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「さて。僕らの挨拶も終わって君の負けが決まったって事で、今後君を含む若手をどう運用して行こうかって話に入ろうと思うんだけど」


「……いや、勝手に話進めんなよ。そんな取り決めは認めてねぇし、俺を倒しても奴らがついてくるとは限んねぇぞ。第一、この現場を奴らが見てたわけじゃねぇのに……」


すると、知朱がニコッと無邪気に不吉に笑い、サムズアップした親指を背後に向けて、


「こんな事もあろうかと、一部始終はスマホで撮影させて貰ったよ。あのオンボロな車の上にあるでしょ?」

「は?」


すぐに目をやると、確かに、カメラのレンズがこっちを向いていた。


「すぐ消せ!」

「わはは、ムダムダ。これまでのやり取りは全て僕のニ◯ニ◯とY◯uTubeチャンネルで生中継させて貰った。おばぁを使って若い奴ら全員に業務連絡済みさ。おばぁが『見ろ』と言ったら奴ら断れないからねっ」

「な、なんてことをっ」

「もしスマホの故障を祈ってるなら諦めな。桃源楼の技術開発部門のアンちゃんに作って貰った丈夫なカチカチスマホだからなっ」


知朱はスマホに近付き、カメラに手を振りつつ、


「イェーイみんな見てるー? てなわけで、僕と仲良くして欲しいなー。それでも文句あるなら──いつでもかかってこいや(中指立て)」


挑発し、配信を切る知朱。

そんな事をしたら、血の気盛んな奴らの事だ、『半分は』激昂している事だろう。

……残りの半分は、映像越しでも『オチてる』だろうが。


「お前……一体どうしたいんだよ」

「どう、とは?」

「若い奴ら従えて、何がしたいんだって話だ」

「よくぞ聞いてくれた! と、言いたいとこだけど『まだ内緒』かな。因みに、僕が桃源楼のトップに立ちたい理由は、ただ『資金』と『名前』を利用したいだけだよ。目的の『通過点』でしかない」

「……天下の桃源楼を道具扱いとか、もう今更怒る気も起きねぇが……因みにその目的とやらは、昔からあっためて来たモノか?」

「いや? ここ最近思いついたんだが?」

「この野郎……」


もう勝手にしてろ、という感じだ。

コイツ自身の力や生まれ持った空気、は認めてやるが、それに周りが慕うかは別の話だ。

老害連中は孫を可愛がるように支援するだろうが、若い奴らは最初こそ魅力に目をくらませこそすれ、長くは慕わないだろう。

その目的とやらに、余程の魅力がない限り。

……そんな事を考えていると、


「で、『目的』は最低で三年、遅くとも五年以内には形にしたいかなぁ。なんで、一刻も早く桃源楼の力を利用したいんだけど、これ以上おばぁが渋るようなら、普通に乗っ取るよ」


なんて、コイツはとんでもない事を言い出す。


「……お前。それは流石に、多くを敵に回すぞ」


老害連中は除くにしろ、若い奴らどころか常連の大御所妖怪や神々、支援してる多くの団体も敵に回す。

孫の我儘で許される話じゃなくなる。


「だからこそ、兵は多い方が良いんだよね。その為のヤングどもだよ(キャピ)」

「余計アイツらテメェに近寄らなくなるぞ。そこまでバカじゃねぇし。つかお前(薄縁)はなに黙ってんだよ、真っ先に止めろや」

「止めても聞かないし。コイツの我儘に付き合うってのはこういう事よ。常に、絡新の全員を敵に回すって覚悟が無いと」


信頼なのか、諦めなのか。

恐怖のネジぶっ飛んでんのかコイツらは。

それとも……ソレが、『強さの秘訣』か?


「えー、でも、君達にとっても悪い話じゃないよ?」

「はぁ? どんなメリットが……」


「桃源楼の子達がそんな悪い事したら、おばぁがとても喜びそうだろ?」


────は?


「お前……お袋がウザイんじゃなかったのかよ」

「何言ってんだい。僕はドがつくおばぁちゃんっ子だぜ?」


……コイツが、さっき映像止めてくれててよかった。

そんな自信満々な面でそんな大口叩かれたら。

残り半分の奴らもヤラれてた。

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