第13話 ステファニー嬢は物凄く可愛い~ノア視点~

ステファニー嬢の姿が頭から離れず、1人悶々としていると、メイドが呼びに来た。どうやら夕ご飯の時間になった様だ。早速食堂に案内される。


目の前には色とりどりの料理たちが並ぶ。でも、もし毒が入っていたらどうしよう…ホテルでは食欲がないと言って食事を摂らず、こっそり抜け出し街で食料を調達して食べた。今回もそうするか。そんな事を考えていると、伯爵が心配そうな顔で僕が食事に手を付けない事を聞いて来た。


「殿下、どうされましたか?何かお気に召さないものでもありましたか?」


昨日までの様に食欲がないと言おうか、そう思ったが、ステファニー嬢の真っすぐ僕を見つめる瞳に気が付いた。もし僕が毒を警戒して食べないと言ったら、どんな反応を示すだろう。そんな思いから、つい


「いいや…素晴らしい料理だと思う。でも、悪いが食べられない。万が一毒でも入っていたら大変だからね」


そう答えた。すると見る見る顔が赤くなり、明らかに怒っている表情をしているステファニー嬢。この子、思ったことが顔に出すぎだろう…駄目だ、笑いが…さすがにここで笑う訳にはいかない。


急いで席を立とうとしたのだが、ステファニー嬢に止められた。ふと彼女の顔を見ると、既に冷静な顔に戻っていた。そして何を思ったのか、僕の料理を自分のフォークで1口食べ


「ほら、毒など入っていないでしょう?では、殿下も1口どうぞ」


そう言って僕の口に料理を放り込もうとしたのだ。それも可愛らしい笑顔を向けて。クソ、可愛い…可愛すぎる…でも、このまま素直に食べるのもな…そうだ、ちょっとからかったらどんな反応を示すだろう。そう思い、そのまま彼女の口に料理を放り込み、フォークを奪うと、丁寧にフォークをふき取り料理を食べ始めた。


口をポカンと開けて固まっているステファニー嬢。本当に彼女は感情を隠さないのだろう。少し間抜けなその姿もまた可愛いのだが…


調子に乗った僕は残りの料理も毒見してもらう様に、ステファニー嬢に頼んだ。我に返ったステファニー嬢は、僕が料理を食べた事が嬉しかったのか、今度は嬉しそうに料理を口に入れた。


その瞬間、またフォークを奪い取り、入念にふき取った。そんな僕を見て、伯爵が新しいフォークに替えると言ってくれたが


「気を使ってくれてありがとう、伯爵。でも、新しいフォークは毒が塗られているかもしれないから…ステファニー嬢がベロベロ舐めたフォークなら、多少汚いが毒は付いていない。これを拭いて使うよ」


そう答えておいた。別にステファニー嬢が使ったフォークが汚いとはこれっぽっちも思っていない。むしろ僕がベロベロしたいくらいだ。でも、ちょっと意地悪な事を言ったら、ステファニー嬢がどう反応するのか見たかったのだ。


すると案の定、顔を真っ赤にして怒っている。予想通りの展開に、つい笑いが込み上げて来た。怒りが中々冷めないステファニー嬢に再び毒見を頼むと、案の定拒否された。でも


「それじゃあ、僕はこれ以上料理は食べられないな…せっかくの料理なのに、残念だ…」


そう言って悲しそうに俯くと、僕の料理を黙々と毒見し始めたステファニー嬢。やっぱり僕の想像通り、彼女は優しい子だ。そう確信した瞬間だった。その後もステファニー嬢をからかいつつ、楽しい時間を過ごした。


こんなに楽しい食事は初めてだ。王宮ではほぼ1人で食事をしていた。たまに父上が一緒に食べてくれたこともあったが、それでもこんなに楽しいと感じた事はなかった。これからは、彼女と一緒にこうやって食事が出来る、そう思っただけで、胸が高鳴った。


ただ、きっと僕は彼女に嫌われているだろう。なぜなら、彼女をからかって楽しんでいたから。それでも後悔はしていない。たとえ嫌われていたとしても、僕に構ってくれるのだから。無視され、いないものとして扱われるよりかはずっといい…


楽しい食事を終え、一旦部屋に戻って来た。そして眠る支度をしてベッドに入る。今日は楽しかったな。あぁ、早くステファニー嬢に会いたい。早く明日にならないかな…


そんな思いを抱きながら眠りに付いた。


翌日

いつもの様に朝早く起きて稽古に励む。有難い事に、伯爵が僕の為に優秀な教育係を付けてくれたのだ。さらに護衛騎士たちも付いている。朝の稽古を終え、自室で汗を洗い流した時だった。


急に伯爵が訪ねて来て、これから急遽王都に帰る事になったとの事。


「万が一ステファニーが無礼を働いたら、すぐに手紙を下さい。叱りに来ますので。殿下の側にいられず、申し訳ございません。それでは」


そう言い残し、急いで去って行った伯爵。どうやら今日からこの屋敷には、僕とステファニー嬢しかいない様だ。なんだかワクワクして来たぞ。急いで食堂に向かい、今日も毒見を依頼する。


嫌な顔一つせず、毒見をしてくれるステファニー嬢。そしてあろう事か、僕を海に誘って来たのだ。海…正直海には行きたくない。そんな思いから断ろうとしたのだが…


「それでは、また後程殿下の部屋に迎えに行きますわね。ごきげんよう」


そう言い残し、スタスタと食堂を出て行ってしまった。どうしよう…海か…でも、ステファニー嬢と一緒なら、楽しいかもしれない。でももしかしたら、ステファニー嬢も王妃の仲間で、暗殺者だったら…いいや、彼女はそんな子ではないはずだ!だって彼女は人魚なのだから。


それに、そんな悪い子には見えない。そうだ、人魚かどうか確かめるいい機会かもしれない。行ってみよう。そう決意し、自室に戻った。すると、早速僕の部屋を訪ねて来たステファニー嬢。


ノックと同時に物凄い勢いで入って来て、「この服を着て下さい」と、鼻息荒く迫って来たのだ。あまりにも嬉しそうに僕に詰め寄るので、つい


「ステファニー嬢は、そんなに僕の裸が見たいのかい?」


そう言って、からかってしまった。すると、見る見る顔が赤くなり、物凄い勢いで出て行った。ちょっとからかったつもりだったのだが、予想以上の反応に、つい笑みがこぼれる。急いで着替えを済ませ部屋の外に出ると、まだ頬を赤らめて大人しく待っているステファニー嬢の姿が。


この子、やっぱり可愛いな。ついからかってしまう。僕もまだまだ子供だな、好きな子をからかって喜んでいるなんて。そう思いつつ、海へと向かった。さあ、いよいよステファニー嬢が本当に人魚かどうかが明らかになるぞ。


高鳴る鼓動を抑え、必死に冷静を装うノアであった。

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