第30話 まだ全て解決していません

王妃様とモリージョ公爵を無事断罪して数日。王都の海も随分と奇麗になって来た。私とノア様を心配したキキやリンリン、オクトたちも王都の海に遊びに来てくれている。


でも、信頼していたばあやと呼ばれる女性が、実はアノ様を裏切っていたなんて。その事を真実の鏡によって明るみになった事で、かなりショックを受けているノア様。自分の手で大切な人を裁かなければいけなかったノア様は、どれほど辛かったか。考えただけで、胸が張り裂けそうになる。


でも、まだばあやと言う人の刑は執行されていない。まだ間に合うはずだ。今日も私はある場所に足を運ぶ。本当の意味で、全てを解決させるために…



数日後

「ノア様。陛下も一緒に出掛けたいのですが、少しお時間を頂いてよろしいでしょうか?」


まだまだ混乱している王宮内。かなりお疲れのノア様に声を掛けた。


「ステファニー、急にどうしたんだい?」


いつもの様にギューッと抱きしめ、頬ずりをするノア様。近々正式に婚約を結ぶ事になっている私達。次期王妃になる予定の私には、王宮から護衛騎士が付けられた。ちなみに護衛騎士たちは全員女性だ。ノア様が男を付けるのは嫌だ、ステファニーの護衛騎士は、全て女にしろ。と、訳の分からない事を言った為だ。


でも、男性に付きまとわれるより、女性がくっ付いていた方がいい為、私としては有り難いんだけれどね。おっと話がそれた。今日はどうしても、2人を連れていきたい場所があるのだ。


「どうしても3人で行きたい場所があるのです!お願いします」


鼻息荒く迫る私に、少し困った顔のノア様。


「分かったよ、ステファニーがそう言うなら、父上に話を付けて来るよ」


そう言うと、陛下に話をしに部屋から出て行った。しばらくすると、陛下を連れて戻って来たのだが…


「ステファニー。陛下は今忙しいんだ。お前のお遊びに付き合っている暇はない!」


なぜかお父様までやって来たのだ。今回の件で、お父様は伯爵から一気に公爵まで上がる事が決まった。異例の出世である。


「お父様は黙っていて。とにかく陛下、ノア様、行きましょう」


陛下とノア様の腕を掴んで歩き出した私に


「こら、ステファニー。お前だけだと心配だ。私も行く」


なぜかお父様まで付いて来る事に。本当に面倒なお父様ね。その時、なぜかノア様に抱きかかえられた。なぜ抱きかかえられたのか、全く理解できない。


「ノア様…どうして私を抱っこするのですか?」


「君が僕以外の男性に触れたからね。たとえ父上でも、君に触れてほしくないんだよ」


にっこり笑ってそう言ったノア様。もしかして、陛下に嫉妬したの?嘘でしょう…


「すまん、ステファニー嬢、ノアはどうやら私に似て、嫉妬深い様だ…」


申し訳なさそうに謝る陛下。お父様も複雑な顔をしている。結局ノア様に抱っこされたまま、私が準備した馬車に乗り込む。


「ステファニー、一体どこに行くのだい?」


「秘密ですわ。着いてからのお楽しみです」


馬車はどんどん進み、ついに王都の外れの小さな港の街にやって来た。


「おいステファニー、一体陛下とノア殿下をどこに連れて行くつもりだ」


向いでギャーギャー文句を言うお父様。相変わらずオクトの様に、真っ赤な顔をして怒っている。


「そんなに大きな声を出さなくても聞こえていますわ。もう着きますから。ほら、着きましたわ。さあ、降りましょう」


1軒の小さな家の前で馬車が停まった。


「ステファニー、ここは一体…」


不思議そうに馬車から降りて来た3人。


「少し待っていて下さいますか?」


3人を待たせ、1人家の中に入って行く。


「皆様、お待たせいたしました。どうぞ中にお入り下さい」


私の言葉を聞き、警戒しながら中に入って行く3人。そこで待っていたのは…


「メーア…メーアなのか?」


美しい金色の髪を腰まで伸ばした女性。彼女こそが、ノア様の母親で元王妃のメーア様だ。


「陛下、ご無沙汰しております。あなたが、ノアなのね…今までずっと会いに行かずに、ごめんなさい」


ポロポロと涙を流すメーア様。そんなメーア様を、思いっきり抱きしめる陛下。ノア様は状況がつかめない様で、目を丸くして固まっている。お父様は…省略しよう。


「メーア、生きていたのなら、どうしてすぐに教えてくれなかったのだ。私がどれほど君を探し求めていたか」


「申し訳ございません、陛下。あの日、私はいつもの様に海に行きました。その時、セアラに突き落とされたのです。とっさにドレスを脱ぎ、何とか岸に上がりました。でも、このまま私が王宮に帰ったら、きっと私を突き落としたセアラが裁かれてしまう。そう思ったら、どうしても帰れなかったのです。セアラは、私にとって歳の離れた姉の様な存在。そんな彼女を、私は守りたかったのです。その後、たまたま出会った親切な女性の手を借り、ここに移り住みました。ノアが心配で、何度も王宮に戻ろうと思いました。でも…陛下は既にモリージョ公爵家の令嬢と再婚し、幸せに暮らしていると聞き、王宮に戻るのを諦めたのです」


涙ながらに話すメーア様。彼女は彼女なりの葛藤があったのだ。


「そんな中、ステファニーちゃんが私を訪ねて来たのです。現王妃やモリージョ公爵が捕まった事、セアラがノアを殺害しようとした事、その他色々と聞きました。ノアが母親がいない事で、ずっと寂しい思いをしていた事も。でも、陛下やノアが苦しんでいる時に、1人のうのうとこの場所で生きて来た私が、どんな顔をしてあなた達に会えばいいのか、そう思ったら、中々決心がつかなくて…それでも何度も何度も足を運んでくれるステファニーちゃんを見ていたら、やっとあなたたちに会う決心がついたのです。もちろん、王宮に戻りたいだなんて、そんな図々しい事は考えていませんわ。ノアや陛下の顔が見られただけで、私は幸せですから」


そう言って泣きながら笑ったメーア様。彼女も王妃やモリージョ公爵に人生を狂わされた1人だ。そう考えると、本当にあの2人は罪深い。


ふとノア様の方を見ると、口を開けて固まっている。全くこの人は…


「ノア様、あなたの本当のお母様ですよ。どうか抱きしめてあげて下さい」


固まるノア様の背中を押した。ゆっくり歩いて行くノア様。そして包み込むように優しくメーア様を抱きしめた。メーア様も、ノア様を優しく抱きしめる。


「あなたが僕の母上なのですね…ずっと…ずっと会いたかったです」


「ノア、こんなに大きくなって。側にいてあげられなくてごめんなさい。ずっと寂しい思いをさせてごめんなさい。でも、あなたの事を忘れた事は一度も無かったわ。こうやってあなたを抱きしめる事が出来るなんて、本当に夢みたい…ありがとう、ノア」


2人の瞳からポロポロと涙が流れる。陛下も泣いていた。よかったわ。本当に良かった。

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