれば、それは嘘だ。
熱い視線や息づかいを感じるたびに全身が痺れるほどに緊張してしまう。
彼と二人きりになって、男性として目の当たりにしたら自分はどうなっちゃうんだろう・・・。
求められたらどう接したらいいんだろう・・・。
考えただけで心臓が口から飛び出そう。
それに、、
本来の自分を見て香月が失望したり明らかに萎えたらもう生きてゆけないかも・・・・・。
本気で逃げ出してしまうかもしれない。
はぁ、とため息をつく。
そうだ、この間のモンタージュの時も──。
小林という婦人警官は明らかに香月に男性として興味があることを隠しもせず、警察官の仲間同士であることを言外に匂わせていた。
沙羅には自分と自分の職業を疎外されているかのような態度に感じてしまった。
それは悲しいことだが、
沙羅は叔母の店を大切に、誇りをもって続けてきた。
中には心無い言葉をかけてくる輩もいたが、それを看過するだけの強さは持ち合わせている。
ただ、それを香月の前でひけらかされるのだけは辛かった。
ズズっと顎まで湯につかり、
「でも陽司くんが助けてくれた、な」
「・・・甘えちゃっていいのかな・・・してみたいけどできるのかな」
沙羅は濡れた髪を振ってぽんっと頬を手のひらで覆った。
そしてザッと水音を立ててバスタブに立ち上がると、
「なるようにしかならない、彼は今の私を見てくれている。私は私」
自分に言い聞かせてバスルームのドアを閉めた。
次話は「デートプランナー」です。
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