13

紅茶を一口飲んで仕切り直し、


「お昼に入る前の休み時間を使って、僕らは『被害者』に聞き取り調査をしたわけだけど──」


『私は下駄箱に置いてた内履き盗まれた!』『俺は彼女を奪われた!』『成績が一位から転落した!』


「などなど。盗難から寝取り、立場を奪われた等々……何かしらの被害がここ最近多発してるようだね。いやー、関係性まで変えられた云々は本当かよって感じだけど」

「盗難犯なら現場抑えられるけど、人間関係にまで口出すのはね」

「で、では、ホコウ達が目下、解決する問題は『物理的な盗難事件』という事で?」

「かなー。ええっと、統計すると、盗難被害が起きた場所は結構絞られるから……男女の更衣室関係とか下駄箱、人気者が所属する部室等を抑えとけば、ある程度防げそうだね」

「抑えるって、どうすんのよ。こっちは三人だけよ」

「そりゃあ、虫ちゃん達に協力して貰うさ。さっきの四匹から更に仲間を増やしたからね。異変があればすぐに知らせて貰うよう伝えてあるし、毒針も渡した。既に配置済みだよ」

「はぇー、す、すっごい手際の良さ……」

「調子乗ってポカしないといいけどね」


──ふと。


「なぁお前、プールの授業中どこ行ってたんだ?」

「いや……それが記憶が曖昧でな。気付いたら体育終わってて男子更衣室にいた」

「はぁ? それやばい病気じゃね? ……って、おい、アレ見ろよ」

「おおっ! 噂の美人三人娘転入生達かっ」

「金髪に藍色? 髪に緑髪とか、まるでアニメキャラだ。見た目も非現実的な可愛さだよっ」

「おい、お前知朱ちゃんに一目惚れしてたろ(笑)ハァハァって犯罪者みたく興奮しててよぉ? (笑)」

「……だっけか? あんま記憶ねぇわ。てか今『初めて見た』んだが?」

「嘘つけよっ。今だってムラムラしてんだろ? (笑)」

「いや……なんか今、そういう気分になれねぇってーか」

「おいおい、あんだけエロを愛してたお前がか? アタックして振られておかしくなったか? やっぱ病院行けよ(笑)」


──通り過ぎて行く三人組の男子生徒達。


「ばっちり『効いてる』ようだね、ホコウちゃんっ」

「よ、良かったです……(ンフー)」

「やった事はエグすぎるけどね」


三人組の中には一人、先程の【下着泥棒】が居たわけだが。

僕らの事はすっかり『忘れて』いるようだ。


「ホコウちゃんが便利な【薬】持ってて助かったよ」

「も、持ってるというか、いつでも『作れる』んですが……」


そう。

彼女はどうやら、ただ単に毘沙ちゃんから送られて来た気弱少女じゃあないらしい。

困った時の『証拠隠滅』係。

ホコウちゃんは薬学? に精通しているのか、恐ろしい薬を容易に作り出せる。

例えば、今回であればあの男子生徒に【記憶消去薬】と【性欲減退薬】をぶち込んだ。

記憶消去薬の方は一粒で『一日の記憶が消せる』らしいので、僕らとの遣り取りを消し飛ばし、

性欲減退薬の方は一粒で『十年無性欲状態』らしいので、今後はおかしな気を起こさなくなる。

後者に至っては、性欲減退なんて名前どころの軽い効果じゃあないけれど……罪はしっかり償って貰おう。


「【自白剤】みたいのも作れるの? それさえあれば『超能力』だかの情報もゲロるでしょ」

「か、可能です……一応、数粒用意しておきます」

「怖い会話する女子二人だなぁ。ま、あの野郎に関してはもう決着ついたんだから、拷問かけたいんなら『次の新たな犯人』相手にしときな」

「情報源がハッキリしてるってのに。アンタを狙ったのよ? これでも全然甘い処分だと思ってるわ」

「は、激しく同意します……」

「別に、僕は怒ってないよ。ま、被害者が自分じゃなく君らだったなら、その作戦にも乗ったけど」


──囮作戦。

今日まで、静かに密かに確実に事件を起こしてきた犯人(達)も僕らのような『強烈な存在』を目にすれば欲望を抑えきれず大胆な行動に出て尻尾を見せるだろう、という作戦。

結果としては成功。

しかし、思った以上に食い付きが良く、今後僕(の持ち物)が手を出される度にこの二人は凶戦士(ベルセルク)となりそうなんで、この作戦は一旦保留。

僕らが誘蛾灯にならない方法を考えるか(対岸の火事)。


「お疲れ様です」


「おわっ。……はぁ、ビックリした。気配消して急に現れないでよ」

「うふふっ、申し訳ございません」


クスクスと笑う女教師さん。

何かと僕らの前にも現れるから、変な事しないよう監視してるんだろう。


「どうです? 学生生活の方は」

「ボチボチだねぇ。若い人達に囲まれると元気が出るよ。テンション上がりすぎて逆に疲れたけど」

「フフッ。では、こちらをお納め下さい」

「んー? 【昆布飴】と【ブルボンのチョコ】ぉ?」

「疲労には塩分と糖分ですよ」

「チョイスが『おばぁちゃん家(ち)』だなぁ。まぁこういう地味スイーツ好きだから良いけど(パクパク)」

「ふふ。では、午後の方も頑張って下さいね」


フワフワと雲のように去って行く女教師さん。

周りの生徒も『誰?』みたいな怪訝な顔をしている。

余程、普段から空気な先生なんだろうなぁ。

不思議な存在感は持ってるけど。


「ん? てか二人とも静かだったね。なんか『萎縮』してたっていうか」

「……気のせいでしょ」

「ななな、何もないですよっ??」


ふーん。

……あ。


「てか気付いたら、お昼の時間も終わりそうだね。んー、午後からは【膝丸】が居てくれたら楽なんだけどなぁ」

「ど、どなたです?」

「……なんでよ。『物騒な事態』でも想定してんの?」

「一応、何があるか分からないからね」

「……はぁ。面倒くさ」


ため息をつく薄縁。

長年の付き合いの膝丸だが、僕は彼女の連絡先を知らず、いつも薄縁に連絡を頼んでいる。

仕事仲間同士の連絡網なんかがあるんだろうなぁ。

──それはそれとして。


「ふとした時にノーパンだったの思い出すよ」

「の、ノー!?」

「いや、なんで履いてないのよ。盗まれてないでしょ」

「野郎が触ったパンツなんざ履けるか」

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