お坊ちゃんなので学校にも行かずツンデレ幼馴染とだらだら同棲してても許される

月浜咲

プロローグ

「うーん……この先で間違い無いの? 崖しかないよ?」


コクリ、膝丸(ひざまる)が頷く。

膝丸は『蜘蛛』である。

普通の小さな蜘蛛とは違い、『バスケットボールほどある』巨大な蜘蛛。

僕の幼馴染でもあるモフモフと可愛い女の子(ヒロイン)。


「登らなきゃダメってこと? はぁ……じゃ、『引き上げて』」


そう告げると、膝丸は軽々とピョンピョン崖を登り始め、あっという間に頂上に。

それから、チョロローとお尻から糸を垂らし、下に居る僕の所まで伸ばしてくれた。


「よっと。いーよー」


ギュルギュル ギュルギュル

糸を掴むと、膝丸は糸を掃除機のコードのように戻し、軽々と僕を引き上げる。

十数年の付き合いで今更だけど、力持ちな蜘蛛だなぁ。

気分はさながら芥川龍之介の【くものいと】のワンシーン。

罪人カンダタがごとく、しがみついてくる他の罪人を蹴り飛ばしたいものだ。


 ……まぁ、膝丸はお釈迦様みたいに期待させといて意地悪く糸を切るような外道じゃないんで、無事、危なげなく、


「ほいっ(タンッ)到着ー。ありがとねっ、膝丸っ」


抱き締めると、彼女はくすぐったそうに複数ある手足をバタつかせる。

夜の空のように深い群青の肌と、宝石のようにキラキラ輝く複眼。

見た目こそ東南アジアに生息する【コバルトブルータランチュラ】っぽいけど、種類は不明。

どうでもいい事だ。

彼女は彼女。

共に成長して来た僕だからこそ、その顔色で彼女の感情も手に取るように解る。

ま、普通に『会話』は出来るんですけどもね。


「ちょっとキューケーしよっか。家出る前に薄縁(うすべり)が作ってくれたオニギリでも食べよっ」


薄縁も、幼馴染の女の子である。

僕の『従者』。

長い付き合いなのは膝丸と変わらないんだけど、昔と違って現在はツンツンしてる気難しい年頃。

今頃、家で僕の帰りを待ってる事だろう。


「朝ご飯を山で食べる事になるとはねぇ……(パクッ)……おっ。刻みシソとゴマをまぶした僕の好きなオニギリだ。中身は生たらこ。分かってるなぁベリは。ハイ、膝丸も」


口元にオニギリを添えると、彼女もパクパク食べ始める。

蜘蛛の餌はよく分からないけど、昔から同じ物を食ってここまで育ってきたんだから何でもええやろ。


「なんだかハイキングみたいになってるなぁ。目的は違うってのに。ま、これはこれで良い気分転換」


カサカサ コポポ……


「ん? あ、リュックに水筒も入ってたんだ。ありがと。(ゴクッ)うーん、冷おにぎりと冷たい麦茶は合うねぇ」


カサカサ ペリペリ


「んー? 蒟蒻ゼリー? デザートかな。君、ホントそれ好きだねーら特にマスカット味。ほら、食べさせたげるよ」


腹ごなしと休憩を終え、ハイキングを再開。


途中、大雨が降ったりしたので膝丸に『岩場』を掘って貰い、簡易洞窟の中で雨宿り。

ジグモという、土に穴を掘って生活し獲物を待ち構える手段の子もいるらしいので、蜘蛛は掘る作業が得意なのかもしれない。(流石に岩を掘れる力持ちは膝丸くらいだが)

昔話には土蜘蛛という源頼光と闘った大妖怪がいるらしいが、膝丸とは関係無いだろう。


すこし歩いた後……ふと、気になるものを見つけたので、足を止めた。


「あ、タンポポかぁ。シッシッ」


カラスが数羽、地面を突いてるなと思ったら、タンポポが襲われていた。

いや、襲われてるって言葉はおかしいな。

何故こんな一輪の花が狙われていたんだろう?

流れでカラスを追い払ってしまった僕。

カァカァと焦ったようにカラス達は飛び立った。

ごめんね。


「もしかして珍しいタンポポとか……あれ?」


見下ろすと、花が咲いていた所には『何もなかった』。

見間違い? いや、ハッキリ見たのになぁ……ま、いいか。


「しっかし……なんだか今の遣り取り、『昔を思い出すね?』」

「……(プイッ)」

「この蜘蛛ったら、恥ずかしがっちゃって。……、……さて、僕らは何しに来たんだっけ?」


すぐに目的を忘れる僕。


「……! (ピュッ)」


すると、膝丸が糸を地面に放った。

そこにはひらがなで、


「『じんじゃ』? あー、そうそう」


神社だ。

頂上にあるらしい【百足神社】を目指してたんだった。

なんでも、その神社にはとびっきりの可愛子ちゃんがいるのだとか。

その為だけに、好奇心だけでこんなハイキングまがいな事をしてたんだった。

美少女……考えられるとしたら、そこの神主さんの娘の巫女さんかな?


「ジュルリ」


好奇心(よだれ)を抑えつつ、僕は頂上を目指した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る