16


「さて」


ここは薄暗い空き教室。

捕らえた全員を縛ったまま席に座らせ、僕は教卓の上で足を組んで(ノーパン)見下ろしていた。


「君達、何をしようとしてたか手っ取り早く教えてくれない?」

「「「………………」」」


既に目覚めていた学生達は、しかし黙秘権を行使している。


「面倒いなぁ。ゲロった所で、僕は君達の事を周りに言おうなんて気は一切無いのに」

「……逆に、こっちから一つ、質問いいか?」

「いいよー」

「お前の『能力』はなんだ?」

「はて」


首を傾げる僕。

なんで『異能バトルもの』みたいな会話になってるの?


「能力とは?」

「とぼけるな。察するに、『虫や花を強化し使役する能力』だろう?」


ピクリ 膝丸が反応する。

え? 僕にそんな力あったんだ。


「どうやらそうらしいね。それが何か?」

「仲間にならないか?」

「仲間」

「ああ。俺の『透明化(スケルトン)』能力、隣の二人の『分身(ダブル)』能力と『時止め(ストップ)』能力、そしてお前の能力を合わせれば最強だろ?」


ふむ。

取り敢えず話の流れに『乗って』おくか。


「となると、さっきの職員室での出来事は、君らの能力の『合わせ技』と言う事かい?」

考えるにーー分身能力で時止め能力者を増やし、その姿は透明化させてバレないようにし、一斉に教師らの動きを止めるーーだったりのやり方が、能力者の協力で可能だ。

「ああ。教師らの動きを止めて、『事を成そう』としていたワケだが、お前に上手い具合に防がれちまったぜ」


クククッと笑う男子生徒ら。

微塵も反省の色は無し。

こうして拘束されてる今も余裕すら窺える。


「凄いのは僕じゃなく相棒だけどもね。で、その能力、皆いつから持ってるの? 昔から?」

「何を言ってんだ。お前も『ひと月前』に力を『開花』させたんだろ?」


ひと月前……そんなキーワード、どこかで……ああ、毘沙ちゃんが言ってたな。

『ひと月前辺りから町に良くないモノが潜み始めた』的な事。

これも適当に乗ってやろう。


「僕の時はどうだったかなぁ? 皆、ひと月前に開花した時はどんな感じだったの?」

「全員同じだろ? 朝起きた時に『何かが違う』って感覚、お前にもあった筈だ」


うーん(笑)

ひと月前の事なんて覚えてるわけない。


「てかそもそも、そんな強力な能力があるってのに、狙ったのは『職員室』とかしょぼくない? 景気良く銀行でも襲えばいいのに」

「はぁ……お前、さっきからホント、何を『すっとぼけて』んだ? 『それが出来るならやってる』に決まってるだろ?」

「ぅん??」


その言い方じゃあ。

まるで、『学校の外では能力が使えない』みたいじゃないか。


「ぅぅん……、……ここ、は?」


と。

可愛くもない寝起きボイスを漏らしたのは、同じく縛られたまま席に座る校長だ。


「んな! ど、どういう事だこれは! 何故私が拘束されて!?」

「おはよう校長。取り敢えず静かにしようか。今は授業中だよ」

「き、君は……?」


む?

なんだその『初めて見た』みたいなリアクションは。

僕みたいな可愛い子は一度見たら忘れられないインパクトがあるってのにっ。


「校長。単刀直入に訊くけど、職員室の金庫番号を知ってどうするつもりだったんだい?」

「しょ、職員室の金庫? 教材費が入ってるあの小振りなヤツの事か? 何の話か解らないっ。私は、『こうなるまでの記憶がない』んだっ」

「おやおや」


少年異能集団は露骨に視線を逸らした。

校長の反応を信じる前提であるなら、彼は先程まで『別の人格』だったか、『操られていた』という事になる。

後者であるなら、そんな洗脳? 的な能力を使えるやつはーーこれも男子生徒らの口にした能力を信じるならばーーここにはいない。

という事は、つまり……


ヒラ ヒラ ヒラ


「ん? どしたんだいアゲハちゃん? 何か伝えたいっぽいけど」


プシュ!


「おっと、膝丸に翻訳(糸文字)して貰えばいいのか。丁度後ろに黒板もあるしね。なになに……

『ベツキョウシツ アヤシイオトコ ヒトリ ジハクザイ トウヨ 【ココロイレカエ】 ノウリョク』

……か。ワザワザ動いてくれたんだね、ありがとっ」


ホコウちゃんがしっかりと作っていた自白剤を使ったらしい。

普通に怖い事やってるけど、僕の為に頑張ってくれたみたいだからヨシ!

ーーチラリ、少年異能集団を見やると、バツの悪そうな顔。

成る程、別室に居た仲間の能力を校長に使って、校長の立場で金庫の番号を知ろうとしたのか。

最悪、警察沙汰になっても校長のせいに出来る、と。

いや、ホントに君らにそんな超能力があるなら、もっと上手く立ち回れたろと。


「け、結局、どう言う事なんだね?」

「うーん、校長はまぁ、完全に被害者だね。取り敢えずまた『オヤスミ』」


プスッ


「ぅぐ!? ぐぅ……」


膝丸の睡眠針(某探偵漫画並みに強力な)を校長に飛ばし、静かになって貰う。


「ハッ。鬱陶しい校長を堕としてくれたのは好都合だよ。ホント、お前の能力は『便利』だな。お前が操る虫達はよく働いてくれそうだ。見た目は『気持ち悪ぃ』がな(笑)」

「便利で、気持ち悪い、ね」

「で、本題だが、仲間になってくれるだろ? 俺達が力を合わせたら最強だぜ?」


「なるわけないでしょ。僕らの足手纏いになる未来しか見えんわ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る