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それから、教室に戻る途中……
僕の要望通り、膝丸がピョコンと僕の所に現れ、くっついて来た。
例の如く、入れ替わりに薄縁が消えたけど。
何? シフト制なの?
「わっ、知朱ちゃんの髪のそれっ、なに!」「でっか! 蜘蛛のぬいぐるみ?」「に、にしては凄いリアリティ……」
膝丸を後頭部と合体させて教室に戻って来た僕にワッと驚く女の子達。
「こらこら、ツンツンしようとしちゃダメ。人見知りだから僕以外が触ろうとすると一瞬で指食いちぎってくるよ」
「「「こわーいっっっ」」」
アハハッと緊張感のないリアクション。
未だ膝丸を趣味の悪いぬいぐるみだと思ってるのかもしれない。
ま、どっちでもいいさ。
席につき、
「よいしょっと。じゃ、今度は放課後まで寝ましょーかねー」
膝丸を机の上に置き、覆い被さるように顔を押しつけ、蜘蛛マクラの完成。
ゲフッと空気の抜けるような息を漏らす膝丸だったが、特に抵抗は無し。
モフモフで、落ち着く良い匂いがして……彼女の体温が伝わって来て、すぐに全身に眠気が満ちる。
「もー、また寝ちゃうのー?」「でも気持ちよさそー」「やっぱり蜘蛛ちゃんナデナデしていー?」
「むにゃむにゃ……この子のパーソナルスペース……30センチに入ると……出血毒を含んだ毒爪で……全身の穴から血を噴いて死ぬよ……」
「「「エグいよッッッ」」」
離れて行くクラスメイト達。
むにゃむにゃ……それをくらう価値があるほどに気持ちいいモフモフなのに……。
「ぅ、ぅー……膝丸様、凄く幸せそうです……ホコウも、モフモフして貰いたい……」
と。
さっきから静かだった【彼女】が何かを呟き──
「あれぇ? さっきまでそこにいたホコウちゃんは?」
クラスメイトの言うように スッ と、気配が消えた彼女。
むにゃあ? どっかに行ったのかな? トイレかもなぁ。
この体勢だから周囲の状況は把握出来な
フヨンッ
……んー?
フヨン フヨンッ
この、味わった事のないフヨフワ感で頭を撫でられて……
僕は顔を上げ、目を開ける。
──白い。
視界が白く覆われている。
まるで、純白のくもの中のよう。
くもはくもでも雲の方。
それから……いい匂い。
甘く惹かれる花の香り。
……花?
そうか、花か。
【蒲公英】だ。
「んー……むにゃり……もしや君は……『あの時助けた』タンポポぉ?」
プルンッと、頷いたように揺れるタンポポ。
あれまぁ、あんな小さかったのに、こんなに大きく立派に育って。
こんなデカイ綿毛の塊は初めて見た。
現スイカ大の膝丸と同じくらいデカイ。
しかしどこからやって来たのだろう?
……そういや、ホコウちゃんが自分を『タンポポ』だと抜かしてたな。
彼女が連れて来たのかもしれない。
「むにゃり……わざわざ僕のクッションになる為に来るなんて……偉いねぇ」
撫でると フヨン エモいわれぬ、綿飴のように溶けてしまいそうな柔らかな手触り。
揺れ方で伝わってくる嬉し恥ずかしなタンポポの感情が。
この子は『生きて』いる。
精巧なロボットとかじゃあないと確信して言えるのは、それが僕には匂いで分かるから。
──植物は賢い。
凡ゆるトラップで虫を誘き寄せる食虫植物の貪欲さや、クラシックを聴かせれば成長が早まるという芸術的感性……
それを突き詰めれば、このタンポポ のように『意思』を持つ存在が現れても不思議無いだろう。
思えば、毘沙ちゃんのとこに居た子達はみんな賢い子達だった。
あとデカくて可愛がりがありそうだしで……僕にとってアソコは夢のような場所(テーマパーク)。
「ええ……知朱ちゃん、蜘蛛愛でながらお花と話してるよぉ」「不思議ちゃん……だけど、なんかアリ」「絵本のお姫様みたいだねぇ」
んふふー、モフモフー……
グリグリッ!
……んー?
この爪でブスブスやられる感覚──膝丸か。
自分以外のモフモフへの浮気に嫉妬してるんだろう。
可愛い奴め。
弾力のある膝丸のモフモフと、とろけるようなタンポポのモフモフ……枕に色んなかたさがあるように、みんな違ってみんないいってのに。
ほんと、いつまでも、独占欲の強い子だよ。
──そんなダブルマクラの感触と、二つの良い香りに包まれながら……僕は『仕事』までの時間、幸せを堪能する。
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