17

「なるわけないでしょ。僕らの足手纏いになる未来しか見えんわ」


交渉は決裂。

まぁ交渉にすらなってないけど。


「ハハッ、いいねぇ。その強気、嫌いじゃねぇよ」

「縛られたままの奴が何言ってんだか」

「確かにな。『俺には』何も出来ねぇ」


自信に満ちた顔。

ここから逆転出来る手でもあるというのか?


「そろそろ反撃させて貰うぜ! 『行け』!」


ヴォン!

突如目の前に現れた【男子生徒】。

その顔や体格は、捕らえている内の一人と全く同じ。

という事は、つまりコレが『分身』能力?

本体が縛られてたとしても、出した分身は自由の身なのか。

──なんて、冷静に解説してるけど、その分身体は今にも僕に掴みかかろうとしていて


ヒュッ ドスッ!


……鋭い何かがメリ込む音。

音がしたのは、教室の奥の方からだ。

奥の壁。


「なんだろう、なにが刺さってんだ? んー、下敷き?」


ボトリ。

不意に、手元に落ちて来たのは、【板状の何か】。


「……デカイ、【黄色い花びら】?」


カッチカチだ。

端っこの部分は鋭く、このまま包丁として使えそうなほど。

天井を見上げる。

……何もない。

どっから降って来たんだ?


「……(フンッ)」


グインッ


「(ゴキッ)グェッ。ぅー? ちょっと膝丸、急に人の頭を後ろに回転させないでよ」

「……(ピッピッ)」

「んー? 黒板の横の鏡指差して……見ろって? そんなん見なくてもいつも通り僕はカワイ──おや?」


僕は、僕のある一点を注目する。

パッツン前髪部分。


「……【タンポポ】?」


タンポポはタンポポでも、白いフワフワのじゃなく、黄色い花の方。

まるで髪飾りのように引っ付いてるソレは、僕の可愛らしさを引き立てていた。


「てか、もしかして、居なくなったと思ってたタンポポちゃん? (ツンツン)」


指先でつつくと、ウネウネとイソギンチャクのように花びらを波打たせて反応。

マッサージのようでくすぐった気持ちいい。


「そっかー、そんなとこで待機し(スタンばっ)てたんだね。じゃあ、この『お花カッター』は君の技か」


証明するかのように、タンポポちゃんがポロリと花びらを一枚落とすと、それは グンッ と一瞬で巨大化。

まるでお湯に入れると大きくなるおもちゃのようだ。


「おっ。取れた花びらもすぐに生えてくるんだ。便利だね(ツンツン)」

「(ウネウネ♪)」

「……! (ギリギリ)」

「あががっ、頭を万力のように締め付けるなよ膝丸っ。嫉妬は醜--んん?」


おっと。

ウッカリ、また自分達の世界に入っちゃってた。


すっかり、少年異能集団が蚊帳の外に。


「あ。そーいえばこの分身体? なんかさっきから動かないけど、気絶してる?」


つん ドデカ花びらで鼻先を突くと── ズズッ ボトッ


「ゲッ」


『首が落ちた』。


「いくら何でもやり過ぎだよタンポポちゃんっ。人は殺したら死ぬんだよっ」


ツーン

そっぽを向くかのように、花びらの方向を全て横向きにするタンポポちゃん。

反省の色が微塵もない。

『僕に害意を向けた者には容赦無し』──まるで、薄縁や膝丸と同じ価値観。


「……ん? 死体が『消えた』?」


霞のように霧散する分身体。

なぁんだ、分身は所詮分身、命では無いんだね。

分身体は操作出来る仕様なのか目的だけを遂行する魂を持たぬ器なのか、それは分からないけれど。


「(バッ)まいった。降参だ」


両手を上げ、あっさり負けを認める男子学生の一人。


「あーん? 嘘だろ? 理解出来ないね。僕ならそれだけの力がありゃあ現状を打破して逆転する手の一つや二つすぐ思い浮かぶぜ?」

「羨ましい限りの頭のキレだが、生憎俺らにはもうどうにも出来ねぇ。俺らの中には、そんな『殺傷能力』高い奴はいねぇ。奇襲の件も謝る。だから命だけは助けてくれ。」

「ふぅん。つまんないけど、ま、素直に大人しく従ってくれるなら」


仕事も早く終わるしそれに越した事はない、と続けようとした僕だったが……


「ん?」


背後で【何か】が動く気配がして

ピトリ


「──ッハ! やったぜ! まんまと引っ掛かりやがった! (笑)」

「罠を張るなら二重に。基本だな(笑)」

「随分と調子に乗っちゃったみたいだけど、流石に俺らの知略には勝てなかったみたいだな(笑)」

「解説してやろうか? さっきの分身は囮だよ。本命は、時止め能力を持つ俺を分身させ、その姿を透明化し、お前の背後に潜んでお前に触れる事だった。俺の力は触れないと発動しないからな。ま、今『時が止まってるお前』には聞こえねぇだろうけど(笑)」

