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「(プニッ)ぅわ、生暖かいなぁ。何でこんな『人体実験失敗の成れの果て』みたいなデッカイもん、誰も騒がないんだろう?」

「……(ボソッ)この周囲、結界が張られてるわね。一般人には発見されないように、か」

「(ボソッ)よ、余程の方が張ったのでしょう……」

「(ボソッ)で、凄い『妖気』を発してるわね」

「(ボソッ)こ、こんなモノをただの人間が浴びれば……成る程、そういう事ですか……」

「ん? 二人とも、なんか言った?」


二人はそっぽを向く。

いつの間に仲良くなったんや。


「(スンスン)……ふむ。やっぱりコレからかな? 『懐かしい香り』がするのは」

「……どういう香りよ」

「んー、そうだなぁ。あっ、『おばぁの宿の香り』かな? 昔よく遊びに行ってたし。今も行ってるけど」

「……そ、それが『答え』かもしれませんね」

「ん? ホコウちゃん、どゆこと?」

「い、いえっ、その……」

「アンタ、それだけ鼻が良いのに『他からも同じ匂いがした』事には気付かないの?」

「はて」


頭を捻るがピンと来ない。


「僕が可愛い女の子の匂い以外を覚えてるわけないだろ」

「はぁ。『能力者からもコレと同じ匂いがした』でしょ」

「だっけ?」


したような、どうでもいいような。


「それが何か関係あんの?」

「こ、コレが先程知朱様がおっしゃっていた、能力者の【元】ではありませんか?」

「コレがぁ?」


こんな肉塊に何が出来るのか。


「(ペチペチ)『特殊な電波』がコレから出てて、浴びた学生の一部が超能力を開花させた──みたいな話をしたいのかい? WiFiのルーターみたいな」

「……まぁそんな解釈でもいいわ」

「ほ、ほぼ正解だと思います」


フゥン。


「じゃあ、このミート君をここから退かせば、この学校での騒動は治るんだね?」

「退かすとかそんなまどろっこしい事しないでも、ここで『切り刻めば』いいじゃない」

「え?」


このミート君を?

斬り刻む という単語に、この子もビクッとなった。

少し愛着が湧いて来てたとこだったのに。


「……流石にそこまでせんでも。ほら、よく見ると『かわいい』し。ね? ホコウちゃん?」

「え? あ、あの、その……」

「私はその感性理解出来ないから何とも思わないわ。そもそもコレは『命』じゃないから。ホラ、退きなさい」


僕はバッと両手を広げて立ち塞がり、


「来ちゃダメー! 何にも居ないからー!」

「そのセリフ言うには状況的に遅過ぎるわよ。てかデカすぎて隠し切れないし」

「逃げてー!」

「あっ、ちょ! アンタがそれ言うと『シャレにならな」


プルプルプル グググ バビュンッッ!!


「おおっ? おー……」


跳んだ。

己の豊満な肉の弾力を活かし、一気に、跳躍。

軽々と学校の高さを越えて、あっという間に彼方へ跳び去った。


「元気でねー」

「ゆ、夕陽に溶け込んでいますね……」

「いや、なに呑気に手振って見送ってんのよ。どうすんのアレ。放っといたら別の場所で似た騒ぎになるでしょ」

「いや、あの子はもうコレまでのように一箇所にジッとしてないだろうから大丈夫でしょ。なんなら今度僕んちに恩返しに来るよ。『あの日助けて頂いた肉塊です』って」

「助けてないし、あんな肉塊がウチのアパートに来る光景なんて想像したくないわよ。ハァ……」


僕に怒っても手遅れだと諦めたのか、薄縁はそれ以上グチグチ言って来なかった。

──ワシャワシャ キキキ ギチギチ


「ん? あっ、君達、お見送りに来てくれたのっ?」


今日一日お世話になったバグズ(虫達)。

本来は弱肉強食の関係性な子達が、僕の為一か所に集まってくれているのだ。

感動するなというのが無理な話。


「みんな、今日はありがとー。機会があればまた協力お願いねー。んー……まっ」


一匹一匹にお疲れ様のチューを交わしメロメロにさせていると、


「貴方達、そこで何をしているの? 早く帰りなさい」


急に現れた女教師に注意された。

またこの人かぁ、ちょくちょく縁があるなぁ。


「あら、貴方達でしたか。お帰りですか?」

「うん。多分、この学校の問題全て解決したから、もう学校には来ないかな」

「そうですか。お疲れ様です」


英雄に対しあっさりし過ぎてて名残惜しさが微塵も感じられない。


「ですが、いつでも、ここに遊びに来て下さいね」

「来るとしたら修学旅行の時期かなぁ。みんな(女子)と一緒に旅館のお風呂入るんだい」

「ウフフフフ」

「モケケケケ」


この先生の笑い方を、何だか『昔から見て来た』ような気がする。

そんな、ふと、終わる頃になって気付いた既視感。

多分、他人の空似だろうけど。


「それでは、『また』」


確信めいた別れの言葉を残し、離れて行く女教師さん。

フワリ── 去り際の彼女からは、『馴染みのある香り』がした。


「帰ろっか」


二人は相変わらず、あの女教師さんがいる時は静かなのであった。

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