「おい。ちゃんとあの蜘蛛とタンポポだかも止まってんだよな? (苦笑)」

「大丈夫っつったろ? 止めた対象にくっついてる奴も連鎖して止められるんだよ(笑)」

「はぁ、なら安心だ。危険なのはこの二匹だからな(笑)」

「へへっ、それで、この後どうする? 縛った後、『男の怖さ』でも叩き込んでやろうか? (笑)」

「ああ、それも悪く」


「申し訳ないけど僕はヘテロ(ノンケ)なんでそんなプレイはNG」


「「「ッッッ!!!???」」」


一斉にこちらを見る少年異能集団。

先程までの余裕ぶった表情はどこへやら。


「あり得ない! 触れたら勝ちの能力なのに! 一体どうやって!? 分身体が触れてなかったのか!?」

「いや、普通に今も触られてるよ。でも」


フッ── 背後にいた分身体が消えた。

さっき、タンポポちゃんにヤられた時と同じように。


「この通り、触れた瞬間『絶命』しちゃったみたいだね。『僕に触る』ってのはそういう事だよ」

「いや! お前は何もしてなかった! その蜘蛛とか花がやったのか?!」

「まぁヤッたのは蜘蛛の方(名前は教えない。あ、でもさっき言ったっけ?)だよ。この子は僕の昔からの相棒でね。僕の身を守るのが使命な子なんだ。そんなこの子が、『僕の身体に触れようとする敵』相手に対策してないわけがなくってだね」


僕が自身の制服に触れると、指先に『細い糸』が当たって。


「(ピィンピィン)ほら、聴こえる? ギターの弦を弾いてるような音。コレ、この子が僕の全身に巻きつけたこの子自身の糸で、近付かないと見ないほど透明で細いのに、触れただけで切れるぐらい鋭くって、その上──」


両手の人差し指を近付け合うと バチィン!

うるさく眩しいエフェクト。


「このように、僕自身が糸のせいで『電気を帯びて』るんだよ。静電気ってレベルじゃないよ。一般人ならショック死か大火傷負うレベルのさ」


膝丸は『電気を精製出来る』という『雷属性』みたいな体質だ。

その力を普段から『僕だけの為』に使っている。

彼女の得意とする糸飛行ことバルーニングも、この電気の力の応用。

職員室で膝丸の糸に捕らえられた異能少年団が即気絶した理由も、(微弱)な電流を流していたから。

ここまで来ると(来なくても)最早RPGのモンスターみたいな子だが、味方にいれば頼もしい事この上ない。

因みに、僕自身この【糸アーマー】、あると少し動き辛くなるしバチバチと鬱陶しいから『要らない』と何度も言ってるのに、膝丸は聞いてくれない。

説得して、何とか今のように『戦闘時のみ』で妥協してくれた。


ペペペッッッ!!!

勢い良く紫色の液体を口から吐き出す膝丸。


「「「うわっっっ!!!」」」


ソレは異能少年団の目の前にある三つの机にかかり、 ジュワァァ 音と煙を発生させながら、抉られたような大穴をあけて。


「見ての通り、彼女はお怒りだ。『指示通り』とは言え、彼女は僕に危機がある事を良しとしてないからね」

「し、指示通り、だと? 何の話だ!」

「こっちの話だよ」


職員室の時も、今さっきも。

膝丸は、嗅覚で触覚で視覚で、相手の透明化した分身体を当たり前のように気付いていた。

しかし、僕が前以て『攻撃をしないよう』言付けていたのだ。

理由は『舐めプ』でもあるし、相手を『試したい』でもあるし、その方が『楽しいから』でもあるし……兎に角色々。

当然、膝丸はそれを嫌がってるけれど。


ギュルルルル!!!


頭の方から、何かが回転する音。

まぁ、膝丸が出す音じゃないから十中八九タンポポちゃんだろう。

まるで、ドリルやミキサーが回転するような駆動音。

どうやら、彼女もまた、僕への攻撃に対して怒っているらしい。

どんな攻撃の予備動作なのか……想像するだけでも恐ろしい。


「で、どうする? まだ『ヤル気』はある? 歓迎するよ? 奇襲だってドンと来いだ。もっと『楽しませて』おくれ」

「た、助けてくれ! 今度こそ本当に抵抗の意思は無い! おおい! 誰かぁ!」


逃げようとする一行。

それを見て、僕は頭の膝丸を掴み──すると察したように彼女は手に収まるサイズに縮まり──僕は彼女を野球ボールのように握る。

握った指の間からチョロチョロと垂れて来る蜘蛛の糸。

僕はそれを、 ヒュンと振るう。

スパパン!!!


「「「ヒエッッッ」」」


振るった三本の糸は、まるで鞭のようにしなり、教室の机をバラバラにする。

切断面は、糸が電気を帯びている性質上黒焦げで……それら一部始終を見た一行は悲鳴を漏らす。


「盛り上がって来たのに終わろうとするなよー。この『雷光鞭(らいこうべん※好きな漫画からパクった名前)が暴れたいと煌いてるぜ?」

「だ、誰か! 来てくれー! (ドンドン!)」


必死に扉を叩く一行に、ヤレヤレと僕は首を振り、


「あー無駄無駄。外は授業中で静かなのに、なんでさっきからここで騒いでても誰も来なかったか分かる?」


関わりたく無いから、と言われたらそれまでだけど、


「既に、膝丸が教室の壁を『糸塗れ』にしてる。有刺鉄線みたく逃げられないようにってのと、完全遮音の為にね。助けの声も『悲鳴』も、外には漏れないよ」


ストンッ 僕が教卓から降りると


「「「ヒエッッッ」」」


男子らは恐怖に顔を歪ませて。


「取り敢えず、色々と諦めて貰うよ」

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